【短編ホラー集】怪忌26.深夜のドライブ3/E地方・伊吹市で発生した33の怪忌とその結末
E地方・伊吹市で発生した33の怪忌とその結末
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26.深夜のドライブ3
《──さて、放送時間も残りわずか。今夜も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。『百瀬桃子のハートウォーミング怪談ナイト』、お相手は、百瀬桃子でした。それではまた来週この時間にお会いしましょう。おやすみなさい》
ホラー番組に似つかわしくないハートフルなエンディング曲が流れたあと、時報が鳴り、深夜一時を告げる。ラジオの深夜放送はお笑い芸人のトーク番組に変わった。朱理はラジオを消し、大きくため息をついた。
「──さっきからなに言ってるのかわかんないんだけどさ」
朱理は、希美に向かって不快感をあらわにする。
初めのうちは和やかだったこの深夜のドライブも、日付が変わった頃から不穏な空気が漂い始めていた。
それは、希美のこれまでの人生と似ていた。
高校へ入学した頃までは、たくさんの友達に囲まれ、楽しく過ごしていた。しかし、高校二年に進級したあたりから、その関係が変わっていった。
そして、大学の卒業を間近に控えた今、希美はどうしようもない孤独の中にいる。もう、楓や裕太や汐音、舞や彩愛や直人に会っても、あの頃のように心から笑うことはできない。それは間違いなく、幼馴染の歩希が希美から離れて行ったことがきっかけであり、その原因を作ったのは朱理だ。
生まれた頃から家族同然に過ごしてきた希美と歩希。子どもの頃はいつも一緒だった。お互いの家に頻繁に行き来し、二階の部屋の窓越しにお話をして、怖いところへ行くときは必ず手を繋いでくれて、時に身を挺して希美を守ってくれた。中学に進むと歩希は希美と一緒にいることを恥ずかしがるようになったが、それでも心は繋がっていたと思う。
だが、朱理が転校して来て、全てが変わった。歩希の心は希美を離れ、朱理の方に向いてしまった。もう、お互いの家を行き来することも、窓越しにお話をすることも、手を繋いでくれることも、身を挺して守ってくれることもない。希美と歩希の心は、もう繋がっていないのだ。
「──でもさ、それって、あたしが悪いの? あたしが歩希と付き合っちゃいけないって、誰が決めたのよ?」
朱理は、自分は何も悪いことなどしていないという気持ちをあらわに話す。
「希美、歩希に告白とかしたの? 好きな気持ちを伝えた? ちゃんと交際を申し込んだの? してないでしょ。歩希と絆があるって一方的に思い込んでただけじゃない。あたしは、歩希に振り向いてもらうために努力したつもりだし、ちゃんと気持ちも伝えた。何もしなかったのは希美なのに、それをあたしが誘惑して奪い取ったみたいに言わないでくれる? さすがに不愉快だから」
そう言い捨て、朱理は不機嫌な顔で窓の外に目を向けた。かなり山深いところまで来た。眼下には伊吹市の街並みが広がっているはずだが、木々に視界を阻まれているのだろうか、そこは暗黒が広がっているだけだ。
朱理の言うことに、希美は反論しない。彼女の言うことはもっともなのだ。あの頃、希美が歩希に対して何もしなかったのは間違いない。二人の間に絆がある事を信じて疑わなかったし、歩希と朱理が交際をはじめても、すぐに破局して、結局歩希は自分の元に戻ってくると信じていた。そんな甘えたことを考えていた昔の自分を、ひっぱたいてやりたいと思うこともある。一般的に考えれば、朱理はなにも悪くない。全て、彼女の言う通りだ。
それでも、納得はできない。許せないと思うことも多々ある。理屈ではない。感情的な話でもない。もっとずっと、心の奥深いところで、希美は朱理のことを受け入れることができない。嫌悪、と言っていいかもしれない。
ポーン、と、カーナビが鳴った。
《この先、あなたたちの終着点です》
聞きなれない音声案内に、朱理が窓の外からカーナビに目を向けた。
「……なに? 今の?」
「ああ、気にしないで。このカーナビ、なんかちょっと前から、調子が悪いのよ」
「……ふうん」
朱理は、ま、別にいいけど、というような顔をした後、思い出したように言う。「それで? ずっと訊きたかったんだけど、これ、どこに向かってるの?」
「高里山の、底なし沼って呼ばれてる池」
希美が行先を告げると、朱理は、「それ、どこだっけ? なんか聞いたことがあるような気がするけど」と、首を捻った。
「高二の時、野外生物学実習で生態系調査したところだよ。覚えてない?」
「うーん、どうだったかな?」
朱理は興味なさ気な口調で言った。とぼけているのか、あるいは本当に忘れているのか、どちらにしても、その言葉に希美の心の奥底の嫌悪感はさらに膨らむ。その場所は、朱理に対するこの気持ちが芽生えた場所。そのきっかけとなったあの出来事。それらを忘れたようにふるまう、あるいは本当に忘れている朱理を、許すことができない。
だから、深夜、人里離れた山の奥深くに向かっている理由を告げる。
「朱理が、『死体を隠すのにちょうど良さそう』って言ったところだよ」
「…………」
朱理は、ゆっくりと振り返り、後部座席に目を向けた。
後部座席のシートには、朱理を乗せる前にホームセンターで買っておいた物がある。高性能の懐中電灯、ブルーシート、ガムテープ、折り畳み式の台車、ロープ、そして、庭から持ってきた大きな石をいくつか。それらを、無造作に置いてある。
朱理は視線を前に戻した。
「……そんなこと言ったっけ?」
希美は、それ以上はもう何も言わず、車を走らせる。
ふたりの深夜のドライブは続く──。
