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短編小説|Cotton

 グラスを口元に近づけると、まだぴちぴち弾ける炭酸が鼻先にあたる。大きく一口飲み込むと、刺激と清涼が喉を抜けて身体に染み込んだ。レモンと、蜂蜜と、いくつかのスパイス、強い炭酸。
「はー、仕事上がりの一杯はうまい」
「はは、酒飲んでるみたいだね」
「いやほんと、うちのレモンスカッシュ最高ですよ」
 お世辞じゃなく私は心からマスターにそう言った。十四時半のラストオーダーに追加もなく、クローズの十五時前にはお客さんもはけて、いつもより早いバイト上がり。仕込みをしながら、マスターは声だけこっちに向けて言った。
「美波ちゃん、夫君、今日帰ってくるんだっけ」
「はい、予定通りの新幹線に乗ったって連絡入ってました」
「何日振りだっけ? 楽しみだね」
「三日? 四日かな? いや特に楽しみも何もないですけど、お土産は楽しみかも」
「ははは」

 定期的にある本社出張の後にそのまま友だちに会ってくるから、夫の出張はいつもちょっと長い。島暮らしの身としては都会で遊んで来たい気持ちは理解できるから、まぁ良しとしている振りをする。そして罪悪感なのか何なのか、夫のお土産はいつも凝っている。いつかの、螺旋状に詰まった薄い花びらのチョコレート。缶を開けた途端にとりどりの色彩が目に飛び込んで、綺麗、と思わず声に出た。そんな私を夫が満足そうに見ているのを、私は視界の端で捉えている。
 花びらの層の上にふたつみっつ散っている、ハートのチョコレートが愛らしい。こんなの、誰に教えてもらうんだろう。
 残りのレモンスカッシュを飲み干して、私は席を立った。

「出張で都会に行くから、ちょうど週末だし友達んとこ泊まって来るわ」
「いいね! 楽しんで」
「はい、これお土産」
「いいね! ありがとう」
 いいね、いいね、いいね……言う度、私の脳内には綿あめ製造機が浮かぶ。正確に言えば、あの機械によって発生する薄いかすみのようなもやが。ドーム型の機械の底の、中心に突き出す口にザラメを入れると巻き上がる風に乗っていつの間にか発生する、あの靄。靄は思いのほか速い速度でどんどん溜まって、私は埋もれてしまう。ふわふわ軽いようで、触った途端べたべた溶けて指を汚す厄介な綿。
 誰かそれを割り箸で上手にくるくる絡め取ってくれる人はいないのだろうか。
 不意に『まわたでくびをしめる』という言葉が浮かんで溶けた。それは不用意に綿あめに触った時の、あの指のべたべたを私に思い出させた。



こちらに参加するつもりで書きはじめたものの
期限には間に合わず

ですが、お題は使わせていただきました

ありがとうございます

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