色眼鏡【アマノ文筆クラブ】
朝、目が覚めると、いつも眼鏡が並んでいる。
青空色、桃色、緑色、赤色、黒色。
それに、キラキラ光る眼鏡。
そして、もうひとつ。
透明な眼鏡。
「今日は、どれにしようかな」
僕は毎朝、眼鏡を選ぶ。
小雨の降る日、僕は青空色を選んだ。
飛び立つと、さっきまで降っていた雨がやみ、雲の切れ間から青空が広がっていった。
またある日、僕は桃色を選んだ。
草むらの上を飛んでいくと、赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。
小さな命が、この世界に仲間入りした日だった。
またある日は、緑色だった。
田んぼの上を飛んでいくと、稲穂が重たそうに頭を垂れていた。
遠い遠い国から、静かになった空の下で笑う声が、風に混じって聞こえてきた気がした。
またある日は、キラキラ光る眼鏡をかけた。
水辺では、子どもたちが声をあげて水を掛け合っていた。
それから、白いドレスの女の人が、誰かの手を取っていた。
みんな、とてもいい顔をしていた。
またある日、僕は赤い眼鏡を選んだ。
飛び立つとき、翅が少し震えた。
街のほうから、サイレンの音が聞こえてきた。
また別の日。
僕は黒い眼鏡を手に取った。
それをかけると、いつもより遠くの音がよく聞こえた。
静かな泣き声。
黒い服を着た人たちの、小さな足音。
その日、僕はどこか遠くまで飛んでいった。
そして、もう草むらには戻らなかった。
――それから、どれくらい経ったのだろう。
ある日、どこか遠くで、誰かが歌う声が聞こえた。
『とんぼのめがね』という歌だった。
僕は少し笑った。
僕が選んだ眼鏡は、僕が見た世界の色。
でも、ひとつだけ違う眼鏡がある。
透明な眼鏡。
何色にも染まらず、そのままを見るための眼鏡。
もし誰かを、思い込みで見てしまいそうになったら、
僕はそっと渡したい。
「はい、プレゼント」
「もう一度、見てごらん」
……そうそう。
ここだけの話を、ひとつ教えてあげよう。
僕は時々、ミラーボールみたいにキラキラ光る眼鏡をかけて、仲間たちのところへ向かうことがあるんだ。
森の奥の広場には、たくさんの仲間が集まっている。
細い体を揺らしながら、
翅をパタパタ鳴らしながら、
楽しそうに踊っていた。
僕も、その輪の中へ飛び込んだ。
最高に楽しい時間だった。
もちろん、この話は誰にも信じてもらえなさそうだけれど。

甘野 充さんのお題『色眼鏡』に参加させていただきました。
いつもありがとうございます😊
#アマノ文筆クラブ #色眼鏡
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