【漫画原作】アクトライズ【第2話】
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ピチチチ。ピチチチ。鳥のさえずりが聞こえる午前5時。薄暗くはあるものの朝日が木々を照らしている。
みらい「んーっ。さてと日課始めますか。」
軽く伸びをして足に力を入れる。体力作りで始めたランニングもかれこれ1年近く続いている。初めは少し走っただけでヘロヘロになってしまったが続けていれば5キロなんてあっという間に感じてしまう。やはり努力こそ最高の力。
中学生から志した”誰もが羨む世界一の女”になるためには多少の苦痛も厭わない。たとえそれが血反吐を吐きそうな程の苦労だとしても。
それにスポットライトのように朝日に照らされるこの瞬間。一面に広がる緑と花々と今は桜が舞うこの空間がいつも私を迎え入れてくれる。まるで私が私でいても良いと語りかけるように。
みらい「さて、一通り走ったしこれで清々しい朝を…」
みらい動線 ランニングコース→教室
生徒「成宮さん!早速演劇部入ったって?!」
生徒「プロポーズ受けちゃったもんね!」
みらい「ソ、ソウナンダヨネ–」
クラスメイトに声をかけられる。そうだった…。すっかり…忘れていた…。昨日1年生全員の前で誤解される形で勧誘されたんでしたね!!ってか噂広がるの早くない?!
断るつもりが仮とはいえ入ってしまったしそれに加えて発覚した監視カメラのあの映像…!そもそもなんで学校中に張り巡らされてるのか疑問なんだけれどあれがある以上いつ校内に今までの失態が広まるか分からない。タイムリミットは6月末。それまでに何としてでも映像を回収、消去、そんでもってあの変人ともおさらばしなければ…!
生徒「にしてもちょっと意外だね」
生徒「そうそう。確か演劇部って廃部寸前なんでしょ?」
みらい「え”」
みらい動線 教室→被服室
むげん「廃部寸前?ああ、そうだがそれがどうした?」
みらい「いやどうしたもこうしたも大問題ですよね?!」
むげんは平然とそう言いのける。そうだ…昨日の時点で疑問に思っておくべきだった…!掃除が行き届いていない教室。この男以外の部員を見かけていないところ。
みらい「もしかして…この部活って先輩1人だけですか…?」
むげん「一応…何人か所属はしているがほぼ幽霊部員だ。毎日ここに来ているのは僕だけさ」
フンっと鼻を鳴らし彼は作業に戻る。その横顔は少し寂しげに見えた。かと思えばくるりとこちらに振り返り万遍の笑みを向けてくる。
むげん「まぁそんなうちではあるが成宮、君が来たんだ。もうこの部は安泰だぞ」
みらい「…あのもしかしてもう今日から始める感じですか」
むげん「あぁ!もちろんだとも!早く君の演技が見たくてしょうがない!」
みらい「見たいも何も私、演劇の『え』の字も触れたことないんですが」
見るからにそわそわしている。そんなに待ち遠しいのか。仮とは言えたった2人で演劇をするなんて難しいはず…。それにいざやるとなればこの男との掛け合いだ。多少苦戦はするだろうがそこは気合で乗り越える他ない。
みらい「にしてもたった2人で演劇って無茶にも程がありますよね…」
むげん「いや?演じるのは君一人さ」
………
みらい「え?」
思わず固まってしまう。ここ「演劇部」だよね?!裏方どころか役者が0人ってそれ部として成り立ってたの?!スポーツの世界だったら試合どころか練習すらできないじゃん?!ってか…
みらい「それって…つまり…私主演ですよね…?」
むげん「ああ、そうだとも」
思わず顔がひきつってしまう。なんてことだ余計目立ってしまう!そこそこの脇役で穏便に済ませようと思ったのに…!
みらい「…やっぱ仮入部取消で」
むげん「すまん書類はもう出した(万遍の笑み)」
オーマイガー。なんてことだ。彼は万遍の笑みで済と書かれた書類をヒラヒラしている。何故こんなにも仕事が早い。いや早いに越したことはないのだが。
むげん「もちろん、僕だって演じられるなら演じたいがなんせ物書き専門だ。僕が思い描く演技はできない」
みらい「それなかなかに傲慢なこと言ってますよ」
廃部寸前どころか役者がいない演劇部。前代未聞にも程があるだろう…。
みらい「…そもそも台本はあるんですか?演技をするにもせめて設定がないと…」
むげん「台本?あぁ、君はもう見たろう?」
みらい「見たって…もしや」
むげん「そう。これだ。」
彼の手には大学ノートがあった。
みらい「主人公はまだしもそれ以外の登場人物はどうするんですか!そもそも人じゃないし!見た感じ若干掛け合いにもなりますよね!?」
むげん「まぁ…それには少しあてがある。が、まずは最初のプロローグだけで構わない。お手並み拝見といこうじゃないか、成宮」
まただ。彼は不敵に微笑む。なんでこんなにも余裕があるんだ。ましてや廃部寸前のピンチのはずなのに。思わず背筋に緊張が走る。
みらい「分かりましたよ。やりますよ」
少しぶっきらぼうに口にする。深呼吸する。深く深く。体の隅々まで酸素を巡らせる。ゆっくりと目を開け前を見すえる。
偽るんだ。今の私は『成宮みらい』じゃない…!
