初めてのヘッドスパ
ヘッドスパに行ってきた。
以前から妻が強くヘッドスパを勧めてくる。「目がさ、パキッとするから。父ちゃんもやってみて」とうるさい。行く気はなかったが、妻が勝手に日程を調整して予約を入れてしまった。お金も妻が払うという。二人で行って、妻が髪の毛を染めている間に僕がヘッドスパだけやってもらうことになった。
僕は美容院に行ったことがない。生まれてからこの方ずっと床屋だ。今後もその方針は揺らぎないのだが、ヘッドスパだけしに美容院なるところへ初めて僕は足を踏み入れた。
お店は、さながらカフェのような明るい作り。僕とさほど変わらない年齢のご夫婦で営まれている。ヘッドスパは若い男性店員さんがやってくれる。その店員さんは妻の高校の卒業生で、妻が担任をしていたらしい。卒業後の彼の仕事ぶりが心配で見に行く傍ら、彼の応援の意味で妻はその美容院に昨年から通い始めた。
店員さんに連れられてヘッドスパのブースに通される。社長室の椅子のような立派な合皮の椅子に座る。店員さんが盛んに笑顔で話しかけてくるが、僕は初対面の人と会話するのが極めて苦手。「はい」「そうですか」しか答えられずに店員さんを困らせる。参ったな。
「どうですか?」と聞かれるが、何がどうなんだ?そもそもヘッドスパ初めてだから比べようもない。ここは「あー!気持ちいいでーす!」と反応しないとダメなのか?お金をかけてこちらがサービスしなければならないのか?
妻の教え子だから無下にはできない。でも、どう演じていいのか自分の立ち位置というか、振る舞うべき役のイメージがつかめない。「もうこれは、疲れた無口なオジさんで行くしかないな」と役の方向を決定する。目の上に布を当てられる。疲れたオジさんが眠ってしまうというあらすじだ。
マッサージが終わりシャンプーされ、頭に温水をかけられる。仰向けで滝に打たれている感じ。「そのまま10分ほどお待ちください」と温水をかけられたまま放置される。目が布で隠されているから不安になる。チョロチョロと温水が僕の頭にかけられて流れ落ちる。おしっこを頭にかけられているみたいだ。おしっこを頭にかけられたことはないけれど。でも、これ10人ぐらいいないとこの水量は成立しないな。しばらくすると温水の勢いが強くなる。10人ほど加勢に来た感じか。しかも、ずいぶん長いおしっこだ。多分若者だな。
しばらくすると温水の速度が弱まる。ちょろちょろと水音がする。最近「ちょろちょろ」という水音を聞くと尿意を感じることに気づいた。ちょっとした水音で、若干だが尿意を感じるのだ。多分、老化現象なのだろう。やがて水音を聞いただけでおしっこを漏らしてしまうのではという恐怖が心の中にある。
最後に肩や首筋をマッサージされ、正味40分ほどのコースが終わる。
目がパキッとしたかというと、よくわからない。多分僕の頭は硬すぎて、ヘッドスパではどうにもならないフェーズに入ったのだろう。
予想通り、若い店員さんは僕の頭を揉みながら
「先生方の頭はみんなカタイです」と言っていた。
違う意味なのは分かっているが、なんかムカつく。

