[雑記帳] 25.10 very first trip for myself
私のアルゲリッチさまを聴きに京都に行って来たのだが、実はこれ、人生初めてのプライベート一人旅であることに、出かけてから気づいた。一人旅自体はそこそこ慣れている方だと思う。学会は日本全国通津浦々、どころか地球の裏側でも開催されるので、必要とあらばどこでも出かけていく。行った先では研究仲間と会って食事や休憩時間のミニ観光をご一緒したりもするが、行き帰りはひとりのこともままある。でも、プライベートでは一人旅をしたことがなかった。何処かへ行くというと母がついてきたがるし、何しろ毎日変わりがないか決まった時間に電話をすることになっているから、秘密の旅行もできない。旅行と言えば母を連れての旅行で、自分のために旅をしたことがなかった。友達との旅行の回数も片手で十分に数えられる。通常の連絡手段を携帯に変えてようやく手に入れた移動の自由。
記念すべき初めての旅が、アルゲリッチさまからのとてつもないエネルギーをもらう旅で、本当に良かった。これからはもっと自分だけのために旅しよう。
目的がコンサート鑑賞だったので、他にはそれほど旅らしいことはしなかった。何しろ京都である。どこもかしこも混んでいる。コンサート後の夕食も危うく食べ損ねるところであった。百貨店(と関西に来たら言いたい)の地下のイートインにラストオーダーギリギリに駆け込んで、何とか入れてもらった。でも本場の西京焼定食は美味。一泊し、翌朝は東寺へ。目的は写経。観智院で小一時間の体験。ところどころしか意味がわからないままに般若心経をなぞる。帰ったらもう一度じっくりとこのお経を味わいたいと思った。最後に願い事を書くことになっていた。瑣末なことなら色々あるが、改まって仏様に願うことと言われると思いつかない。
数年前、藤井聡太さんに密着した番組で、初詣で神社に赴いた藤井さんに何を祈ったのか聞くと、将棋のことは神さまにお願いするようなことではない、自分が頑張るしかないのだから、兄が受験なので合格をお願いしました、という趣旨のことを話されていたことが思い出される。超天才かつ超努力家の藤井さんと同じ土俵では語れないが、それでも少しわかる気がする。良い仕事ができるように、ほんの少しでもピアノがうまくなれるように、健康でいられるように。願いはたくさんあるけれど、多くは自分がそのために行動してこそだ。自分だけではうまくいかないこと、巡り合わせや運としか呼べないものも多くあるけれど、それはそれで、神か仏かあるいは世界そのものかの配剤で仕方ないかと思ったり。となれば、願い事は外に向かう。母が穏やかに天寿を全うできること、長寿でもなく、さっさとお迎えが来るようにでもなく、ただ天寿を全うしてくれたら良い、ただしもう少し心穏やかにいてほしいものだ。そのことを書きたかったが、漢文調にはどう言えば良いのか。係の方は、好きに書いていいですよ、海外の方は英語で書いたりしてますから、と言っていたけれど、慣れない筆ペンで長い文章を書くのも面倒だ。結局それも止めて、少し面映いけれど、世界平和、と書いた。
後から、そうだ、科研採択、とでも書けば良かったな、と思った。凡人研究者、つまり採択のボーダーラインをうろちょろしている者にとっては、科研費も宝くじのようなもの。運が良ければ当たる。でも今度は当たってほしい。思い入れのあるテーマだから。世間的に評価されるかどうかはわからないけれど。
観智院のほかは有料エリアは拝観せず、囲いの外から五重塔を眺めた。御影堂にお参りし、境内の無料エリアをぶらついていると、お大師様のおことば、という立て看板が目に留まる。読んでみて、ああそうか、と心が軽くなった。印刷したものがご自由にお持ち帰りください、となっていたので頂いてきた。それが、タイトル上の写真。
どこまでも迷っていけることが悟り。なんだ、迷ってよいのだ、迷走ならお得意だ。色々あるけれど、これで良い。
軽い足取りで東寺を後にして、水族館に向かう。入場料2400円に少しひるむが、いやいや、ここはどうしても会っておきたい方がいる。

名前の通り、大きい。お父さんに手を引かれて水槽に近づいた坊や、
「でっかい!」
仲良くデートの若者、
「めっちゃおっきいやん、え、あそこが目ぇよね?、かわいくない?」
外国からの旅行客、
「Oh, huge!!!」
みんな大興奮。私も、水槽の前でしゃがみこんだり、はたまた爪先立って水槽の上から覗き込んでみたり、スマホで写真を撮ってみたり、かなりの時間、その場を離れられなかった。寿命は50年とも、それ以上とも言われ、100年以上生きた例もあるとか。何を考えて生きているのかな。
水族館を見終わって、ちょうどお昼。夕方の新幹線を取っていたのだが、人の多さに疲れてきた。アルゲリッチさまと写経とオオサンショウウオという、旅の前から楽しみにしていたことは全て果たしたので、早々に旅程を切り上げることにした。みどりの窓口も券売機もこれまた長蛇の列で、指定券の変更にも一苦労。それでもなんとか変更でき、また昨日の百貨店地下に行き、阿闍梨餅を買うためにまたもやここでも並ぶ。それでも無事に買うことができ、最後に車中で遅めのお昼にしようと進々堂のパンを買った。すぐきピロシキと季節限定渋皮栗あんぱん。すぐきピロシキ、京都の味がして美味しかった。
はじめてのプライベート一人旅、ごく短い時間ではあったが、楽しかった。これが自分の人生を自分の手に取り戻す第一歩になればいいな。
