胃ろうにするか、しないか。正解のない選択の前に知っておきたいこと
「胃ろうにするかどうか選択しなければいけないのですが、どうすればいいでしょうか」
現場で受ける相談のひとつです。病院や施設からそう言われた時、多くのご家族が言葉を失います。何が正しいのか、本人はどうしたいのか、自分たちが決めていいのか。答えのない問いの前に立たされる瞬間です。
この記事では、胃ろうとは何か、どんな場面でその選択が迫られるのか、そしてどう考えればいいかを、現場の視点から整理します。正解をお伝えすることはできません。ただ、判断する時に持っておきたい視点を一緒に考えたいと思います。
胃ろうとは何か
胃ろうとは、お腹に小さな穴を開けてチューブを通し、胃に直接栄養を届ける方法です。口から食べることが難しくなった方に対して、栄養を確保するための医療処置です。
「胃ろうにすると、もう口から食べられなくなる」と思っているご家族がいますが、必ずしもそうではありません。胃ろうで栄養を確保しながら、口からも少量食べることができるようになるケースもあります。
胃ろうをすすめられる場面
胃ろうの話が出るのは、主に以下のような状況です。
認知症や老化が進んで、食事を飲み込む力(嚥下機能)が低下してきた時
誤嚥性肺炎を繰り返し、口からの食事が難しくなった時
脳梗塞などで嚥下機能に障害が出た時
こうした場面で、医師から「このままでは栄養が取れないため、胃ろうつくるかを検討してください」と言われることがあります。
実際の現場で、私が関わったケースをいくつかご紹介します。
3日間悩んで、お看取りを選んだ娘さんの話
特養に入所されていたお母様が、食事をとることが困難になりました。胃ろうを造るか、そのまま自然にお看取りという形をとるか、娘さんは選択を迫られました。
お母様は認知症が進行しており、90歳を超えていてかなり衰えていたため、発語もほとんどありませんでした。ご本人の意思を確認する術はありませんでした。
毎日面会に来ていた娘さんは、3日間悩み続けました。そして涙を流しながら、お看取りという形を選ばれました。
施設はこの苦悩の末の決断を尊重し、穏やかで後悔のない最期を迎えられるよう全力で取り組みました。部屋をきれいに飾り付け、お母様が好きだったクラシック音楽を流し、手浴や洗髪で清潔を保ちました。娘さんがゆっくり過ごせるようにソファも用意しました。
娘さんは毎日長い時間をお母様のそばで過ごし、お母様はほとんど苦痛を感じることなく、静かに最期を迎えられました。
後日、娘さんはこうおっしゃっていました。「あの時この選択が本当に正しかったのかは分かりません。でもお母さんと過ごした最期の時間は、『これで良かった』と言ってくれているような気がしました」
何が正解かは分かりません。ただ、後悔のない最期を迎えられたことは、一つの正解だったのだと思っています。
胃ろうを選んだことで、1年後にプリンが食べられるようになった方の話
同じく施設入所中の方で、誤嚥性肺炎を発症し、食事がとれなくなってしまった方がいました。ご家族は話し合って、胃ろうを造設する決断をされました。
胃ろうにしたことで大きな誤嚥はなくなり、栄養が入ることで徐々に体調が改善していきました。カンファレンスでご家族の希望を確認しながら、6か月後には歯科医師の協力のもと、飴をなめることから始めました。
ご本人も意欲的にリハビリに取り組まれ、少しずつ量や内容を変えていき、1年後には胃ろうを続けながらも、プリンのようなものを口から食べられるようになりました。ご家族は「あの時の決断が今につながっている」と喜ばれていました。
胃ろうは「食べることを諦める」選択ではなく、「状態を立て直すための選択」になることもあります。
本人の意思があったことで、ご家族が迷わずに済んだケース
ご本人が認知症になる前に、延命についての意思を書面に残していた方がいました。「延命は絶対にしないでくれ」という強い意志でした。
そのご家族は、胃ろうをするかどうかで迷うことはありませんでした。ご本人が望む形で最期を迎え、ご家族も責任や後悔を抱えることなく見送ることができました。
元気なうちにご本人の意思を確認しておくことが、いざという時にご家族を守ることになります。
胃ろうをするメリットと、知っておきたいこと
メリット
栄養状態が改善し、体調が安定することがある
誤嚥性肺炎のリスクが下がることがある
在宅に戻れる可能性が広がることがある
口からの食事と並行できる場合もある
知っておきたいこと
造設には手術が必要で、体への負担がある
胃ろうを始めると、やめる判断も難しくなることがある
施設によっては、胃ろうがあると入所できない場合がある
医療的な管理が必要になるため、在宅の場合は訪問看護との連携が必要になることがある
「どう考えればいいか」の視点
胃ろうをするかしないか、正解はありません。ただ、判断する時に持っておきたい視点があります。
ご本人が元気な時に、何か言っていたか 「延命はしたくない」「最後まで口から食べたい」など、ご本人の言葉が残っていれば、それが一番の判断材料になります。書面がなくても、ご家族の記憶の中にある言葉を大切にしてください。
「ご本人にとって何が一番か」を中心に考える ご家族の罪悪感や周囲の意見ではなく、「このご本人にとって、どちらがより穏やかな時間につながるか」を軸に考えてみてください。
一人で抱え込まない 担当医・ケアマネ・施設のスタッフに、迷っていることを正直に伝えてください。一緒に考えることができます。
最後に
胃ろうをするかしないか、どちらを選んでも、ご本人のことを真剣に考えたご家族の決断です。
「これで良かったのか」と思う日があっても、それだけご本人のことを大切に思っているからです。その気持ちを、どうか責めないでください。
迷った時は、一人で抱え込まずに相談してください。
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