ピッタさんは、火を隠せない ── ドーシャのはなし・火のひと
※この「ドーシャのはなし」は、連載でしれっと使ってきた「ヴァータ」「ピッタ」「カパ」を、一人ずつ、ゆっくり紹介していくシリーズです。90日実験の入り口として。
※アーユルヴェーダを知らない人にこそ読んでほしい連載です。カタカナは意味を都度そえるので、わからなければ飛ばして、気楽にどうぞ。
前回は、風のひと・ヴァータちゃんの話をしました。
お調子者で、生き急いじゃう、あの子。
今日は、その次。火のひと、ピッタさんです。
さいしょに、おさらいと、大事なことを一つ。
ドーシャは、体と心の両方を動かしている「働き」です。
物質でも、臓器でもなくて、はたらき。
ピッタは、火。
食べたものを消化して、体温をつくって、ものを「変える・燃やす」力です。
その火は、体の中だけじゃなくて、心にも流れてる。
消化するのも火だし、ものごとを判断する、あたまのするどさも、火。
だから、ピッタの話は、二つの面があります。
体に出る面(どんな不調に出やすいか、どう整えるか)と、心に出る面(どんな人になるか)。
両方とも、本物のピッタ。
ただ、いっぺんに書くと多すぎるので、体のほうは、別の回でゆっくり。
で、今日書きたいのは、心に出る面。
その火が「人」にどう出るか、のほうです。
ピッタさんって、実は、いちばん誤解されやすいドーシャだと思うんです。
だから、ちょっと弁護させてください。
クソ頑固で、嫌な上司に見えるけど
先に、悪口みたいに聞こえるほうから言っちゃいますね。
ピッタさんは、情熱的で、知的で、仕事ができて、効率もいい。……ここまではいい。
でも、頑固。クソ頑固。
そして、ときどき、冷徹に見える。
上司にいたら、正直、ちょっと身構えるタイプです(笑)。
でもね。それ、表しか見てないんです。
火のひとは、鋭さが先に立っちゃう。
だから、周りは「怖い」「厳しい」「頑固」って、そこで判断を止めちゃう。
でも、その鋭さの奥に、びっくりするくらいの情熱と、まっすぐさと、やさしさが入ってる。
それが、なかなか伝わらない。
わたしの身のまわりにも、ピッタさんが、います。
二人、紹介させてください。
ひとりめ、姉。姉は抜き身の刀を持つ
うちの、二番目の姉。
姉は、ほんとうに、あたたかい人なんです。
とくに、困ってる人や動物・自然死ぬほどやさしい。
前に、捨てられた猫がいて。もう、死にかけてた。
弱った体に、ウジ虫がいっぱいわいてた。
姉はね、それを、一匹ずつ、全部、取ってあげたんです。
わたしは、気持ち悪くて、できなかった。
姉は、そのまま、いつ死んでもおかしくないその猫に、夜通し、付き添ってた。
しかも、姉は、ものすごく引っ込み思案なんですよ。
小学生の頃、クラスで先生に名前を呼ばれても、返事できないくらい。
それなのに、捨て猫を「もらってください」って、高校の前で、通る人ひとりひとりに、声をかけてた。
本当は知らない人に話しかけるのも勇気が必要だったはず。でも困ってるニャーのためならなんでもする人。
で、ここからが、本題。この、やさしすぎる人が、刀を持ってる。
姉は、人一倍、正義感が強い。
間違ってることを、見過ごせない。
忖度できない。空気も、読まない。
「わたしは、絶対に間違ってない」。
そう思ったら、相手が上司だろうがなんだろうが、すぱっと、切っちゃう。
その刀は、正義の刃。
だから、ややこしい。
怒ってるんじゃなくて、「正しさ」で切るから、まわりも、自分でも、止められない。
鞘には、収まってない。
いつでも切れるように、抜き身のまま、握ってる。
でもね、これ、あの猫と、おんなじエンジンなんです。
弱ってるものを、放っておけない。
間違ってることを、見過ごせない。
引っ込み思案が吹き飛ぶくらい、愛のほうが、勝っちゃう。
猫のためなら知らない人に声をかけられるし、正しさのためなら上司でも切れる。おなじ、火。
で、ここが姉のかわいいところなんだけど、ぱっと切ったあと、すごく困ってるの。
「あ、やっちゃった」って。
自分の立場も、悪くなる。困ってる。──でも、間違ってはいない。そこは、絶対に、譲れない。
すごくすごく、ロマンチストで。地球のことを、本気で愛してて。自分に対しても、真面目。言葉を選ぶのも、真面目。
だけど、思ったようには、世界はいかない。
だから、生きづらいだろうな〜、歯痒いだろうな〜、って、わたしは思う。
歯痒いのは、あきらめてない証拠。世界を、まだ、愛してる証拠。
これが、火なんだと思います。
ふたりめ、祖父。出さなかった、ラブレター
もうひとり。わたしの、祖父。こっちは、もう亡くなってるんですけど。
学校の先生でした。そして、ともかく、怖い。
ごはんを食べてるとき、食卓と顔が近すぎると、あいだに三十センチ定規を、すっと挟まれる。
