【漫画原作】アクトライズ【第3話】
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あれは?誰?ゆらゆらと現の中に見えるのは。
みらい「誰か…泣いてる?」
肩を震わせ静かに泣いているであろう少女。気になって近くに寄った瞬間、白んでいた視界が一気に暗くなった。驚く間もなく何かが語りかけてくる。
『………ちゃんってほんと何も無いよねー』
『いかにも普通だよね』
どうやら少女は心無い言葉をかけられているらしい。
みらい「大丈夫?」
声をかける。すると少女はこちらを向き言い放った。
少女「ほんと、私って何も無いよね」
瞬間グラグラと視界が揺らぐ。目の前で溶けゆく少女だったもの。少女?違う。あれは…あれは。
みらい「私だ」
みらい動線 暗闇→保健室
ハッとすると視界は真っ白…という程ではないが見慣れない天井が広がっていた。
…あぁそうか。私、たしかあのまま…
むげん「どうやら軽いパニックが出たらしい。少し安静にすると良い。」
声がした方を向くとむげんが壁によりかかっていた。首元が少しひんやりする。どうやら水を買ってきてくれたようだ。
みらい「あの…お金」
むげん「いらないよ。無理をさせた僕にも原因があるわけだし。」
そう言うと彼はよっこいせと腰を下ろす。それじゃあ、と遠慮なく水を二口ほど口に含む。
むげん「成宮。さてはメソッド演技をしたな?」
成宮「メソッド演技…?それってなんですか?」
むげんは深く溜息をつき真剣な表情で続ける。
むげん「メソッド演技とは役柄の内面を深堀させる演技法だ。主な方法として役に役者自身の過去を投影させる。」
みらい「過去を投影させる…。」
むげん「過去と役を重ねられる分、演技にリアリティが増すがその一方でトラウマが浮き彫りになることがある。成宮、自分の過去を役に乗せただろう?」
ぎくっ。たった数分の出来事なのにここまで正確に当てられるとは。目を凝らしていただけあるな。
むげん「…やっぱりか。僕の台本は人間の心理描写を細かく書く傾向にある。だからこそ観客は役の感情にの変化に揺さぶられる。だがその分役者本人が受ける精神的ダメージが大きい。メソッド演技なんてしたら尚更。それが原因で過去に退部をした奴らもたくさんいるんだ。」
あぁ…だからなってしまったのか。役者がいない、脚本家だけの演劇部に。
むげん「もしそれで君がこのようなことになってしまっていたら申し訳ない。すまなかった。」
むげんは深々と頭を下げる。
みらい「いえ。先輩が悪い訳じゃ…だいたい私があそこで切り上げていれば…。」
むげん「それはそうだが…しかし」
みらい「第一こうなったのは最初から全力で挑んでしまった私のせいでもあるので…」
お互い謙遜をするがあまり微妙な空気が流れてしまった。先輩も少なからずしょんぼりしてる気が…。な…何か打破する方法を…。
みらい「せ、先輩!面白い話をしましょう。」
むげん「ほう。なんだね?」
彼は声色を変えずただただ寄り添うように耳を傾けた。
みらい「私…実は嘘つきなんです!」
思いもよらぬ言葉が口に出てしまい思わず声が裏返ってしまう。慌てて彼の方を見ると鳩に豆鉄砲を食らったかのような顔をしていた。
みらい「私には夢があります。誰もが羨む世界一の女になる夢が。」
何故か分からないが口が、言葉が勝手に紡がれる。まだ意識が朦朧としてるのかもしれない。しかし一向に閉じる気配はない。
みらい「中学生の時の私は、それこそ何も無いただの少女でした。勉強も運動も何一つ取り柄のない普通と呼ばれる子でした。」
むげん「君にそんな過去が。それはなかなかに興味深い。」
みらい「でもある時言われたんです。『普通だから面白くない』って。」
『みらいちゃんってほんと何も無いよねー』
『いかにも普通だよね』
『面白くないのー』
さっきの夢のような場所で少女が言われていた言葉。あれは実際私が過去に言われたものだ。ただ平凡と生きてさえいればいいと思っていた当時にしてはかなり衝撃的なセリフだった。
みらい「分かります。傍から見たらしょうもないことだって。でも、私にとってはその言葉がずっと心につっかかっていて。…だから一生懸命努力をしました。「普通」じゃない私になるために。勉強も、運動も、もちろん見た目だって。学校だって前よりも偏差値が高いところにして。まるで過去から逃げるように。自分から逃げるように。」
何も無かった私に唯一できたこと。それは努力。どんなに苦しいこともどんなに辛いこともめげそうになってもひたすら努力し続けた。勉強でも運動でも1番になって見た目にも気を使って、そうしたら何か変わるんじゃないか。何かになれるんじゃないか。誰も彼も私のことを見てくれるんじゃないか、って思ったんだ。
みらい「だから私…嘘つきなんです。本当は何もないのに「できる私」を演じる嘘つきなんです。」
カチコチ。長針の刻む音が部屋に響く。日が陰り段々と肌寒くなっていく。
…あれ?結局のところ面白い話ではなく暗い話になってしまったのでは…?さっきより空気重くなってるのでは…?!!何やってるんだ私!しかも今まで誰にも言わなかった過去まで口にしてしまって!!なんでこんなにも墓穴を掘るんだ!!またやってしまった!!
