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月刊読んだ本【2026.03】


銃・病原菌・鉄

 ジャレド・ダイアモンド/倉骨彰 訳 (草思社文庫)

 すごい知識だ。綿密な調査に基づいて本書は成り立っているし、それらの知識が蓄積されていったのも、人類の歴史がなせる技だった。それぞれの事柄について多角的に考察を重ね、なぜそうなったのかなぜそうならなかったのか、を丁寧に積み重ねて述べられる。本書も人類の歴史の途中でしかないのだろう。大陸が東西に長かったからというシンプルな答えの箇所、シンプルに納得がいく。様々な出来事は、なるべくしてなったように見える。その原因を解き明かす。偶然の積み重ねもある。たまたま飼育栽培しやすい動植物がいたから。それに適した気候だったから。地形的に交流が生まれて文化が広まったから。それらをすべて解き明かす。
 こういう名著が母語で読めて理解できてしまうというのは恵まれていることなのだろう。そうじゃない国も世界にはまだあって現代に生きる多くの人間が読んだほうがいい名著だった。単に人類史を解き明かすのではなくその要因を丁寧に述べる。地理的な問題、野生種の問題等に要因があることを理解できる。民族的なことではない、遺伝子的なことではないと。だからこの本を読むことは世界平和の祈りなのだ。そんなことで争っていないで本を読むのだ人類。

Newton 2025年 3月号増刊 ニャートン ネコの科学

 (ニュートンプレス)

 猫愛に溢れていて、猫と真剣に向き合って科学していた。早く猫になりたい。

ニュートン式超図解 最強に面白い!! 哲学

 伊勢田哲治 監修 (ニュートンプレス)

異常 アノマリー

 エルヴェ・ル・テリエ/加藤かおり 訳 (ハヤカワepi文庫)

 はじめバラバラなエピソードが描かれて、第一部の最後で異常事態が起こる。SFなんだと思う。でも読み進めていくと、単にSFという型にはめてしまうのは違う気がする。だから水色のハヤカワ文庫ではなくepi文庫で文庫化したのも頷ける。物語の着地点はどこなんだろうと思い読み進めるが、それこそがこの物語の目指すべき場所なのかもしれない。
 こういうタイプの物語は古今東西ある。いくつか読んだこともあると言いたいところだが、西澤保彦の作品に思い当たるのがひとつ出てくるだけだ。でもたぶんいっぱいある。そしてどうしてそうなったのか。その異常事態の原因は、わからない。それらしい仮説が提示されるけれど、それはあくまで仮説でしかないし、その仮説を提示された時に人類はどう振る舞うかを描いている。訳者あとがきや解説にも書いてあるが、この異常事態に対して様々な立場の人々を描くことが本書の目的なのだろう。それぞれの選択、行動、思考、決断、全部違うものである。人間は80億いれば80億通りの考えがあって当然だということを描いている。つまり人間はどういう生き物かを描いた文学なのだ。
 作中作として同じタイトルの小説が出てくるけれど、そのメタ的な構造に対して、作中のシミュレーション仮説を超越しているんじゃないかとかそれこそがシミュレーションなのだとかいくらでも考えることはできる。最終的に人類が生きて小説を書いて小説を読んでいるという行為そのものが異常なことなんじゃないかという気がしてくる。他の星の生物はそんなことするのかな。そんな事を考えてしまう。
 まあ、そんなことはなにも気にしなくても純粋に異常に面白い物語を楽しめばいいのだ。そういう生き様もある。深い考察もある。それだけのこと。もっと異常に本を読みたい。

さあ、気ちがいになりなさい

 フレドリック・ブラウン/星新一 訳 (ハヤカワ文庫)

 まずこのタイトルで未だに販売されていることがすごい。
 フレドリック・ブラウンの短編集である。1作目の『みどりの星へ』からすごい。独創的な世界観がよい。日本語の文庫本にしてわずか20ページなのに、濃密な内容だった。この世界の広がりを勝手に想像してしまう。描かれていない箇所にも様々なドラマがあるはずで、それを丁寧に描く長編にすることもできたはずなのに、そうはしないでこのオチのための短編に仕上げている。
 2作目『ぶっそうなやつら』は、疑心暗鬼な人間心理を描く。おもしろい。『電獣ヴァヴェリ』の発想が面白い。電気を食う宇宙生物。『不死鳥への手紙』も30年生きて15年寝る男の話で発想がすごい。45年が1日に相当するからめちゃくちゃ長生きする。奇想すぎる。
 そして表題作。事故で記憶喪失になった、というふりをしている男が自分をナポレオンだと思い込んでいるふりをして精神病院に潜入取材をさせられるが、実は本当はナポレオンだった。なんのこっちゃわからんけど、そこがこの物語のミソである。本当にナポレオンなのか。そう思い込んでいるだけなのか。狂っているのか、狂っているふりをしているのか。狂っているふりをしているつもりが本当に狂ってしまったのか。その曖昧な境界線上を綱渡りする人間の精神。『明るく輝けるもの』の幻聴が聴こえる。「まだ狂ってはいない」

短歌探偵タツヤキノシタ

 舞城王太郎 (ナナロク社)

 舞城の言葉はいつも私を救ってくれる。それは魔力である。でも魔以上なのだ。31文字で言葉を操る短歌という世界と、舞城の言葉と向き合う姿勢がより私を熱くさせる。九十九十九のリズムで短歌を詠むのかと身構えたけどさすがにそうはならなかった。
 いつも舞城は伝えにくい感覚を言葉で説明しようとする。「《わかんなさ》が面白みだったりするわけだから」「悲しみはもう詠われたのだ。その解説なんかするだろうか?」「形は大事やけど、形が一番大事なわけでない」こうやって僕が付箋を貼ったいくつかの箇所にも僕は説得されている。いや、説得されているから貼っているのだ。物事の真理をつく言葉。単純な言葉で、確かにそうだと僕に突きつける。
 短歌を受け取った主人公が事件(?)を解決するわけだけれど、その因果関係の構図にも切り込んでいく。名探偵がいるから事件が解決する、名探偵のために用意された事件という突っ込みに対して、でも短歌を受け取ったからどうしようもないのだと言う。「どうしようもないってのは、やめることも別の道を選ぶこともできないし、そんな他のことができる気もしないってことなのだ」「これはこれでいい」そこに理由や理屈を求めない。短歌探偵になってしまったから短歌探偵をやるしかないのだ。つまりミステリではなく純文学のたぐいなのだ。
 短歌探偵、タノシキヤツダ。

試合/獰猛なる野生児 ボクシング小説集

 ジャック・ロンドン/牧原勝志 訳 (光文社古典新訳文庫)

 試合のシーンの緊迫感。ジャック・ロンドンはいつもギラギラした瞳でこちらを見ている。戦いのリアルな描写に引き込まれる。そして物語の終わり方がどれも良い。スポーツとしての側面と、興行としての側面とその闇を描く『獰猛なる野生児』はこの時代からそういうものがあったと知ることもできてとてもよい。同時に時代を超えて読むことができる普遍性がロンドンの作品にはあるよね。

ひとこと

 花粉。

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縁川央 もっと本が読みたい。

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