行儀が悪いと、怒られる。食べ方にも、うるさい。
曲がったことが、大嫌い。──ね、ピッタさんでしょう。
でも、この祖父が、最高におしゃれなんです。
出かけるときは、きれいなスーツを着て、革靴はピカピカに磨いて、ステッキを持って、帽子をかぶる。
行き先は、毎日、駅前のケーキ屋さん。
お茶を飲んで、ケーキを食べて、帰ってくる。
それだけのために、あの正装。
だから、駅の帰りに祖父に会うと、うれしかった。
おしゃれなおじいちゃんと、ケーキ屋さんに寄って、おごってもらえるから。
いつもは、怖い顔。
でも、たまに、少年みたいに、ニヤッと笑うんです。
「膝に乗っていい?」って甘えると、「おう。乗って来いっ!」って。
そう言いながら、わたしの手の甲を、ぎゅっとつねって、ニヤニヤニヤニヤしてる。……この人、ほんとは、やさしいんだろうな、って、子どもながらに思ってました。
(ちなみに、顔はお猿さんに似てて、頭は禿げてました。赤ら顔で、体温が高くて、髪が薄い。これ、実は、火のひとの体つきなんです。でも、その話は、体の回で。)
祖父が亡くなったあと、お葬式に、教え子だった人が来てくれました。
その人が、言うんです。
「先生は、ものすごく理解のある、やさしい先生でした」「生徒の気持ちを、誰よりも、理解しようとしてくれる先生でした」って。
わたし、びっくりしました。だって、そんな一面、家では、見たことなかったから。
さらに、家で遺品を整理していたら、祖母に宛てた、ラブレターが出てきたんです。たぶん、出してない。書いたまま、渡せなかったやつ。
……ああ、この人、こんなに、情熱的だったんだ。こんなに、あたたかいものを、内側に持ってたんだ。
火のひとって、そうなんです。鋭さが、先に立っちゃう。
やさしさや、情熱は、あとから、証明される。
ときには、いなくなってから。
祖父の火は、定規や、怖い顔じゃなくて、出さなかったラブレターの、ほうに、ほんとうはあった。
火は、隠しても、漏れる
姉は、火を、隠さない。刀にして、外に出す。
祖父は、火を、隠そうとした。でも、ラブレターになって、漏れてた。
出しても、隠しても、火のひとは、火を隠せない。
ピッタは、燃やして、変える力です。
その火が、心に出ると、鋭さになり、情熱になり、正義になる。
ときに人を怖がらせる。でも、根っこにあるのは、いつも「こうあってほしい」という、まっすぐな願い。つまり、愛なんですよね。
冷たいから切るんじゃない。熱いから、切っちゃう。
ちなみに、うちのパートナーは
火の話をしたので、対照に、ひとつだけ。
うちのパートナーと、いつか、物騒な話をしたことがあって。もし相手の国が核兵器を持っているなら、日本も持つべきか?
パートナーは、大反対でした。で、こう言った。
「たとえば、相手が斧を持ってて、自分も斧を持ってしまったら。斧が振り下ろされそうになった時、自分も、斧を握ってしまうだろ」
持ってしまったら、使ってしまう。だから、持たない。……で、ここからが、この人らしいんですけど。
「おれは、絶対に、人を傷つけたくないからさ。いっそ、頭かち割ってくれ!」「俺は、一番に、頭かち割ってもらう!」って。
刀を握って離さない姉と、斧を握らないと決めて「一番に割られる」と言うパートナー。
おなじ「傷つけたくない」が、こんなに逆向きに出る。
火のひとは、刃を握る。そうじゃない人は、握らないほうを、選ぶ。
ドーシャって、こういうところに、出るんだなあ、と思います。
(パートナーが何のドーシャかは、まあ、いつか。今日は、火の引き立て役として、登場してもらいました。ありがとう。)
「あなたはピッタね」と、決めつけないで
ここまで読んで、「あの人、まさにピッタだ」「わたしかも」と思ったかもしれません。
でも、「あの人はピッタだから」「わたしはピッタだ」って、そこで決めつけて、しばらないでほしいんです。
ドーシャは三つとも、誰の中にもあります。
火のない人なんて、いません。
割合も、季節や年齢や、その日の体調で、ゆらぎます。
ほんとうの体質は、専門家が、ていねいに診てくれるもの。
ここに書いたのは、あくまで「性質のイメージ」です。
それでも、こうやって知っておくと、怖い上司も、頑固なあの人も、ちょっと、見え方が変わる。
「ああ、あの鋭さの奥に、火があるんだな」「たぶん、何かを、すごく愛してるんだな」って。
火を隠せない、ピッタさん。もし、あなたのまわりに、いたら。
あるいは、あなたの中にも、いたら。
その刃の奥の、あたたかいもののほうを、ちょっとだけ、見てあげてください。
火のひとの、体の話──かかりやすい不調や、火を鎮める整え方は、また別の回で、ゆっくり。
次は、カパの話を。
90日間のアーユルヴェーダ実験、本編はこちら。
