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【漫画原作】アクトライズ【第5話】

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最高の瞬間?それは何かって?笑顔が溢れるほど嬉しい時?雨が上がって空にかかる虹と晴れ間が見える時?好きな人が自分に振り向いてくれた時?結局ひとつじゃないよね。人それぞれだよね。
最高の瞬間は人によって違う。同じ場面でも見方や光の当たり具合でガラリと印象が変わる。もし、誰が見ても最高と言える瞬間があるのならばワタシはこの目で見てみたい。叶うことならば自分の手でその瞬間に触れてみたい。そんなワタシの叶いそうにない夢。

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被服室

むげん・あかり「「さあ、成宮(くん)。演じるんだ」」

教室に響いた2人の声は私の反応を伺っている。
即興。テレビ番組や動画サイトで耳にしたことはあるがいざ自分がやれと言われたらできる気がしない。それに…、昨日のことが脳裏によぎる。考えすぎてキャパオーバーしてしまったこと。また同じようになるんじゃないか。本音を言うと、怖い。背筋が冷えてくる。

むげん「まぁ、やれと言っても昨日の今日だ。成宮、無理はするな。それにある程度の設定はこちらから指定する。質問があったらなんでも言ってくれ。」

ほっ。胸を撫で下ろす。その言葉だけでも少し安心する。彼は再び真山先輩の方に向き直る。

むげん「真山は見たいシーンはあるか?」
あかり「そうだね…。ワタシは最高の瞬間さえ見せてくれればいいからなぁ…。あ、そうだ」

真山先輩はなにか閃いたような表情を浮かべると私の方へ振り向く。その顔はいじらしくからかう小悪魔のようだった。

あかり「ワタシ、男の子の演技見てみたいかも」
むげん「…なるほどそうきたか」

男の子の演技。男性と女性とでそもそも考え方や感覚が違う。つまり昨日のような演技は使いにくいのかもしれない。そもそも昨日の役だって自分と似通ったところがあったからどうにかできたところがある。もしここでうまく演じることができなかったらあのお姫様抱っこが広まってしまう。それも全校生徒に…!これはとんでもないピンチ…!

むげん「よし、ならばこうしよう。君は遊園地に来た少年だ。今日初めて母親に連れて来られた。この日を待ち遠しくしていたのだろう。そして今、マスコットキャラクターの着ぐるみに風船をもらい嬉しくて仕方がない。その時に言った「ありがとう」のセリフ。これを再現してもらおう。どうだい成宮できそうか?」
みらい「え…え〜と…遊園地が少年で…母親がマスコットキャラクター…」
むげん「説明は分かるまで言うからどんどん質問したまえ。そう焦るな」

頭の中がぐるぐるする。お題がな…長い…!

むげん「要は嬉しくて喜びが溢れる少年になればいい。時間はいくらでもある。やってみたまえ」

と…とりあえず。考えるより行動しろが私のモットー…!やれるだけやってみよう…!

みらい「い…いきます…!」

パンっ。乾いた音が響く。始まりの合図だ。耳をすませばかすかに聞こえる。愉快なマーチソングがそこらへんから溢れている。そう、ここは遊園地だ。目の前には母親と着ぐるみがいる。そしていま風船を手渡されたんだ。…よしっ!

みらい「ありがとう!」

子供らしい無邪気な笑顔で吐く。こう言う感じか?恐る恐る二人の方を向く。…やけに不服そうな顔をしている。特にむげんの方が。

むげん「成宮、確かに演じろとは言ったが型にハマれとは言ってないぞ」
みらい「えっ?!だって演技ってこういうものじゃ…」
むげん「子供ならこうする。笑顔ならこうする。決まり切った演技じゃ真山は動かんぞ。」

