誰かが口ずさむって、こういうことなんだ
今日、忘れられない瞬間に出会った。
グラウンドで、よく見かける少年が
「勇者に贈る歌」のサビを口ずさんだのだ。
お兄ちゃんの応援で何度も来ていた子。
まだ小さな声だったけれど、
暑過ぎる昼下がりにテントの影の中
風に乗って、確かに届いた。
守備の声。金属バットの音。
父兄の歓声やざわめき。
そのすべてにかき消されても
おかしくないのに
不思議なほど澄んだその歌声だけは
真っ直ぐに俺の耳に飛び込んできた。
思わず振り返って
その子を見つめてしまった。
歌っている本人は何も意識していない。
ただ自然に、口ずさむように。
その無邪気さが、かえって心を揺さぶった。
「届いてるんだ」
胸の奥で何度もその言葉を繰り返した。
数字じゃない。
収益でも再生回数でもない。
あの声が、何よりの証拠だった。
「勇者に贈る歌」は、息子に贈った歌だ。
生まれた日の鼓動。
初めての泣き声と笑い声。
ソフトボールで流した汗や涙、
仲間とぶつかり合った日々。
昭和平成の魂。
すべてをメロディに閉じ込めた。
だから最初は「うちの物語」だった。
けれど今日、確かに変わった。
個人の歌が、みんなの歌へ。
家族の記録が、チームの記憶へ。
あの何気ないワンフレーズが
それを証明してくれた。
白線の匂い。
ミットの乾いた音。
オレンジ色に染まる空。
勝って全員で抱き合った日も、
悔しくて一言も出なかった日も、
そのど真ん中に音楽は寄り添える。
もし彼がユニフォームに袖を通す日が来たら。
初めてベンチに座るとき。
初めて打席に立つとき。
緊張で体が固まるかもしれない。
でも、その時ふと頭の中で流れるのは
「勇者に贈る歌」のサビかもしれない。
仲間と声を合わせ、全力でプレーしたあと、
勝って笑い合う瞬間にも。
悔しさに涙をこらえる瞬間にも。
そのメロディが心の片隅で響くかもしれない。
そんな未来を想像しただけで、胸が震えた。
音楽は、家族を超えて、仲間を超えて、
こうしてまた広がっていく。
配信のグラフは嘘をつかない。
けれど、今日のあの一声はグラフを超えていた。
スマホの向こうじゃなく、目の前。
再生じゃなく、再現。
数字じゃなく、手触り。
音楽は、確かに届いている。
勇者に贈る歌を口ずさむ。
そんな君も勇者なんだぜ。
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「エモい」をただの流行語じゃなく、熱と説得力をもって伝えてくれる。
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