しかし彼の一言で重い空気は打ち消された。
むげん「それでも嘘自体は悪いことではないだろう?」
見据えた眼差しをこちらに向けてくる。
その目は今まで以上に芯があり、そして優しかった。想定外の言葉に思わずキョトンとしてしまう。むげんはやれやれ、と言った表情で言葉を続ける。
むげん「嘘を通して誰かを悲しませることが多いだけで嘘単体はそこまで悪いことじゃあない。時によっては真実だって刃となるんだ。それに君は己を高めるために嘘をついている。誰も傷つけてはいないだろうが。」
みらい「…例えそうだとしても私は嘘つきには変わりありません。弱い自分を隠して強者を演じる。本当の自分にも嘘をついて。」
そう。ちっぽけで何も無い普通のままの私なんて誰も向いてくれない。無理やりにでも着飾って誰もが憧れる何かにならないとまたあの時を繰り返してしまう気がして。
みらい「あ、いた」
俯いてた額にピンっと、痛みが走る。デコピン?地味に痛い。ひりひりする。
みらい「いきなり何するんですか?!」
むげん「お、少し調子が戻ってきたようだな。その噛み付く姿がとても君らしいよ。」
思わずしかめっ面をしてしまう。病み上がりをからかう気か。この変人め。
むげん「ほらな。そのままの君も偽りと呼んでる君もどちらも『成宮みらい』でありとても魅力的だ。それに…無意識に演技法を使うなんて…やはり成宮!君はとてつもない才能の持ち主だ!ますます気に入ったぞ!!」
みらい「才能才能って…私はただ自分の経験と努力でどうにかしてきただけですよ。」
むげん「何を言うんかね。経験こそ最大の知恵、努力こそ最大の才能ではないか。それに加え君は地頭が良い。成すまで粘れる気力がある。それらを才能以外になんと呼べばいい?」
思わず耳まで赤く染ってしまう。ここまで褒めらると流石に調子が狂うというか…。素直にもほどがあるだろうこの人。
むげん「それに今の話を聞いて確信した!」
そう彼は言うと背を向け立ち上がりくるりとこちらを向いた。
むげん「そもそもな話、演劇とは嘘の塊だ。現実を模したものもあるが大抵は創作の世界だ。脚本だけではない。照明も音響も衣装も美術も。そして役者も。沢山の嘘が合わさって1つの大きな嘘を作る。」
窓から夕焼けが差し込み、むげんを照らす。それはまるで主役を引き立てるバックライトのように。
むげん「だからこそ君ほど最高な演技者-うそつき-になれるものはそうそういないのだよ!成宮!」
彼は夕焼けにも負けないその輝いた瞳で私に語りかけた。まるで沈みかける太陽に負けじと光る星のように。
…驚いたな。彼の言葉で自分がこんなにも高揚している。視界が弾ける。まただ。昨日ノートを開いた時と先程演じた時と同じ感覚が全身を駆け巡る。このドキドキはなんだろう。この高まりはなんだろう。
…そうか。私、今新しい扉の前にいるんだ。手をかければそこから広がる新しい世界の扉に_
むげん「とことん引き出してやろう。君自身の才能を。君自身の力を。僕の脚本で。僕の世界で。」
不敵に優しく微笑む。野心によって奮い立たされているのだろう。この男は心から演劇を愛している。それは作品に対しとても素直でとても貪欲なんだ。
あぁ…私とんでもない人に捕まってしまったな…!とんでもない世界に入り込んでしまった。扉に手をかける。ドアノブを回せば見えてしまう!ただ一人立つ舞台で、私しか見ていない観客が大勢いて、私はそこで完璧-嘘-になる_
考えるだけでワクワクする!こんな楽しい世界があるだなんて!
こんなにも心が踊ったのは、こんなにも心からやってみたいと思ったのはいつぶりだろう。ワクワクが止まらない!思わず笑みだって零れてしまう!…まぁ、そんなこと顔には出しませんけどね…!だって
みらい「先輩、私は世界一になる女です。出来ないことなんてありませんよ…!」
むげん「…とてもいい目をしている。やはり君はそうでないとな…!」
夕日が沈む。空には月と星が強く輝いていた。
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???「成宮みらい…随分と面白い子が入ったじゃないか。」
機材がだけが光る薄暗い部屋でモニターに映し出されたみらい達を誰かが見ている。
???「これはとっても楽しくなりそうだね。」
(文字数3800文字)
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