静寂が続く。むげんは真剣な眼差しでこちらを見ている。そうだ。彼は今、私だけの観客になる。そう思った瞬間何故だろう。心が踊っているようなふわふわした不思議な感覚に陥る。徐々に頭に熱がのぼる。ふと昨日のことが脳裏をよぎる。あの情景、感覚。もう一度掴んでみたい。そう手を伸ばす。
少女『初めは…軽い出来心だったんだ。』
ぽつりと心をつぶやく。儚く憂うように少女を羽織る。手の先からつま先まで彼女になれ。
少女『どこか遠い所へ行ってしまえばこの苦しみも苛立ちも全て無くなるんだと思ってた』
徐々に苦しみを振り絞って声に出す。心の痛みを落とすように。
少女『だから家を飛び出した。何かが変わる気がして。何かを変えたくて。』
ここは痛みが彼女を動かすシーンだ。苦しみと合わさって原動力になるプロローグで大事な局面。だからこそ他のシーンよりも心から彼女に触れる必要がある。そう、今までの不自由さと理不尽さに苛立ちを覚えながら歩いた彼女の軌跡を辿る。なんで誰も自分を見てくれないんだ。なんで誰もありのままを愛してくれないんだ、って。
けれど何かが掴めない。昨日のような高揚感に触われない。あともう少しで届く気がするのに。あの輝きを、高まりを掴みたい…!掴め。そう手を伸ばす。
むげん「ストップ」
ぱんっと破裂したような音が聞こえた。ふと我に返る。
むげん「ふぅむ…まだ所々荒いが少女の背景を掴めている…。うん、初めてにしては上出来だ。やはり君は逸材だな成宮」
パチパチパチと軽いクラップが鳴る。
みらい「まぁ…私にかかれば出来ないことなんてありませんし」
いつも通りの言葉を吐いてしまう。彼はとても満足気だが正直私は納得できていない。頭で考えすぎたんだ。正直昨日に比べたらあの世界に入りきれていない。誰かに見られているとつい他人の目を気にしすぎてしまう。
むげん「どうした?不服なことでもあるか?」
みらい「いえ。慣れないことしたので少し疲れただけです。」
むげん「そうか」
むげんは鼻歌なんて歌っている。ご満悦のようだ。…けどまだだ。満足できない。もっとできるはず。昨日の一瞬で世界が広がったあの感覚を世界をもう一度掴んでみたい…!
むげん「なかなかいいものを見せてもらった。では今日はここまでに…」
みらい「あの、やっぱりもう一度やってみてもいいですか?」
あの輝きを、高まりをもう一度頭からつま先まで感じ取りたい。そう、体が熱を求めている。
むげん「…まぁ、君が言うのであればいいだろう」
彼はそう言うともう一度椅子に深く腰かける。
先程より真剣な眼差しが見える。本気だ…!
むげん「どうぞ」
その言葉を合図に頭の中にカチンコが響いた。呼吸を整える。耳をすませばかすかに揺らぐそよ風の声。目を開けばそこには包み込むような夜空。ほら気的の音も聞こえてくる。今ならできる。彼女になれる!
少女『母さんも父さんもいつもいつも私に完璧を押し付けて…!私はなんでも出来るいい子じゃないのに…!』
神秘的な情景とはうらはらに渦巻く真っ黒い心。親から向けられた期待、願望そして束縛。彼女の苦しみと痛みが渦を巻いている。周りの声と自分とのギャップが生み出す心。でもこれだけじゃダメだ…!体が自然と演じることを欲している。高揚感も情景も昨日より見えない。何か打開策は無いのか…?!
少女『だから演じたんだ。私は私を。母さんと父さんが望む私を。それでも満たされなかったんだ。』
そうだ。私はこの痛みを知っている。そうされた記憶もないのに何故か分かってしまう。…それはきっとあの記憶だろう。思い出したくないあの過去だろう。けれど経験というものは時に武器となる。今がその時だ。ありったけの苦しみと痛みを込めろ。私は見たい!あの景色を。あの高まりを。あの世界を…!
みらい『だって…!誰も本当の私を愛してくれないから!』
思いの内を振り絞る。経験を記憶を張り巡らせる。そうだ…!これだ!この感情いっぱいに溢れる世界が広がる感覚…!あの時と同じ気持ちが少女と重なる瞬間。私が見たかった景色。なのに何故だろう。徐々に息ができなくなっていく。あれ?なんだ?あれは…あの時の_
次の瞬間目の前に映ったむげんが揺れた。いや、天井も机も床も一気に傾いた。あれ?目の前が白んでいくような気が…。
むげん「成宮…!おい!しっかりしたまえ成宮!」
あれだけ大きい声がだんだんと遠のいていく。あはは。いつもそのくらいの音量ならいいのに。視界が虚ろになる。その後の記憶は何も覚えていない。
(本文3850文字)
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