なぬっ?!真山先輩が納得できるものじゃなければあの写真がばらまかれ…でもこれ以上に演技の幅なんてわからないし…。ど、どうし…。

むげん「成宮、役を被るな。役を纏え。
みらい「役を…纏う…」
むげん「君ならできるさ僕は君の力を信じてるよ、成宮

信じてる。その言葉を聞いた瞬間今までの焦りや不安がどこかに吹き飛んだ、気がする。そうだ、思考をめぐらせろ。役を纏う…。衣を羽織るイメージ…?重なったり広がったり触れたり触れなかったり…?…そもそも自分と彼との相違点は…?この状況、あの感情。なぜ彼はありがとうと言った?嬉しいから?楽しいから?知れ。知るんだ。彼を知ろうと、彼の周りを、彼の視界を見ろ。

その瞬間頭の中に景色が広がる。いや、頭だけじゃない。最初はぼやけていたがだんだんと鮮明になる。そう、今私の目線の先には女性の膝とピンクのモコモコした熊のような足が見える。あぁこれか。これが少年の目か。少し顔をあげると微笑ましく笑う女性と可愛いとは…言い切れない熊がこちらを向いている。ふと手に違和感が走る。少し熱くもこもこした感触の後に残ったのは細い糸の感触。その瞬間心から何かがこみ上げてくる。…そうか!これか!!これなんだ!!

みらい「…先輩、いけます」
むげん「…いい目をしている。了解だ成宮。それでは行くぞ」

パンっ。さっきと同じ乾いた音が響く。けれど今度の私には見えている嬉しさと温かさと優しさで溢れている世界が…!

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正直先ほどの彼女の演技を見て『良い瞬間』は見えなかった。まぁ、昨日入ったばかりの新入部員だ。そんなものだろう。進藤が何か彼女に言ったようだがそんなもので劇的に変わるわけがない。もう少しばかり暇つぶしになるかと思ったけどな。ふう、と目を瞑りため息をつく。そして彼女をもう一度見上げる。
そこには『少年』がいた。

その瞬間教室が太陽に照らされた屋外へと変わる。陽気なテーマも聞こえてくる。眼に映るこの景色はまさに遊園地。かすかに甘いポップコーンの香りさえ漂ってくる。なんだ…なんなんだこの風景は…!この楽しさに溢れている景色をこのレンズに収めたい…!
ふと少年がこちらを向く。そして微笑む。

少年『ありがとう』

それは嬉しさとも憂いとも捉えられる一言では表せきれないほどの何かがこみ上げてくる。初めて遊園地に来た興奮?風船をもらえた嬉しさ?違う…。これは母親に向けた目だ…!彼から溢れているのはただの喜びなんかじゃない。母親が一生懸命この日のために向けて苦労をかけていたことを知っているからこそ向けることのできた眼差しなんだ…!きっとこの後彼は母親に風船をあげるのだろう。「お母さん、これあげる!」その台詞さえ聞こえてくる。

あぁ…!これだよ…!この瞬間だよ…!!ワタシが今まで見たくてたまらなかった最高の瞬間と言うやつは…!!視界の先には母親に微笑んでいる少年の姿がはっきりと見える。それは眩しくて輝かしくて誰が見ても『彼』だと言える。そう、彼女こそワタシが1番欲しかった被写体だ…!…にしてもなぜ?先ほどの演技とは似ても似つかない。そう、この場の空気ごと役にさせる彼女は一体何者なんだ…?

むげん「ふふん…真山も彼女の素晴らしさに気づいたか…」

隣の進藤がニタニタしながら話しかけてくる。

むげん「彼女は客観的に自分を見る能力を自然と身につけているんだ。それは役者にとって必要な力。それに加え他者と自分との相違点の把握が出来る頭脳。それを体現できる身体能力。異性同性問わず人として好かれるために培ってきた人間分析の力。その全てを併せ持ち役作りに直結させている。それはこの場の空気すらも己の力として取り込んでしまうほどにね」

むげんの目がぎらりと光る。あぁ…この目をした彼を見るのは久々だな…。でもその気持ちとても分かるよ。なんせ彼女の力はとんでもない。ワタシたちにとっては欲しくてたまらない存在なのだから。

むげん「そう。だからこそだ…!彼女は誰よりも役-嘘-を纏うことに優れている…!

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