丸刈りーだ【アマノ文筆クラブ】
これ、実話なんです。
私が中学一年の時、学校で、私にとって史上最悪の恐怖宣告が下された。
壇上の先生が言った。
「来年以降入学してくる男子は、
全員丸刈りーだ!」
生徒がざわざわし始める。
「良かったあ、おれらギリセーフ」
「来年の子、可哀想だよね」
そんな中、一人だけ固まっている女子がいた。
私だ。
なぜなら、当時の私は
「丸刈り恐怖症」
だったからだ。
目の前でフラッシュを何度もたかれたような感覚だった。
あの時の記憶が、一気によみがえった。
――わー、どうしよう……丸刈り怖い……
あの時の話をしなくてはいけない。
私が小学四年の夏だった。
月曜日の朝礼で、校長先生のいつもの長い長い話が始まった。
「休め」の号令で、聞かされる。
座らせてもらえない過酷な時間。
生徒が一人、また一人と、次々に座り込んでいく。
先生が担いで日陰に運ぶ。
自ら限界を告げにいく生徒。
その光景を見ても、全く話をやめない校長。
私は、校長の顔を見ていた。
だが、校長の頭が眩し過ぎる!
校長の頭は、汗でテカテカだった。
まるで鏡だ。
そこには、小さな太陽がもう一つあった。
――うわわ……
チビ太陽がおる。
太陽二つはキツイ……
私は目を逸らした。
眩しすぎる……
だが、視線を落として、驚いた。
私の周りは丸刈り頭の男子だらけだった。
――え……
みんな暑くて頭に汗をかいている。
丸刈りの少し毛が伸びた間から汗の滴が
キラキラ。
キラキラ。
キラキラ。
――ああ、ちょっと、私、立ってられないかも……
でも、私みんなの前で倒れたことないから、恥ずかしいし。
このままだとまずい……
下を向きたかった。だが、下を向くと先生に叱られる。
――どうしよう……
そうだ!後ろ、向けば良いんだ!
半分思考回路がおかしくなっていた私は最後の助けとばかりに後ろを向いた。
――あ、Aくん、君が一番眩しい……だめだ……
私は意識朦朧としながら、前の方に向かってよろよろ歩き出した。
それを見つけた担任が腕を掴んで日陰まで連れていってくれた。
みんな日陰で倒れていた。
当時は熱中症とは言わない。日射病と言われていた。
……そんな中で、私だけは丸刈りに負けた。
――あれから数年後。
あのトラウマが癒えないまま、
私は中学一年生になっていた。
先生から衝撃の宣告を受けた私は、教室に戻るなり友達に囲まれた。
「ねえ、十子ちゃん、大丈夫なの?来年から、男子みんな丸刈りだよ」
「恐怖だよ、恐怖!絶対無理……」
私の言葉に友達はゲラゲラ笑い出す。
「毎日見てれば、慣れるよ!」
――いや、励ましになってないから。
だが、人間の耐性とはすごいものだ。
毎日、大勢の『丸刈りーだ団』を見ているうちに、
私の「丸刈り恐怖症」はいつしか克服していた。
でも、太陽はやっぱり一つでいい。
☆おまけ
当時、私の小学校では、校長先生のお話のときだけ帽子を脱ぐ決まりでした。そのため、みんな頭に汗びっしょりでした💦
甘野充さんのお題『丸刈りーだ』に参加させていただきました。
いつもありがとうございます。
#アマノ文筆クラブ #丸刈りーだ
前回のお題『思いつかない』はこちら↓
