【ショートストーリー@短歌】ひとりっこ
見つからない 間違い探しがあとひとつ でもその時間に間違いはない
「かわいいねぇ、ちっちゃいねぇ。」
小さな手がさらに小さな手をそっと触る。
指をぎゅっと握られてびっくりした顔をしたが、すぐに優しい笑顔に戻ってまたにっこりする。
「わたしのことすきなのかなぁ、わかるのかなぁ。」
あまりに嬉しそうに言うので、私は反射という知識をいったん頭から手放すことにした。
黄色い帽子が気に入らない、せっかくのピンクのランドセルに黄色いカバーをつけるのは嫌だと泣いていた入学時から数カ月、なんとなく世の中には暗黙のルールというもの(と多少の諦めも)が存在するということがわかってきた頃だ。環境の変化が大きすぎて大丈夫だろうか。新生児訪問にきた保健師さんに該当児そっちのけでそんなことを話す私に、保健師さんはふふふと笑いながら
「大丈夫ですよ。ママがそう思っているなら。あえてアドバイスさせていただくとしたらたまにママとパパどちらかとふたりでデートする時間があってもよいかもしれませんね。デートといってもおうちの中でもいいんですよ。とにかく独占させてあげてください。」
家でならできるかな⋯しかし完全に分離するということだと逆に家だと難しいのか⋯と考えているうちに保健師さんは
「あ⋯でもパパよりママの方が良いのか⋯な⋯」
と我が家の家庭票を見て付け加えた。
その後、私は保健師さんの教え通りにデートを遂行した。お昼にはいつもサイゼリヤで間違い探しをしながらパスタを食べた。効果は母子ともに抜群だった。保健師さんに若干の戦力外通知を出されて落ち込んでいたパパも私より財布の紐が断然緩いこともあり効果は抜群だった(笑)もちろんそれだけではないけれど。
それから長い月日が流れた日
「今日はパスタ。絶対にパスタね。」
と出かけていく人がひとり。もう黄色い帽子はかぶっていない。そのかわりに日傘をさすようになった。そう言い残しあわてて出かけていってしまった。もしかして⋯と考えLINEで
「今夜サイゼリヤに行くってこと?」
と聞くと
「サイゼじゃなくていい。友だちに会うし。」
と返ってきた。今日はいちばんちいさいおてての人がお泊りで不在だ。んーならもう少しよいお店にいく?と悩んだが、さいわい今日は在宅勤務日。冷蔵庫の中身を見て必要なものはありそうなので方向性を決心した。そして1時間だけ年休を取る旨を上司に伝えた。
「ふふっ、デートですか?」
と聞かれたのでそういうことにしておいた。
お昼休憩に久しぶりにサイゼリヤのホームページをみたら、随分メニューが変化していた。私も夫もどちらかというといわゆるエッセンシャルワーカー寄りなので、なんとなくあの新興感染症以来外食を控えるようになってしまっていたのに加え、ちっちゃい方のおてての人が1歳前に小麦アレルギーを発症したのでサイゼリヤとはご無沙汰してしまっていた。
とりあえずいくつか印刷して、残りは頭の記憶に頼ることにした。そして普段は100均のお皿は買わないけれど、あえてセリアでそれっぽいお皿を買ってきた。あとアイス屋さんで1番シンプルなミルクアイスを買った。
やばい、これは楽しい⋯
ペペロンチーノ
ボンゴレビアンコ
ナポリタン
ミートドリア
グリーンサラダ
米粉のフォカッチャ
トマトとモッツァレラのサラダ
ミルクアイス
間違い探し
これらのベースの準備完了。
楽しくてちょっとやりすぎた。
メンバーマイナス1なのに食べ切れるのだろうか⋯
めずらしくもうすぐ帰ると連絡がきたので、メニューを記載したら、
「全部w」
と返ってきた。
発案者は帰宅したら真っ先に間違い探しに飛びついた。
やったー。メニュー全部も、間違い探しに飛びついたのも予想が当たった。
夢中で探している間に私は久々に3口コンロを全て使ってひたすら作り続けてアイス以外をテーブルに並べた。
そうしてるうちにパパも帰ってきて
「うおーなんだこれ。作りすぎじゃない?」
と声を上げた。そしてなんと手にモスバーガーの袋を持っている。しかもわいわいセットのおもちゃ付き。
一瞬時が止まったように静かになり、その後私たちは大笑いした。そしてある程度とりわけて明日の夕飯に回すつもりだったがなんだかんだで食べきってしまった。(明日の体重がこわひ⋯)
ミルクアイスを食べながら、まだ見つけきれない間違い探しを探している今回のイベント発案者が
「実はさ、これ昔は全部見つけていたんだけどさ、でも見つけたら帰らなきゃいけないから見つけられないふりしていたんだよねー」
と話してくれた。知ってたよ、という言葉をぐっと抑えて
「そうだったんだね。あの頃は本当にありがとう。」
と伝えた。
「べつに。はははサイゼ、ちちはモス、めったに食べられなかったからあれはあれで楽しかったし。あっ、ねぇこのお皿ちゃんともう1枚あるよね?3枚だけじゃないよね?」
「もちろん。米粉のパスタを今日注文しておいたんだ。帰ってきたらまたやろうと思って。」
「よかった。あっ、こっちもちゃんと2つある。」
わいわいセットのおもちゃも確認した。優しい子に育ってくれた。おもちゃを持つ手はあの時よりずっと大きくなっている。でもあの時の方が確実に大きく見えていた。いや、見えてしまっていたんだ。十分小さかったのにな⋯
ついつい比べがちになってしまうのが悪いところ。たまには別々にみてあげないとね⋯
この日の夜、久々に夜中に寝顔を見に行った。気がついたのかたまたまなのかタオルケットをかぶって反対を向かれてしまったが、そっと撫でても抵抗されなかった。
「久々のひとりっ子は満喫できたかな?今日はパスタ食べたいと言ってくれてありがとう。」
そう伝えてそっと部屋のドアをしめた。
