【連載小説】君の消えた日-二度の後悔と王朝の光-1000PV感謝記念番外編_入江智大編-南柯の夢-
【前話】 【最初から】 【目次】 【第二章登場人物】【第二章番外編】
読者のみなさん、こんにちは☆
俺は入江智大。東櫻大学文学部日本文学専攻の4年生だよ。
前から『入江さんの普段の生活が謎すぎる』って言われてたのもあって、今日は俺の1日を紹介するね!
まず俺はシェアハウスに自室はあるけど、夜はだいたい任務に当たってるよ。主に怨霊の調査や聞き込み、どうしても怨霊は夜の出現が多いからね。
ん?勝手に動き回って大丈夫かって?
大丈夫!何故なら俺は2級情報統制官だからね!1人で動き回るのは許可されてるよ!
弱いと思われがちだけど、そんなことないからね?!
夜の仕事が終わったら、シェアハウスに戻ってシャワーを浴びて仮眠。
大学も週3回の登校だから、ここから4時間〜6時間くらい寝てるんだ。
起きたら食事をして、今日は大学に卒論の相談に行くよ☆
「智大じゃん!来てたんだ!」
「あゆちゃん!やっほー」
あゆちゃんは同じ研究室で俺の友達の1人。困った時にはいつも助けてくれる優しい子なんだ。
「研究室にも全然顔出さなかったね!忙しかったの?」
「ちょっとアルバイトの方がね〜。前期は代返で助けてくれてありがと!本当に助かった〜!」
「そりゃ、智大のお願いは断れないよね〜……それよりあゆ、行ってみたいカフェがあるんだけど……」
あゆちゃんは頬を赤らめながら言った。
「もちろんだよ!明後日は午後なら時間取れるけどどうかな?」
「あゆも大丈夫!じゃあ15:00に駒葉駅で待ち合わせで!」
「うん♩じゃあまたねっ」
俺は嬉しそうにその場を離れるあゆちゃんを手を振って見送った。
こういう仕事をしていると、急な任務はやむを得ないから”友達”は大切にしてるんだ。中学生や高校生の子達を頻繁に学校を休ませる訳にはいかないし、澪くんは大学生だけど1年生で授業がたくさんあるから、俺が動く機会は多いね。
でも、女の子の友達にお礼をしてばかりいると、柊ちゃんに『また違う人と仲良さそうに腕を組んで歩いてましたね』ってジト目で見られるんだよね〜。難しいな。
さて、そろそろ卒業論文の相談に研究室に行かないと。
――コンコン、ガラッ!
「失礼します」
「あぁ、入江くん待ってましたよ。コーヒーでもいかがですか」
ゼミ室の扉を開けると久我先生が出迎えてくれた。今日会う約束をしていたから、コーヒーを準備してくれてたみたい。俺は会釈をして「頂きます」と答えた。久我先生に手招きをされて、中央に設置されたテーブルに腰をかけた。
「久我先生、お時間を割いて頂きありがとうございます。卒業論文の文献の相談なのですが――」
久我昂矢先生はこの大学で平安時代の文学(中古文学)を専門に研究してる准教授。現在から中世の日本文学の位置付けについて卒業論文を書こうとしてるんだけど、前世の記憶があるものだから、今残ってない文献と残ってる文献の解釈の違いに苦戦して、論文が難航してるんだ。
「なるほど……その内容で推論を深めたいなら、この方の文献が参考になるかも知れません」
そう言うとパソコンの画面を使っていくつか文献を紹介してくれた。
「ありがとうございます、助かりました」
「入江くんが卒業論文を書こうとしてるテーマは、僕の恩師の専攻分野だったんです。なので、色々力になれると思いますよ。もう亡くなってしまっていて、紹介できないのが残念なのですが……」
久我先生は悲しそうに微笑んだ。俺はその笑顔を見て心が痛くなった。
「……そうだったんですね」
「いえ、お家の仕事もあって大変でしょう。何かあれば小さなことでも相談してください」
「はい!もちろんです」
「入江くんは大学院に進むんですよね?」
「そのつもりです」
「では入試は来月ですね。入江くんの実力なら問題ないと思いますが頑張ってください」
「ありがとうございますっ」
俺は久我先生に一礼してゼミ室を後にした。
いくら本部の仕事が大変でも、卒論も大学院の入試も手を抜けないからね。選んだのは俺だしね。
「……あれ?」
ちょっと疲れが出たのか頭がぼーっとするな。今日は早く寝なくちゃね。
*
「ただいまー」
電車でシェアハウスに帰宅すると、リビングで柊ちゃんと澪くんが何やら話し合っていた。
「おかえりなさい」
澪くんが笑顔で出迎えてくれる。
「入江さんおかえりなさい……って」
そこまで言うと、柊ちゃんはリビングに置いてある救急箱から体温計を取り出した。
「柊ちゃん、どうしたの?」
「どうしたのじゃないですよ、熱測ってください」
柊ちゃんが鬼の形相なので渋々検温すると、37.5℃の熱があった。
「柊ちゃん、心配してくれて嬉しいけど、これくらいなら大丈夫だよ……?」
「熱があるのに何言ってるんですか。今日の任務は私が変わるのですぐに寝てください。澪さん、すみませんが入江さんを部屋まで連れて行ってくださいませんか?」
澪くんは柊ちゃんの言葉に頷いて立ち上がった。
「分かりました。行きましょう」
「え?!澪くん?!本当に俺大丈夫だよ?!」
澪くんにそう伝えたものの、澪くんは構わず俺を引きずって行く。澪くんは基本的に良い子なんだけど、こうと思ったら絶対に譲らないんだよな〜。
俺から部屋の鍵を受け取って扉を開けると、一緒に部屋の中まで入って来た。
「澪くん、ちょっと強引じゃない……?」
「あなたのことが心配だからこそですよ。最近ずっと夜の任務に入ってくださってましたよね?今日はとにかく休んでください」
「本当に大丈夫だって〜」
「じゃあ少しの間で構わないので、ベッドで目を閉じていてください」
澪くんが頑ななので、俺は仕方なくベッドに横になり目を閉じた。
――『伝承役を我が一族で継承できないなんて……智大、お前にはがっかりした』
――『……父上、申し訳ありません』
――『よりによって現世で四官に選ばれるなど……入江姓を名乗るのは許そう。ただし、二度と入江家の敷居を跨ぐな』
あぁ、これは夢だ。何度も見てる夢。
伝承役っていうのはね、起こったことを記録して後世に語り継ぐ人間のことで、3つの一族から交代で選ばれるんだ。と言いつつ、直近では3代連続で入江家から選ばれてて……。それが一族の誉れでさ。
でも、俺はたまたま転生しちゃった。四官の朱雀の力と記憶を持つ神官として。古い決まりで四官は伝承役になれない。強大な力を持っているから、傍観者として史実を記録するのは不可能だという判断みたいなんだけど、まさか平安時代に途絶えた四官になる人間が現れるなんて誰も思わなかっただろうね。一族にとって最大の誉れを俺が潰しちゃった。
この時の俺は18歳。
でも悲壮感より解放感の方が強かった。
どうしてだと思う?
