【連載小説】君の消えた日-二度の後悔と王朝の光- 57話 守りたかったものと守れなかったもの5-明日ありと思う心の仇桜-
【前話】 【最初から】 【目次】 【第二章登場人物】【番外編】
柊の祖母の墓の前で眞白に全てを打ち明けたと告白した永遠。柊は眞白の反応を永遠に尋ねた。永遠は緊張して体が強張っている柊の様子を見て、小さく笑った。
「――『無理し過ぎ』だとよ」
「え?」
柊は驚きのあまり放心状態になっているが、永遠は気にせず続けた。
「だから、心配してたって。あと、『来年も3人で一緒につばめヶ丘の夏祭りに行こう。今度は3人浴衣を着て』って伝えてくれってさ」
「――それだけ?前世のこととか、怨霊のことも話したんでしょう?」
「眞白がそんなことで動じる訳ねぇじゃん……あ、入学式の一件は腑に落ちたみたいだったけどな。俺に説明されるまであの騒ぎのこと忘れてたらしい……怨霊絡みだとやっぱり記憶が薄くなるんだな」
永遠は納得した様子で頷いた。そんな永遠の様子を見て、柊はその場にゆっくりと崩れ落ちた。
「おい?!大丈夫か?!」
永遠が柊の肩に手を添えると、柊は穏やかな笑みを浮かべた。
「大丈夫、なんだか安心しちゃった……私、眞白との関係が変わってしまったらってずっと怖くて……」
「眞白も同じこと言ってたぞ」と永遠は優しく笑った。
「私の幼馴染は器が広いというか……本当に”良い人”なんだよね……」
「――でも”良い人”じゃ、柊と一緒に茨の道は歩けねぇ」
「え?」
永遠は柊の祖母の墓前に体を向けた。
(俺は本部のアルバイト誘われた時も乗り気じゃなかったし、兼路から前世の話を聞いて能力発動できなくなったり、柊からしたら弱くて頼りにならなかっただろうけど……それじゃダメなんだ)
「――柊のばあちゃん、ずっと柊を独りにしてごめん。これからはちゃんと柊を守れるようになるから……!この左手の痣に誓うよ」
ここで永遠は柊がじっと見つめていることに気づき、「何だよ」と声を掛けた。
「永遠、大きくなったね……」
柊が立ち上がって自分の身長と比べた。
「身長もさらに伸びたし、鍛えてるからな」
「永遠は覚えていないでしょうけど、炎駒とは……前世ではただの同僚だった。だけど、同い年で背中を預けられる仲間でもあった」
「そう……だったのか?」
柊が前世での関係性について言及したのは初めてだったため、永遠は驚きを隠せなかった。
「炎駒は主のそばについていて、私は全国を行脚していたから、一緒に仕事をする機会は多くはなかったけれど……五麟の存在意義は太陽の覡をお守りすること。だとしたらあの方は必ず現れるはず」
「……だろうな」
柊の言葉に、永遠は力強く頷いた。
「五麟として太陽の覡をお守りするのが使命だって分かってる。それでも……おばあちゃんの仇を一緒に探してくれる?」
「あぁ、もちろん。お前がもう大切なものを奪われたりしないようにな」
「……ありがとう」
柊は目を丸くすると、俯いて小さく呟いた。
*
深夜の駒葉市の路地。
1人の男がぶくつさ呟きながら歩いていた。
「くそ……!兼路のやつ、怨霊の調査なんて誰にでも出来る仕事を振りやがって……!なんで俺がこんな使いっ走りをさせられなきゃならねぇんだ!!腹立つ……!」
男が目の前に転がっていたペットボトルを蹴り飛ばすと、転がっていった先に人影が見えた。
「……こんな真夜中にお仕事なんて大変ですね」
聞こえてきた声は少女のものだった。少女が男の方へ歩いてくると、街灯にその姿が照らされた。黒のワンピースに身を包み、全てを包み込むような笑みを浮かべている。
「あ、いや……」
男は気まずそうに相槌を打った。
「あなたは五大神官一族のひとつ、鷲尾一族の御子息ですよね。神官の会合で一度お見かけをしたことがあります」
「え、君も神官なのか……?」
「はい。会合に出るのはほとんど兄なのですが……」
少女は男の目の前に立つと、その両手で男の右手を包みこんだ。
「あなたのような素晴らしい神官さんを放っておくなんてできません。私の力で、あなたの本来の力を解放させてもらえないでしょうか?」
