一瞬シマウマ【セリフ三題噺】
白い馬ばかりが暮らす牧場に、一頭だけ大きな体の白馬がいた。
体は誰よりも立派なのに、走るのは誰よりも遅い。
臆病で、少しの音にも驚いて立ち止まってしまう。
「体だけは大きいのに、弱虫でのろまだな」
仲間たちに笑われるたび、白馬は悔しかった。
本当は、誰よりも速く走ってみたかった。
そんなある日、小さな白馬が古びた風鈴を持ってきた。
「これ、あげる」
その風鈴には、鮮やかなオレンジ色の人参の絵が描かれていた。
「この風鈴ね、不思議なんだよ」
小さな白馬は言った。
「つけて走ると、君が一番欲しいものが目の前に見えるんだって」
白馬は半信半疑で、その風鈴を鼻先につけてみた。
チリン……チリン……
風鈴が鳴った瞬間。
白馬の目の前に、おいしそうなオレンジ色の人参が現れた。
「もう少しで届く!」
白馬は走った。
一歩。
また一歩。
今まで出したことのない速さで、足が動いた。
「俺、走れる!」
嬉しくなった白馬は、夢中で走り続けた。
牧場を飛び出し、山を越え、草原を抜け……
そして、たどり着いたのは大きな火山だった。
ゴォォォ……
火山から灰が舞い上がった。
白馬の真っ白な体に、灰が降りかかる。
白い毛には黒い模様が浮かび上がった。
白馬は水たまりをのぞき込んだ。
「……なんだこれ」
首をかしげる。
「ボーダー? ストライプ?」
そして目を輝かせた。
「俺……シマウマじゃん!」
すっかり気分を良くした白馬は、牧場へ戻った。
「どうだ! 俺はもう普通の白馬じゃないぞ!」
仲間たちは怪訝そうに見つめた。
「喉乾いてたんだよね」
シマウマになったつもりの白馬は、偉そうに言った。
小さな白馬は、バケツいっぱいの水を運んできた。
ところが――
転がっていた木に足を引っ掛けた。
「あっ!」
バシャーン!
水は勢いよく白馬にかかった。
すると、黒い模様はみるみる流れ落ちた。
残ったのは、灰色になった大きな白馬。
白馬はしばらく黙った。
「……シマウマじゃなくなった」
他の馬たちはプッと吹き出した。
でも、どこか楽しそうだった。
小さな白馬が目を見開いて言った。
「でも、走るのは前よりずっと速いよ」
そうなのだ。
白馬は牧場で一番速い馬になっていた。
それからも、白馬は走る時に鼻先に風鈴をつけていた。
チリン……チリン……
鮮やかなオレンジ色の人参の絵が描かれた、不思議な風鈴。
白馬は今日も走る。
もうシマウマになれなくても。
それでも――
「人参カモン!」
……少し滑稽ではあるが。

はらとけいさんのお題『セリフ三題噺』
に参加させていただきました。
いつもありがとうございます😊
■セリフ
「調べないほうがいいよ」
「喉乾いてたんだよね」
(今回はどちらを使っていただいてもお題として回収させていただきます)
■三題
・火山
・シマウマ
・風鈴
#セリフ三題噺 #火山シマウマ風鈴
前回のお題はこちら↓↓↓
