お吸い物の話
定食のお吸い物を見るたびに、なぜ味噌汁ではないのだろうと思うことがあります。
その疑問から、お吸い物と食塩について考えてみました。
昼定食
いろいろな食堂で定食の食券を厨房へ渡すたびに、思うことがあります。
今日は味噌汁か、それともお吸い物かと。
そして、味噌汁でないと少し残念に感じます。
味噌汁でなくても、怒りが生じるわけではありません。
ただ、その違和感が日々積み重なるうちに、自然と疑問が生まれてきました。
なぜ定食にはお吸い物が付くのでしょうか。
毎日味噌汁でもよいのではないでしょうか。
コストの問題なのでしょうか。
それともバリエーションを持たせるためなのでしょうか。
あるいは、何か別の理由があるのでしょうか。
また、ファミリーレストランに行くと、セットメニューにはスープが付いてくることがあります。
わかめ、コーン、玉ねぎあたりが入った、いかにも「スープ」という体裁のものです。
自分でよそうスタイルの店では、具がほとんど入らず、ひと口飲むと塩味だけが口に広がります。
塩湯、と言いたくなるような代物です。
おそらくこれは、日本の食文化として「定食やセットメニューには、スープを含む汁物が一品付く」という慣習が根づいているからでしょう。
食堂では栄養バランスの観点から汁物を添えるという発想があるのかもしれません。
ファミリーレストランはそれを洋風にアレンジしてスープバーという形にしましたが、どちらも発想の根っこは同じなのだと思います。
お吸い物とは
では、お吸い物とは、そもそもどういうものだったのでしょうか。
起源は奈良時代にまでさかのぼります。
当時は「羹(あつもの)」と呼ばれ、野菜や魚肉を熱く煮た汁物でした。
室町時代になると「吸い物」という呼び名が生まれ、江戸時代に入ると具材や味付けが豊かになり、季節ごとのお吸い物も考案されるようになりました。
本来は飯に添える汁物とは区別され、酒の肴として供されるものでした。
つまり、もともとはハレの場の料理だったのです。
本来のお吸い物は、丁寧にとった一番出汁に塩と醤油で味を調えたものです。
「椀種(わんだね)」「つま」「吸い口」の三要素から成り、椀種には魚介類や豆腐、つまには季節の野菜、吸い口には三つ葉や柚子などの香りを添えるものが使われます。
懐石料理や会席料理において、季節を映し出す上品な一椀として大切にされてきました。
それが現代の定食となると、出汁も具も吸い口もありません。
残るのは塩味だけです。
「伝統という名の惰性」と言えばよいのかもしれません。
形だけが残って、中身が抜け落ちてしまっているように思われます。
おわりに
お吸い物は今日も出てきます。
出汁も具も吸い口もない、塩湯に近いあの一椀が。
なお、味噌汁にも食塩は含まれるため、その摂取量が減るわけではありません。
ただ、大豆由来の栄養素が摂れる点では違います。
それでも私は、定食を食べるたびに思うのです。
「今日は味噌汁かな」と。
まとめ
・定食のお吸い物に感じた疑問から、その歴史や役割を調べてみた
・本来のお吸い物は、出汁や季節感を大切にした料理だった
・現代の定食では、本来とは少し違う形のお吸い物も見られる
・味噌汁もお吸い物も食塩は含むが、大豆由来の栄養素など違いもある
・それでも私は、定食では味噌汁のほうが少しうれしい
