スイスの思い出③ ルガノ湖畔で出会った「マーレ」と「テーラ」の魔法
前述したルガノとコモでの結婚式の前日のこと。
その日は、翌日の結婚式で私を車でピックアップしてくれるという新婦の友人と、顔合わせも兼ねてランチをすることになっていた。
場所はルガノ湖畔のレストラン。テラス席に案内されると、湖面がきらきらと光を跳ね返し、夏の空気がゆっくりと流れていた。
私はシーフードのピザを、彼女はキノコのピザを注文した。海外で初対面の人と会うということもあり、私は少しだけ緊張しながら言葉を選んでいた。しばらくして、陽気なおじさまがピザを運んできたのだが、そのときのサーブが今も忘れられない。
「マーレマーレはどっちかな?」
「テーラテーラは?」
メニュー名は別にあったはずなのに。
海の幸=mare(マーレ)、
山の幸=terra(テーラ)。
その土地の言葉のリズムで、まるでキャラクターを紹介するみたいに呼び分けてくれたのだ。
その瞬間、私のテンションは一気に上がった。
旅先でふいに出会う、こういう“遊び心”のあるサービスは、本当に心を軽くしてくれる。少し緊張していたはずの空間の空気が、おじさまの一言でふっと柔らかくなった。
湖の光、ピザの香り、英語とイタリア語で交わす会話。
そして「マーレマーレ」と「テーラテーラ」の響き。
結婚式前日のランチは、特別な予定の前に訪れた、小さな魔法のような時間だった。
今でもあのテラス席の光景を思い出すと、胸の奥がふわっと温かくなる。
旅の記憶は、こういう何気ない瞬間にこそ宿るのだと思う。