男は状況が飲み込めない様子で、「俺は本来の力を出せていないのか……?」と聞き返した。
「そうです。あなた本来の力……ご存知ですか?怨霊の力を上手く利用すると、神官本来の力を発揮することができるんですよ……」
「願ってもない話だ……!力を解放してくれ……!」
少女の瞳は翡翠の輝きを放っているが、彼女の瞳を見つめる男の目からは光がなくなっていった。
「……では行きましょうか」
少女は男の手を引いて闇夜に消えていった。
*
演武会での一件から1週間が経ち、無事に補講を終えた永遠は朝から任務に就いていた。
「冴木さんが駒高の制服着てると、なんか変な感じっすね」
「普段は学ランだからネクタイが慣れなくてね。曲がっていないかい?」
永遠が目線をやると、冴木はネクタイを締め直していた。
「そんな上まできっちり締めなくて大丈夫っすよ」
「それもそうか……しかし、夏休みなのに人が多いね!」
そう言いながら冴木は校内を見渡した。
「9月に文化祭があるんで、その準備で登校してるやつが多いっす」
「茅野くんも登校しているんだろう?」
「はい。4組は部活があるやつ以外、みんなで集まって準備してるみたいっすね」
永遠の話に相槌を打ちつつ、冴木はカバンからタブレットを取り出した。
「今日は中学3年生向けの学校説明会と校内の見学ツアーが実施されるようだ。僕達の任務は警備員では対処が難しい有事の対処だ。まぁ昼間だし、余程の怨霊でなければ出現すらしないだろうがね」
「前から思っていたんすけど、昼と夜で出現する怨霊って違いがあるんすか」
冴木は永遠の問いに神妙な面持ちで頷いた。
「昼間に現れる怨霊は少ないが、出現した場合には強力であることが多いんだ。だから出現の可能性がある場合には、五麟はなるべく2名以上で任務にあたる」
「なるほど……」
「あれ?橘じゃん?」
永遠と冴木が話していると背後から永遠を呼ぶ声がした。
「相内!」
「久しぶりだな。ウチのクラスは執事喫茶やるから来てくれよな」
「ああ、行かせてもらうよ。お前にもてなされるの面白そうだし」
「からかうなって……ウチの執事喫茶、女子が男装するんだって。茅野めちゃくちゃ嫌そうな顔してたけど、大人しく採寸されてたよ。でも、今日3組は誰も来てなかったけど……?」
相内琉生は不思議そうに首を傾げた。
「今日は学校見学の方を手伝うことになってて」
――ブー……ブー……。
永遠は急いでスマートフォンの画面を確認した。
「悪い相内、電話が来たからまたな」
「おう、橘も頑張れよ」
相内はそう言うと永遠達から離れていった。
「――橘です」
『芝山だ。配置には着けたか?』
「はい、すでに校内に入っています。これから冴木さんと巡回を開始します」
『わかった。非番だが、万が一の際は茅野とも連携を取ってくれ』
「了解っす」
そこまで確認を終えたところで永遠は通話を切った。
「芝山さんかい?」
「はい、これから巡回するって伝えました」
「在校生だけではなく、今日は学校説明会が開催されていることもあって外部からも多くの人間が集まっている。加えて、文化祭の準備で障害物となる物も多い。避難経路を改めて確認した方が良さそうだね」
冴木はタブレットで駒葉高校の構内図を確認しながら言った。
「そうっすね――……え?」
永遠は気配を感じて、勢いよく顔を上げた。
「橘くん……何か感じたかい?」
「今、校庭の方から何かの気配が……」
永遠は冴木とともに5階から1階まで駆け下りて昇降口を出た。永遠の手には朱槍の石突が握られている。
(今のは怨霊の気配でいいんだよな……?それにしてはいつもとなんか違うような……)
2人が校庭に到着すると、永遠が今まで経験したことがない程に強い怨霊の気配で満ちていた。
「冴木さん、これって――!」
そこまで言いかけた永遠を冴木が制止した。
「橘くん、気を引き締めるんだ……来るよ」
――ザバァァァァ!!
次の瞬間、眼の前が真っ暗になった。
【次話】58話 涙ぼくろと邪悪な炎1-情けに刃向かう刃なし-
9/6(金)22:00頃更新予定
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