妖精壁野魔子とハッピーラブストーリー
三郎は、アパートの自分の部屋で白い壁に背をつけてぼーと天井を見ていた
失業したのに次の仕事が見つからなくて困っていた。
今月分の家賃も払えない状況だった。
このままではアパートを追い出されて、ホームレスになってしまう。
その時、誰かが右肩を叩いた。
三郎は、ゆっくりと右肩を見た。
すると誰かの右手が、彼の右肩を叩いているのだ。
思わず立ち上がって振り向くと、人の手が壁から出てきていた。
三郎は絶句した。
三郎は、すぐに警察に電話した。
しばらくすると、警察官が二人来たので、壁から手が出てきたことを話した。
その時には、手は出ていなかった。
事件かもしれないので、警察関係者が壁やアパートの部屋やアパート周辺を詳しく調べたが、何も出てこなかった。
アパートの大家さんが、警察に質問されていた。
「いやうちのアパートでは事件や事故はありません。幽霊が出るようなこともありません」
60代の大家の男性は、三郎の方を心配そうに見て言った。
「あなたの気のせいじゃありませんか。きっと疲れているんですよ」
大家はそう言うと帰って行った。
警察も帰った。
夜になったので、三郎も寝ることにした。
すると、またあの手が壁から出てきた。
「もう何なんだよ。出たり消えたりしてあなたは」
三郎は、恐怖よりもいらだちを感じていた。
その手は、お金を持っていた。
「よくわからないけれど、とにかくありがとう。これで家賃が払える」
三郎は、翌日家賃を大家さんに払った。
その後、派遣会社からの仕事も入り、何とか失業状態から脱することができた。
「君に本当に感謝するよ。ありがとう」
その日から三郎と右手との共同生活が始まった。
右手はメモを書いて手渡すようになった。
三郎が体調が悪い時には、休むようにアドバイスした。
「そんなことをしたら首になるよ」と言うと、
そんな会社は辞めてしまえとメモを渡すのだ。
「君にはいつも助けてもらってばかりで感謝しているよ。でもなあ、非正規の仕事で生活は安定しない。もう中年なのに彼女もいない。結婚したいけれど、貧乏じゃ無理だよな。どうすればいいと思う」
右手が、すっとメモを手渡した。
私の手を引っ張りなさい。
メモには、そう書かれていた。
三郎は右手を握ると、ぐっと引いた。
すると、壁の中から若くて美しい女性が現れた。
「こんにちは。妖精の壁野魔子よ。よろしくね」
「何だこれは、童話の世界じゃないか。まあ、いいか」
魔子は妖精だったが、普通の女性と少しも変わらなかった。
三郎と魔子は、恋に落ちるとすぐに結婚した。
やがて女の子が生まれ、可子と名付けられた。
三郎達三人は、貧乏でも幸せだった。
三郎は、時々呟くのだ。
「もし妻子が、壁の世界に帰ってしまったらどうしようか」
【終わり】
新未来世界からこんにちは第8話気分はもう未来人|萩武
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