僕は僕じゃない 第七話
@Riku
確かに、そうだ。読書をしている時は、時間を忘れるほど熱中している。つまりそれを、没頭と呼ぶのでは。
「確かに。もう、見つけてますね」
私はそう返信した。
「つまり、読書の先に、僕らの夢がある。ということでは?」
Kanataさんの返信。
読書の先?その先に何がある?考えたこともなかった。
「深いこと言いますね。何だろう?すぐには思いつかないな」
「例えばですけど、読書が趣味の人が、毎回必ず、コーヒーを飲んでいるとする。そして、コーヒーにもこだわりを持つようになる。ミステリーを読む時は、苦みのあるコーヒー。エッセイを読むときは、酸味のあるコーヒーみたいな。それで、その後、コーヒー店を開いた。なんて、どうですか」
なるほど。私は、今まで、読書は一人でするものだと思っていた。誰にも理解されない趣味だって思い込んでいた。でも、Kanataさんと出会ってからは、誰かと感想を共有出来る楽しさを知った。読書仲間が出来た嬉しさがあった。読書を通じて仲間を増やせたら、もっと嬉しいのかもしれない。もし、そんな環境があったのなら。
「ブックカフェ、なんてどうですかね」
「カフェですか?」
「はい。読書好きが集まるカフェです。カフェには本棚があって、読書が出来るんです。皆がおすすめの本をそれぞれ持ち寄ってもいい。お客さん同士で感想を話したりして。そんなカフェを営業出来たら楽しそうだなって」
想像しただけで、胸が高鳴った。もしかしたら、これを、夢と呼ぶのかもしれない。
「めちゃくちゃ素敵です。それですよ、きっと、夢って」
もし、この先、そんなカフェを開くことが出来るのなら、つまらない人生も、中身のない自分も、塗り替えられる。そんな未来があるのだとしたら、もっと、もっと、生きてみたい。
靄がかかっていた未来の先に、一つの明かりが灯った気がした。その明かりを道標に、歩いてみてもいいのかもしれない。
「ありがとうございます。ブックカフェ、真剣に考えてみます」
「とんでもない。応援します」
「Kanataさんこそ、読書の先、何か見えませんか」
@Kanata
私はどうなんだろう。読書の先に、一体何が見えるだろう。
Rikuさんみたいに、読書仲間が集まるカフェを営業したいだろうか。想像してみるが、どうもしっくりこない。そもそも人付き合いが苦手だからだ。
「僕は、まだ思いつきませんね」
「さっきのKanataさんの例え話、とってもよかったですよ。コーヒーの話。それで一つの物語が出来そうって思いました」
「いやいや、よくあるパターンじゃないですか」
「そうですかね。膨らませたら、味わいのある物語になりそうですけど」
「そうかな」
「純文学?」
「僕らの好きなミステリーにします?」
「いいっすね。ミステリー。殺されるんですか?そのコーヒー店のマスターは」
「被害者か、加害者か。どっちもいけそうですよね。それか、そのマスターは凄腕の暗殺者だったりして。暗い過去を背負ってて、現在は足を洗って、ひっそりと、コーヒー店を経営している。で、来店するお客さんの悩み相談を受けたりしているんですけど、あるトラブルに巻き込まれて、悪人を成敗する、みたいな。バッドエンドは嫌です。勧善懲悪のハッピーエンドがいいです。読後は爽やかな気分になれるような、そんな物語」
「それです、それそれ!」
「え?」
「僕、見つけました。Kanataさんの読書の先!」
「はい?」
「物語を書くんですよ。読むだけじゃなくて、書くんです。Kanataさんが!Kanataさんが物語を作る側になるんです!」
私が、物語を作る?
「いやいやいや、そんなの無理ですって」
「試しに書いてみてはどうでしょう。無理かどうかは、それから考えればいいじゃないですか」
試しに、書いてみる?
無職だから、時間だけは沢山ある。だったら、試しに書いてみるのも、ありなのかもしれない。書いてみて、つまらなければ、それまでのことだし。
「そうですね。試しに、書いてみましょうか」
「やった!」
何故かRikuさんの方が嬉しそう。私自身は、まだ、半信半疑というところだ。でも、この先の目標が出来た気がする。
「ありがとうございます。Rikuさんのおかげで、読書の先が見えた気がします」
「僕だって、Kanataさんのおかげで、読書の先を見つけられましたから。とりあえず、お互い、そこに向かってみましょうか」
「そうですね。そうしましょう」
