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【ショートショート】天使はBARにいる。第2話〜白い甘さと本音トーク〜/短編小説/3分読書/ほろ酔い文学


扉を開けたら、天使がカウンターで居眠りを
していた。


「・・営業中ですか」


「してる」

目も開けずに答えた。


「うるさいから起きてた」

「寝てましたよね」

「霊的なまどろみよ」

私は少し呆れて、とりあえず椅子に座った。

「何飲む」

「・・なんでもいいです」

「それ、一番困る」

彼女はしぶしぶ立ち上がり、棚を眺めた。

ずらりと並ぶボトルの中から、白いものを
一本、迷いなく抜いた。

「ホワイトデーだから」

「・・それ、理由になってますか」

「なってる」

グラスに注がれた。一口飲む。
甘くて、後味だけが静かに鋭かった。

しばらく、沈黙が続いた。
ランタンが、紫の光の中でゆらゆらと
嗤っている。


「今日、人を待ってたんです」と私は言った。

「来なかった・・三時間待ったのに」

「ふうん」

それだけだった。何も訊かない。

「最低だと思いませんか」

「思う」

「でしょ」

「あなたも含めて」

「・・は?」

彼女はグラスを磨きながら、こちらを見なかった。

「三時間、何を考えてたの」

「彼のことを」

「本当に?」

「・・・・」

「待ってる自分のことも、好きだったんじゃ
ないの」

____刺さった。

「好きな人を想う自分。健気に待つ自分。
ちゃんと傷つける自分。」

彼女は静かに続けた。

「そういうの、悪くないと思ってたでしょ」

「・・最低だ」

「ほんとうに」

即答だった。でも声に、棘がなかった。


二杯目が、黙って置かれた。私は飲んだ。
また甘くて、鋭い。

「彼のことは、好きですよ」

「知ってる」

「待ってる自分のことも、たぶん好きでした」

「知ってる」

「どっちが本当かって、訊かないんですか」

「どっちも本当でしょ」と彼女は言った。

「人間ってそういうもんじゃないの。知らない
けど」

グラスが空いた。

立ち上がると、天使はもう背を向けていた。


「これ、なんだったんですか」


「ホワイトチョコレートのリキュール」

振り返りもせずに答えた。

私は少し、固まった。

「・・バレンタインに、ホワイトチョコを渡したんです」

「知ってる」

「なんで、それを」

「ずっと誰かにあげてばかりだったんでしょ。
その甘さ。自分が一番欲しかったくせに」


_____それだけだった。

店を出ると、三月の夜風が頰に触れた。

振り返ったが、もう店の場所がわからなかった。

ただ、白い甘さだけがまだ舌の上に残っていた。

私がバレンタインに包んだのと、きっと同じ
味だと思う。


その時、コートのポケットの中で携帯が震えた。

______彼からだった。







おわり。


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