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逐次通訳者が手書きで取るメモの話

通訳、なかでも逐次通訳の仕事において、通常、メモ取りは必須です。

必須ではありますが、それら手書きメモはあくまで逐次通訳という作業の補助的ツールであって、本質的部分ではありません。

その証拠に、通訳学習の初期段階では「1文ずつ、メモを取らずに逐次通訳する」スタイルで基礎訓練するのが普通です。

また、仕事としての逐次通訳の中でも、例えば(会議室ではなく)工場内や野外などの現場を移動しながら通訳する場合は、まとまったメモを取りながらの通訳は物理的に困難ですから、手元のメモパッドに数字や固有名詞など最低限のキーワードだけを書き取りつつ、話者にはなるべく短く切って話してもらうことで乗り切る形になります。

ただ、それ以外の逐次通訳の場においては:
話者がひとかたまり(以下、「1塊」という)を話す間に、通訳者はその発話内容をターゲット言語に転換する際の助けとなる情報を手元でメモし、1塊の発話が終わり次第、その内容をターゲット言語に転換して再生する、ことになります。
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本題に入ります。

話者が1塊を話す間に逐次通訳者がその発話内容をメモに取る際には、国会の議場で速記者さんがされているような「一字一句を漏らさないレベルの速記」をしている、と思っておられるかたも多いのですが、全く違います。

冒頭でも述べたとおり、通訳学習の初期段階では「1文づつ、メモを取らずに逐次通訳する」という形の基礎訓練が主流です。

通訳の基礎訓練から「メモ取り」が抜けている、ということはつまり、通訳という作業の核心部分はメモ取りを含まない、ということです。

言い換えると、通訳という作業において、メモ取りはあくまでも補助的部分に過ぎないということになります。
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では、逐次通訳者が取ったメモは、具体的にどのような補助的機能を果たしているのか。

それを一言で言うと,逐次通訳作業を助ける「道標」だと僕は考えています。

通訳をしているとき僕の脳内で起こっていることは、以下にリンクを貼る過去記事で詳説したとおりですが、同記事中で定式化した「(通訳コミュニケーションの)単位フロー」の一部である「C2→E2」の工程を逐次通訳者がおこなう際の「道しるべ」、つまり道標が手書きメモである、ということです。

この記事をまだお読みただいていない各位のために「C2→E2」工程を敷衍して記述すると、以下のようになります:

「話者による1塊の表現(E1)を通訳者が即時に自分なりに解釈して脳内に形成した概念(C2)を、通訳者自身が持つ知識・経験の助けを借りながら、ターゲット言語に転換して聴き手に対し表現(E2)する。」

逐次通訳の場合は、上記記述中の「通訳者自身が持つ知識・経験」のなかで最大・最強・最新のものが、通訳者がE1を聴きながら手元で書き留めたメモであるわけです。
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では、その手書きメモはどんなもので構成されているのか。

逐次通訳のメモは、速記つまり「話者の発話の精密再生用マップ」とは本質的に異なり、前述の「C2→E2」工程を「的確に、円滑に、洩れなく」おこなうための助けとなる重要情報をできるだけ簡潔に手書きしたものに過ぎません。

それら重要情報は、ざっくり以下の4つのカテゴリに分けられると考えます。
なお、各カテゴリごとに、それに属する情報をどんな形態で書き留めるのかも付記します。

1. 数値、単位、算法/公式、時間情報、固有名詞などの特定情報:(形態)略記できるものはその場で略記法を考案して略記。数値や時間情報などの略記できないものはそのまま書き留める。

2. 一般名詞:(形態)頻出するものについては、自作の略記、記号、符号、図形を使う。

3. 接続詞、前置詞、形容詞、副詞、動詞:(形態)一般的または頻出するものについては、自作の記号、符号、図形を使う。

4. 上記3に列挙した品詞では表現できない、文脈、論理展開、関係性、区切りを示す情報:(形態)主に自作の図形や記号で表現するが、必要に応じて言葉も使う。なお、発話内容に並列的な論点が複数あり、それらを整理したいときは、数字で番号を付ける。

上記のカテゴリ2,3,4各々の記載項目の具体例、ならびに、それら具体例に僕自身が適用している自作の略記、記号、符号、図形の手書き画像を本稿に挿入することも考えたのですが、無断利用・無断転載の可能性をパートナーに指摘されましたので、今のところは控えさせていただきます。
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それら自作した汎用の略記、記号、符号、図形で、僕が実際に逐次通訳のメモに使っているものは決して多くはなく、現在150個強です(今後、大幅に増えることも無さそうです)。

僕がこれまでに仕事として日⇔英通訳をした回数は1300回以上(1件が複数日にわたる場合は1日=1回として計算。うち85%超が逐次通訳)に達していることに鑑みると、上記「150個強」はかなり少ないとも言えますが、これは結局のところ、逐次通訳者が取るメモは逐次通訳作業の補助的ツールでしかなく、(議事録のベースとなる)「一字一句を漏らさない速記」とは本質的に異なるからだと考えられます。

実際、逐次通訳の仕事が終わったあとで、その通訳作業中に自分が取った手書きメモを見返しながら完璧な議事録を作れ、と言われたとしても、その手書きメモは要するに略記、記号、符号、図形の羅列に過ぎませんから、よほど超人的な記憶力の持ち主でないかぎり、そのような対応は困難です。

つまり、逐次通訳時のメモは議事録のベースとして使えるものではないということです。

議事録作成用の速記の仕事においては、速記した書面そのものが速記者の仕事の成果物となりますが、一方、逐次通訳者が取るメモはあくまで通訳作業を助ける「道標」でしかなく、通訳作業の終了と同時にその価値は消えます。

通訳者の仕事の唯一の成果物は、話者の発話内容を(逐次通訳の場合は1塊ごとにストップしてもらって、同時通訳の場合はわずかなタイムラグを置いたセミ同時並行で)ターゲット言語に転換して表現した音声そのものであり、このほかに成果物はありません。
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最後に、逐次通訳でメモを取る際の用紙の使い方に少し触れます。

よく推奨されるスタイルは:
メモ用紙の左上隅からメモを書き始め、話者の発話内容の展開に対応するかたちで段階的に斜め右下へとメモを書き連ねていく、というもので、階段状になったメモが用紙の右下隅に達してしまったら、新しい用紙に取り換えて同じことを繰り返します。

上記がたぶん最も合理的なスタイルだろうと僕自身も思うのですが、実際には長年の習慣をなかなか変えられず、以下のように使っています:

A4用紙を縦長に置き、縦に2等分する。
→左半分の上端から書き始め、下端に達したら右半分の上端に移る。
→右半分の下端に達したら、用紙を裏返して同じことをする。
→裏面も使い切ったら、新しい用紙に取り換える。

以上、長い記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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