九回裏、ツーアウトから【青ブラ文学部】
俺は田舎が嫌で、逃げるように東京へ出てきた。
都会なら、誰も俺の過去を知らない。
そう思っていた。
だが現実は、そう甘くなかった。
何年経っても、友達と呼べる相手はできなかった。
そんなある日、路地裏で妙な看板を見つけた。
「幼馴染はじめました」
「……氷の間違いじゃねえの?」
気になって扉を開けると、
「いらっしゃいませ!こちらにご記入ください」
と用紙を渡された。
プロフィールや思い出まで細かく書かされ、半信半疑で席に座る。
すると、ド派手な女の子がやってきた。
「わあ!マサルくん、久しぶり!」
「え?俺マサオだけど」
「やだー!間違えちゃった!テヘペロ♡」
「あの頃、ピッチャーで活躍してたよね。かっこよかったなぁ」
「俺、キャッチャーだぞ」
「そうだっけ?」
……お前、紙しっかり読んだのか?
「家にも遊びに行ったよね。タマ、喉ゴロゴロして可愛かった」
「タマは、犬だよ……ドーベルマン」
「……大きい猫みたいなものじゃん?」
「違うわ!」
「こんな幼馴染いるか!」
立ち上がった瞬間――
――カラン。
ドアベルが鳴った。
奥から派手な男が現れた。
「サービス料金、三万円ね♡」
「お前……」
顔を見た瞬間、俺は凍りついた。
昔、俺がいじめていた幼馴染だった。
「久しぶり」
「……」
「この店、アタシがやってるの。アタシのこと、よくいじめたわよね?」
俺たちは、昔、同じ野球部だった。
俺がキャッチャーで、あいつがピッチャー。
最後の試合は、九回裏ツーアウト。
あいつがサヨナラホームランを打たれた。
俺は悔しさをぶつけるように、あいつを殴った。
それが、俺たちの最後だった。
「三万円。昔の慰謝料ってことで♡」
俺は財布を握りしめた。
「それとも……もう一度、アタシと幼馴染はじめちゃう?」
俺は少し笑って財布を開いた。
ただ、もう一度会いたい。
そんな笑みだった。
「……今日は三万円払っとくよ」
店を出ると、背後から声がした。
「ねえ。最後に一球、投げてもいい?」
振り返る。
あいつがボールを握っていた。
「九回裏、ツーアウトの続き」
俺は笑った。
「……まだやるのかよ」
あいつが投げた。
ど真ん中。
「ストライク」
思わず、俺は見つめてしまった。
昔は気づかなかった。
こいつ――
こんなに綺麗だったか?
「これで、スリーアウトね♡」
俺は苦笑した。
九回裏ツーアウト。
あの日、俺たちの試合は終わった。
でも――
今度は、俺のストライクゾーンど真ん中だった。
「……幼馴染、もう一回やり直すか?」
あいつは笑った。
「もちろん♡」

ひとくちメモ
以前「幼馴染始めました」のお題で考えた三つの案のうち、残っていたひとつを今回のお題に合わせて少しリメイクしました。
そしたら……なぜかBLになってしまいました🤣
山根あきらさんのお題『九回裏ツーアウト』に参加させていただきました。
いつもありがとうございます😊
#青ブラ文学部 #九回裏ツーアウト
前回のお題はこちら↓↓↓
