Deltron 3030とGorillaz:Gorillaz前夜の未来派ヒップホップ
2026年3月に、秋のGorillazの北米ツアーに特別ゲストとしてDeltron 3030が参加することが発表された。さらに6月には、Gorillazとの公演の合間に行われるDeltron 3030のヘッドライン公演日程もあらためて告知された。

2025年には、彼らがデビューアルバム25周年のフルアルバム・ツアーを行っていたこともあり、この流れは単なるサポートアクト参加というより、ひとつの節目のようにも見える。
この組み合わせは、Gorillazファンにはたぶん「おっ!」となる名前だと思う。単なる懐かしいゲストというだけではなく、Deltron 3030はGorillazが生まれる直前の場所にいたプロジェクトだからだ。
Deltron 3030そのものについては、ヒップホップの文脈から詳しく語っているレビューや記事がすでにあるので、この記事ではGorillazのリスナーとして、Deltron 3030とGorillazがどこで交差していたのかを整理してみたい。
Deltron 3030とは何なのか。
Deltron 3030は、Del Tha Funky Homosapien、Dan The Automatorことダン中村、Kid Koalaによるヒップホップ・プロジェクトで、2000年に同名のアルバムを発表している。3030年のディストピアを舞台にしたSF的なコンセプトアルバムで、Gorillazのデビュー直前にリリースされた作品だ。デーモン・アルバーンもこのアルバムに参加していて、1曲目『State of the Nation』の冒頭からその声を聴くことができる(詳しくは後述)。
そしてDanこそが、Gorillaz 1stアルバムのプロデューサーでもある。
少し遡って、デーモンは90年代にアメリカのヒップホップに強い衝撃を受けていた。2021年のMark Ronsonとの対談では、Blurのアメリカツアーに二日酔いで車のトランクに横になっていたときに、ジャズの影響を受けたニューヨークのヒップホップ・グループA Tribe Called Questを聴いたことを、強烈なヒップホップ体験として振り返っている。ただし、その感覚をBlurの中で表現する方法はなかった、とも語っている。
Blurではできない新しい音を模索していくなかで、デーモンにとって重要な接点になったのがDan The Automatorだった。(ダンと知り合ったきっかけについて質問されたインタビューで、デーモンは「何か新しいことを試そうとしている、というメッセージを出したら彼がやって来た」というように答えている。かなりあいまいな説明ではある。)
Deltron 3030とGorillaz 1stは、2000年前後にかなり近い時期に動いていた。デーモンはDeltron 3030に参加しており、その接点もある中で、Gorillazをある程度作った段階でDan The Automatorを呼んだ。Dan本人も「GorillazとDeltron 3030のサウンドは同じ時期に育っていたから、重なりがある」と語っている。
Del側からの証言も面白い。Delによれば、DanとDeltron 3030の1stアルバムを仕上げていた頃、Danは並行してGorillazを進めていた。ある夜、録音を終えて帰ろうとしていたDelをDanが引き止め、「このGorillazの曲、ちょっと歌詞を書いてくれないか」と頼んだ。渡された情報は、「Russelというキャラクターの頭の中に、死んだ友人の幽霊が住んでいる」という設定だけ。
それが「Clint Eastwood」だ。
Delは、Gorillazのコンセプトアートを見せられたとき、それが『Tank Girl』のJamie Hewlettの絵だと気づいたという。もともと『Tank Girl』が好きだったDelにとって、Gorillazへの入口は、デーモンではなくJamieの絵だったらしい。
Deltron 3030の中にいるデーモン・アルバーン
Deltron 3030はストーリー調のアルバムで、私のようなヒップホップに詳しくない人間でも、映画を見るような気持ちで聴くことができる。
3030年の話なのに、音の質感はピカピカの未来というより、古いSF映画が想像した未来みたいに聞こえる。近未来なのに、どこかレトロで、少し埃っぽい。
ちなみに、1曲目『State of the Nation』の冒頭、“It's the year 3030”と告げる声が、いきなりデーモンの声だ。クレジット上でも、同曲にはadditional vocalsとしてデーモンの名前がある。
さらに『Time Keeps On Slipping』ではadditional vocalsに加えてwritten-byにもデーモンがクレジットされている。
メランコリックなトリップホップの上にデーモンの歌とメロディカが乗る感じが、Gorillaz初期の質感にかなり近い。
アルバムのクレジットでは、デーモンは“Sir Damien Thorn VII of the Cockfosters Clan”というキャラクター名義でも記載されている。
2001年1月の『CMJ New Music Monthly』に掲載されたプロモーション・コミックでは、そのSir Damien ThornがDeltron Zeroたちに対立するヴィランとして描かれていた。ちょっと笑ってしまうので、ぜひ見てほしい。
Gorillazで2Dの背後に退く少し前、デーモンはすでに別名義のキャラクターとして、Deltron 3030のフィクション世界に配置されていたことになる。
余談だけど…
2013年の2作目『Event II』でも、デーモンは“What Is This Loneliness”に参加している
ついでに言うと、Dan The AutomatorにはDeltron 3030と同時期にLovageというプロジェクトもあって、そちらにもデーモンは参加している。ただしこちらは歌ではなく、「Love That Lovage, Baby」という曲で謎のハーブ飲料の宣伝ナレーションをしているという、かなり珍妙なゲスト出演だ。
私はこの経緯を知る前にYouTubeでこの音源にたどり着いてしまい、本当に「これは何を聴かされているんだ……?」と思った(笑)。
Kid Koalaのこと
最後に少しだけ、Kid Koalaの話。
Kid Koalaは、Deltron 3030のメンバーであるカナダ出身のターンテーブリスト/DJだ。レコードをこすって音を作るスクラッチや、サンプルを切り貼りするような感覚で、Deltron 3030のSF的な世界に独特の手触りを加えている。
そのKid Koalaは、Gorillaz 1stでもスクラッチを担当している。2025年8月にロンドンのCopper Box Arenaで行われたHouse of Kongの1stアルバム再現ライブでも、Kid Koalaがターンテーブルで参加していた。
初期Gorillazにあった「音を切り貼りする感覚」や「DJ的な編集の感触」は、Dan The AutomatorやKid Koalaを経由して入ってきた部分が大きいのだと思う。そしてこの感覚は、Gorillazのライブにも形を変えて残っているように見える。このあたりについては、以前書いたGorillazのライブ制作についての記事でも少し触れている。
Deltron 3030がGorillazのツアーに加わるという今回のニュースは、単なる再会以上に、Gorillazの原点の一部がもう一度ステージに戻ってくる、という意味でとても嬉しいニュースだ。
