占い師天童美沙の微笑み返し
ある高級マンションの一室。
金色の椅子に腰かけてテーブル上の水晶玉を見つめている女性がいた。
その女性は、まさに天女のようであった。
占い師天童美沙のことである。
溜息の出るような美貌の持ち主で、見た目は若いが年齢はわからない。
紫色の服を着ており、高貴なイメージに包まれていた。
「日美香、今日のお客様はどなたかしら」
その言葉には、天性の品の良さが溢れていた。
「はい、私の知り合いです。ストーカーに悩んでいるとのことでございます」
妹分の日美香が、軽く頭を下げながら言葉を発した。
日美香と呼ばれた若くて美しい女性は、美沙の秘書的な存在のようであった。
美沙は、テーブル上の水晶玉をじっと見つめて言った。
「お通ししなさい」
日美香と一緒に現れたのは20代前半の女性であった。
「鈴木圭子と申します」
その女性は、かなり緊張しているようであった。
「お悩み事は何でしょうか?」
美沙は、相手の言うことはある程度わかっていた。
「はい、今ストーカーに悩んでいます。私はデパートの受付嬢として勤務しているのですが、そこに二人の男達がよくやってくるのです」
「それで、どうしたのかしら」
「向かいの席に座って私をずっと凝視し続けるのです。もう気味が悪くって気が変になりそうなんです。上司に相談して注意してもらったのですが、何も悪さをしていないので警察も対応できないようなのです」
「私がぶっ飛ばしてやろうかと思ったのですが、彼女が恨まれると困りますし、根本的な解決にはならないと思ったものですから、美沙姉様にご相談するようにアドバイスしたのでございます」
「なるほどね。よくわかりましたわ。そのお悩み解決させて頂きますわ」
「あの料金とかはどうなっているのでしょうか」
「心配しなくてもよろしいですわ。そんなに高い料金ではありませんわよ。お金持ちのご依頼者様達からたくさん頂いておりますから、お金には不自由しておりませんのよ」
鈴木圭子は、美沙と日美香に一礼すると、「失礼致します」と言って部屋から出て行った。
翌日Kデパートの受付嬢として勤務している鈴木圭子の向かいの席に、サラリーマン風の男達が二人座ると、無言のまま圭子をジトッと凝視し始めた。
圭子が動揺しているのを、二人の男達は、無言で楽しんでいるようであった。
その時、突然天童美沙が現れて不気味に微笑すると、「微笑み返し」と呟いて右手をさっと振った。
次の瞬間、二人の男達は、白目になって崩れ落ちるようにして膝をついて倒れた。
美沙の姿は、もうなかった。
二人の男達は、救急車で病院に運ばれたが、気を失っただけらしい。
数日後、鈴木圭子が美沙に礼を言うためにやってきた。
「本当にありがとうございました。あれ以来ストーカー達は、現れなくなりました。何とお礼を言っていいのかわかりません」
「微笑み返しの術で、ちょっと邪気を払っただけですのよ。もう二度と現れることはないと思いますわ」
美沙は、無邪気に微笑んでみせた。
「あの、こんなことを言っていいのかわかりませんけれど、美沙さんは魔女なのですか?」
鈴木圭子は、ストレートに疑問をぶつけた。
「ほほほ、魔女っていい響きですわね。私眠りたくなったので失礼致しますわ。それではお休みなさい」
美沙は、それだけ言うと、自分の部屋へ帰っていった。
鈴木圭子は、不思議な感情を抱えたまま帰ることにした。
【終わり】
新未来世界からこんにちは第5話|萩武
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