僕は僕じゃない 第二話
@Riku
「ですよね!共感してくれて嬉しいです!」
返事が来た。嬉しい。スマホの画面を見ながらにやけそうになってしまう。仕事が終わり、バスに乗って帰宅途中だった私は、周囲の目を気にして我慢する。座席に深く腰掛け、すでに暗くなった街並みの景色を眺める。窓ガラスの向こうに流れる眩しいネオンの光。時折、途絶えた時、自分の疲れ切った顔が映り、思わず目を逸らす。
なんて、返事をしようか。今すぐにでも返事をしたいけれど、嫌われたくはないから、きちんと内容を考えよう。
私がコメントを残したKanataさんの投稿は、M・W・クレイヴンの「ストーンサークルの殺人」の感想だった。「ラストは祈るような気持ちだった」この一文が特に共感できたのだった。だから
「ラストはマジで祈ってましたから」と返信する。
バスから降り、自宅に到着。
「ただいまー」
パジャマ姿でテレビを観ていた母親が私の疲れ切った顔を確認すると
「お帰り。それじゃあ、お母さん寝るから」
テレビを消し、寝室へと移動した。
冷蔵庫には、いつものように母親が作ってくれた夕食が用意してある。今日は生姜焼きとサラダ。母に感謝しながら、それらを取り出す。冷凍のご飯と、生姜焼きを電子レンジで温めている間、スマートフォンを手にし、SNSを覗く。
「ポー頼む!ってなりますよね」
Kanataさんから返事が来ていた。彼も仕事が終わって、私と同じように、遅い夕食を食べていたりして。そんな想像をしつつも、彼の文面から、まだ、少しの警戒心を感じ取った。どうやったら、心を開いてもらえるだろう。
「続編も読む予定ですか?」
質問してみた。
ご飯と生姜焼きが温まったので、一度スマートフォンを置き、夕食を食べることにした。テレビを点けようかと一瞬思ったが、止めた。今日は疲れすぎた。そんな時は、テレビの光や音も鬱陶しいと感じてしまう。
夕食を食べ終わり、SNSを覗く。
「ちょうど今『ブラックサマーの殺人』を読んでいたところです」
Kanataさんから返事が来ている。彼もちょうど手が空いているのだろう。レスポンスが速い。繋がっている感じがして嬉しかった。
@Kanata
Rikuさんから返事が来た。
「ラストはマジで祈ってましたから」
夜10時過ぎ、ベッドで寝ころびながらM・W・クレイヴンの「ブラックサマーの殺人」を開いていた。前作の「ストーンサークルの殺人」が面白かったので、続編も読むことにしたのだ。
「ポー頼む!ってなりますよね」
返事をした。前回は嬉しさのあまり勢いで返信をしてしまったが、いくら趣味が似通っているとはいえ、もう少し警戒すべきかもしれないと反省していた。だから、様子を見ることにする。あっさりし過ぎだろうか。冷たい奴だと思われるだろうか。
「続編も読む予定ですか?」
しばらくして、返事が返ってきた。
「ちょうど今『ブラックサマーの殺人』を読んでいたところです」
返信する。
「僕も今読んでいるところなんです」
すぐに返事が返ってきた。レスポンスが速い。繋がっている感じがして嬉しい。
「面白いですよね」
「はい。面白いです。ただ、最近仕事が忙しくて、なかなか読む時間がとれなくて。続きが読みたくて仕方ないのに、もどかしい日々ですよ」
Rikuさんはどんな仕事をしているのだろう。ふと、気になった。だが、まだ、プライベートな質問をするのは気が引ける。
私は無職だから、時間は沢山ある。この分だと、私の方が先に読み終わりそうだ。そんなに読むスピードが早いと、無職だとバレてしまうのではないだろうか。何か言い訳をしておこう。
「僕は電車通勤しているので、移動の合間に読んでるんです。だから、時間は取れるので、僕の方が読み終わるの早いかもしれませんね」
「なるほど。僕はバス通勤なんですけど、車酔いしちゃうんで、読書は無理で。でも、休日がっつり使って読むんで!追いつけるように頑張ります!読み終わるのどっちが早いか勝負です!」
唐突に勝負を挑まれた。
Rikuさんって、面白い人かもしれない。それに、きっと、いい人だ。つい、笑みがこぼれた。そして、笑ったのは、随分と久しぶりだって事に気が付いた。