俺は一族の傀儡だった。伝承役として感情と心を殺し、目の前で起きている事象を記録し続けることだけを求められてきた。そのための鍛錬もたくさん積んだ。
でも、そんな中で俺はあの人達と出会って、目の前のレールを歩くことだけが人生じゃないって教えて貰った。
感情と心を殺して事象を見極めるのは簡単だけど、面倒でも人が喜ぶことをすると心が動くのが分かるんだ。だから、みんなのために動きたい。
歴史を記録する傀儡ではなく、人として生きていたい。
だから俺は――。
「――はっ!」
俺はそこで飛び起きた。汗をぐっしょりかいて息も上がっている。
「大丈夫ですか?結構な時間うなされていましたよ」
椅子に座っていた澪くんが心配そうに声をかけてきた。
「今何時……?」
俺はスマートフォンで時間を確かめると、目を閉じるように言われてから2時間が経過している。澪くんに差し出された体温計で体温を測り直すと38.6℃の熱があった。
「疲れが出たんですよ。今日はゆっくり休んでください」
「本当にごめんね……体調管理ができてないとか」
「良いんですよ。気になさらないでください……入江さんは気さくで親しみやすい雰囲気を作っていますけど、実は心の中では笑っていないこと多いですよね」
俺は思いがけない澪くんの言葉に一瞬怯んだ。
「……どうしてそう思うの?」
「目が笑っていないことが多いですよ。自覚されていないのかも知れませんが」
「そんなことは……」
「俺は目が良いんですよ。俺から見ていて、誰よりも冷静に俯瞰して状況を見ているのは本部長ではなくあなたです。でも、使命感で雁字搦めになってしまうと自分が苦しんでしまいますよ」
「俺はそんな使命感なんて持ってないよ、ただーー」
「ただ?」
澪くんは続きを教えて欲しいようだけど言葉が出てこない。
「うーん。上手く言葉にできないや」
「無理に言葉にしなくて良いですよ。少なくとも角端と索冥はあなたを信用してます。あの状況の中で俺たちを擁護してくれた人なんてほんの一握りでしたからね」
「それは前世の話でしょ。柊ちゃんは俺に心なんて許してないと思うよ」
俺がそう言うと、澪くんはくすりと笑った。
「あの方は少々不器用ですから。入江さんには本心のまま話されているのが何よりの証拠ですよ」
澪くんは「もう少し寝てください。雑炊でも作って来ますね」と言って立ち上がると、俺の部屋を出て行った。
俺はもう一度ベッドに横になって、スマートフォンを手に五麟のみんなから来ていたたくさんの通知をスクロールした。
【ちゃんと寝てますか?今度は体調悪くなる前に自覚してください】
あちゃ〜。柊ちゃんまた怒ってるな。
【入江さん!!大丈夫ですか?!良ければ明日の任務も代わるんでゆっくり休んでくださいね!!】
永遠くん、すごい勢いで心配してくれてるな。
【塾の合宿でシェアハウスを空けてしまいすみません。帰りに食材を買って行くのでリクエスト待ってます】
夏都くんご飯作ってくれるのか、嬉しいな。
【中学生なんだから夜の任務はつけないよ。早く治してね】
そりゃそうだ、ごめんね璃玖くん。
そっか。俺はみんなに生きていて欲しいんだ。
今度こそ。いや、今を生きるみんなに。
だからこんなに頑張れるのか。
【みんな、ありがとう。大丈夫だよ】
俺は返信してから再び眠りについた。
みんなのために頑張る永遠くん、柊ちゃん、澪くん、夏都くん、璃玖くんがもっと笑顔でいられますように。
*
夏季休暇中の東櫻大学は人もまばらだったが、そんな中で薄暗い研究室に籠っている人物がいた。
久我は自身の研究室の机の引き出しにしまってあった論文を大切そうに取り出した。タイトルは書かれておらず、『松任姫乃』と言う名前だけが記載されている。
「私は彼らをちゃんと導けているでしょうか……姫乃さん」
久我は憂いを帯びた表情でそう呟いた。
【次話】第三章 登場人物一覧
12/20(金)22:00頃更新
【第四章本編はこちら】69話 インタールード2-覆水盆に返らず-
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