【ファンタジー小説部門】ぜんぶ、佐野くんのせい(第16話)#創作大賞2024
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「ちゃんと先輩に謝りたいです」
丈太郎はすがるような目で片桐を見る。
「友達からの謝罪じゃなきゃ受け入れられないって言うなら、友達になってもらいたいです。あっ。でも、俺の後ろに先輩を苦しめるような『背景』があるんなら、無理にとは言いません」
強く打ちすぎた頬が熱を帯びてきている。まだ打ち続けているような感覚が残っている。
「先輩……。本当は友達、欲しいんですよね?」
片桐はまっすぐに丈太郎を見つめ、やがて視線をハンカチを握りしめた自分の手に落とした。口を開くまでには時間がかかった。
「もう、自分でもよく分からない」
短い沈黙。
「ちなみに、俺の『背景』ってどうなってるんですか?」
意外な問いかけをされたとでも言うように、片桐は目を丸くした。
「先輩を嫌な気持ちにさせるもの、憑いてますか?」
「えっと……」
「俺の肌感なんですけど、先輩って俺に懐いてますよね」
「は?!」
年上に向かって懐いてるってなんだよ! と頬を赤らめながら、片桐は声を強くする。
「怒んないでくださいよ。なんか、これ勘違いじゃないと思うんですけど、他の部員と喋ってるときより、俺と喋ってるときはリラックスしてるっていうか、楽しそうっていうか。もちろん分け隔てなく先輩はいつだってみんなに平等ですけどね。でも、そういう肌感っていうんですかね。俺、感じるんですよ。肌で」
何回肌って言うんだよ! と突っ込みながら、片桐は恥ずかしそうに俯いた。丈太郎は構わず続ける。
「動物の想いが分かるようになったこともそうですけど、俺って、先輩もご存知の通り、フォト垢のフォロワーも多いし、みんな温かいコメントくれるし、最近なんてH高の山本さんにもフォローされちゃうし、なんか道歩いてるだけでみんなにニッコリ微笑んでもらえるし、そうそう! こないだなんて市民公園のバラに心の中で可愛いねって言ったら、フワーって芳香剤みたいないい香りが鼻のあたりにまとわりついてきたんですよ。ねえ、どうなんですかね? 俺の『背景』」
「さあ……」
「さあってなんですか! 知ってるんでしょ? 教えてくださいよ」
丈太郎は期待満々の顔で片桐に身体を近づける。心の中で密かに思っていた。俺に憑いているのはきっと、元人間とか元動物じゃなく、生まれついての誉れ高き神だ。
丈太郎が視線を逸らしてくれないことに耐えられなくなった片桐は、観念したように口を開く。
「君は特殊。ただただ特殊」
「答えになってませんって」
「見えないんだ。なにも。光の膜に全部覆い隠されている。僕の人生において初めての人間」
「そうなんですか?」
「だからなのかもしれない。僕が君に懐いてるの」
片桐は「懐いてる」のところだけわざと強調して言った。
「じゃあその光の膜を取っ払ったら、見えるんですか?」
「そんなことは不可能だよ。光の膜がないのは死人だけだもの。とにかく君の光は異常。一時期、君の半径三メートル範囲が光で覆われていた時があったけど、あの時は周りにいる人間がみんなポーっとしてたな」
え、じゃあ本気の本気で、俺って神なんじゃ……。丈太郎は気分が良くなり、鼓動が高鳴った。隣で片桐が上体を僅かに反らす。
しばらくどちらも口を開かなかった。気がつくとゾウの滑り台近くにいた高校生たちはいなくなっている。街灯の灯りが灯った。ポテト、冷めちゃったな……と言いながら、丈太郎はシオシオになったポテトを機械的に口に運んだ。隣では片桐がアイスティーをゆっくり喉に流し込んでいる。
「小芝井、そろそろ帰ろうか」
先に口を開いたのは片桐だった。
「そうですね」
と丈太郎。
「でも、小芝井じゃなくて、丈太郎でいいですよ。ジョウでもいいし。そのほうが距離感なくていいじゃないですか。親友みたいで」
あっ! 先輩は親友とか作らない主義でしたね。と丈太郎は急に恥ずかしくなって耳の後ろをポリポリと掻いた。
片桐は答えてくれない。
「あの、先輩?」
丈太郎は首を傾げて片桐を覗き見る。また目尻を濡らしている。この人、やけに涙腺緩いな。
「だってほら、俺は先輩にとって唯一『背景』が分からない特殊な人間でしょ? それって無害ってことですよね。なら親友になっても問題ないってことですよね?」
「うん……」
片桐は顔を背けたまま立ち上がると、歩き出した。
丈太郎は慌てて後を追う。
「でも、俺は紘也っては呼びませんよ」
「呼ばなくていい!」
「ねえ、先輩!」
「なんかすごく疲れた。バイバイ、丈太郎!」
言うが早いか、片桐は駆け出した。丈太郎は追いかけたが、あっという間に距離を離された。西日に照らされ徐々に小さくなってゆく片桐の後ろ姿が、いつもより軽やかに躍動しているように見えた。
丈太郎は突き動かされるようにスマホカメラを構える。心の中で、親友記念に! と呟いていた自分に気づき、「うわぁー恥ずかしっ!」と今度は声に出して言った。
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