2024年10月29日(火)[後編]-忘れられない夜
5年前の告別式の夜のことを思い返しているうちに、福島駅の改札を出ていた。沈みかけた綺麗な夕焼けが、オフィス街のビル群を深いオレンジ色に染めている。
スマホの地図を頼りに路地を進み、目当ての焼き鳥屋の前に辿り着いた。格子状の木製引き戸を引くと、ガラガラと乾いた音が店内に響く。
奥の二人掛けのテーブル席に、スマホを眺めている三尾玲の姿があった。 彼女は一度目の結婚には失敗したものの、キャリアを積み重ね、今や大手文具メーカーの人事部長を務めている。大学時代から凛としたリーダーシップのあった彼女らしい歩みで、大きな驚きはなかった。
『のり、久しぶりね。忙しかった? 』
そこからは、あっという間の2時間だった。 大学時代のこと、軽音楽部の同期たちの近況、そして互いの仕事のこと。とりとめのない会話に花を咲かせた。……だが、二人とも、あの5年前の夜のことには一切触れなかった。
『今日はありがとう、すごく楽しかった。また大阪に来た時は付き合ってね』
そう言って、彼女は颯爽と店を後にした。 あの雨の夜の出来事は、すべて無かったことにしよう――そう静かに暗示されたのだと、私は自分に言い聞かせていた。
福島駅から電車に乗り込み、ガタゴトと揺られながら帰宅の途に就いていた時だった。 画面に玲からのショートメッセージが届いた。
『のり、今日はありがとう!すごく楽しかった。――忘れてないよ、あの雨の日のこと』
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