Hameln 1
同じ県内で次々と居なくなるこども。
共通点に気がついた刑事は事件を追いかけるが犯人の手がかりとしてあがって来るのは「黒いこねこ」のみ。
それ以外になんの手がかりもない。
黒いこねこはなぜ現れるのか。
黒いこねこはなにをしているのか。
消えたこどもは一体どこに行ったのか。
『終末夜話』
主人公「陸」のその後。
夕方、と呼ぶにはまだ早い時間に少女は滑り台の上から公園の隅に置いてあるベンチに腰かける自分よりも年下の、まだ幼稚園に行ってるくらいの男の子を毎日観察していた。
毎日同じ服を着て、頭はボサボサ。
滑り台の上から見てもわかるくらいの大きなアザがあちこちにあるのがわかる。
体は小さく手足も細くいつもキョトキョトと辺りを見回すか、ベンチの足元をチョロチョロと歩く蟻ん子を棒キレでつついてニタニタと笑っていてなんだか気持ちが悪かった。
少女の友人たちはそんな男の子がそばに居ることなど全く意に介さずきゃあきゃあと歓声をあげながら遊んでいた。
「さあちゃん!あっちゃんのママがおやつくれるって!あっちゃんチに行こうよ!」
「うん!」
後ろ髪を引かれるように少女は友人たちと「あっちゃん」と呼ばれる少女の後を追いかけて走って行った。
「さあちゃんさ、いつもどこ見てるの?」
仲良しのあっちゃんに聞かれた。
言っても良かったかも知れないがその時はどこを見ているのかなんだか本当のことが言えなかった。
毎日の観察の中で男の子には小学六年生のお姉さんがいることを紗綾は知っていた。紗綾を含む四人の小三女子と同じ通学班の女の子。
たしかこの公園の奥にある住宅街からその女の子はいつもやって来て、
小三女子四人
小六女子一人、男子二人
小二男子一人
小一男子一人
今どき珍しい九人編成の大所帯な通学班のメンバーの班長だった。毎日、自分のすぐ後ろを歩いている小一と小二の男子を気にしながら時折振り返り先頭で黄色い学童旗を持っていた。
あの男の子は本当に
小六お姉さんの弟なんだろうか。
小六お姉さんのお友達がお姉さんの脇を通るとき「春乃ちゃんおはよう!」と言っていた。紗綾は通学班こそ一緒だったが内弁慶で自分よりも大きな子とうまく話ができなかったからあまり口も利かなかったけれど、自分が六年生になったら班長さんみたいに自分よりも小さい子を気にしてあげられるやさしいお姉さんになりたいなと、密かに憧れていた。
その、班長さんの弟?
あのこが?
ぜんぜん、違うよね?
顔、似てないし。
じゃあ、近所の子なのかな。
それにしては、親密な感じ。
あ、いとことか?
それならあるか。
紗綾は一人で考えた。
あの男の子はなんだか気味が悪い。
あっちゃんチに仲良し四人組はやって来て、あっちゃんママにクッキーと牛乳をご馳走になった。あっちゃんママはよくこうして三人を招き入れおやつを食べさせてくれる。
だから紗綾はお皿やコップを洗うのを手伝うことにしている。
「あっちゃんママ、わたしがお皿拭くよ。」
「あら、さあちゃんいつもありがとう。」
落とさないように慎重にお皿を持ち、渡してもらった布巾でお皿とコップを拭いていく。
「おうちでいつもお手伝いしてるのね。
とても拭き慣れてるもの。えらいわあ。」
紗綾はえへへと笑った。
そうだ、あっちゃんママなら班長さんのこと知ってるかも。ふと、思った。
「あっちゃんママ。
わたしたちの通学班の班長さん。
なんて名前なの?」
「やだ。知らないの?あっちゃんも?」
紗綾はうなづいた。
「小林さんとこの春乃ちゃん。」
「小林春乃ちゃん。」
あっちゃんママはうなづいて、班長さんの家がある辺りを説明してくれた。
「ほら、あなたたちがいつも遊んでいる公園あるでしょ?
あの公園の前の道の向こう側に住宅街があるでしょ。あの住宅街の一番奥の大きな家よ。行ったことある?」
紗綾は首を横に振った。
「あの辺りはあんまりこどもが居ないから春乃ちゃんと六年生の男の子と弟くん。二年生だっけ?
その三人だけなのよね。」
班長さんには兄弟いないの?
「居るわよ。弟くん。
たしか、来年小学生になるのよ。
来春六年生の春乃ちゃんと男の子二人卒業したら、あなたたちが今度は班長さんよ。」
「え?」
「だってあなたたちより他に
大きい子は居ないでしょ?
来年は四年生だし。
今度は春乃ちゃんの弟くんをあなたたちがちゃんと学校まで連れて行かなきゃね。頑張って。」
お皿を拭きながら、紗綾は目を丸くして班長さんなんかやれっこない。と心の中で思った。
紗綾たちの通学班が今どき珍しい大所帯なのは学校から一番離れた地区に家があるこども達の集まりだからだ。
学校まで歩いて30分近くかかってしまう子どももいる。待ち合わせ場所まで10分近く歩いてくる紗綾もそのひとりだ。一軒一軒の家も農家だったりサラリーマンだったりそれぞれ暮らし向きが違い通りいっぺんの住宅街と少し違う。
紗綾はあっちゃんと仲が良いが決して家は近くない。いつも一緒にいる凛ちゃんとのんちゃんはあっちゃんチと家が近いが紗綾の家は離れていた。
通学班の待ち合わせ場所にも同じくらいかかるから紗綾はいつも30分近く歩いて学校に行っているのだ。
「さ、暗くなる前に帰らなきゃね。
のんちゃん、凛ちゃんはすぐに帰りなさい。わかった?」
じゃあね!と手を振って玄関前で二人を見送る。
二人揃って同じ角を曲がり、5分と経たないうちに電話がなる。
「いつもありがとう。無事家に着いたわよ。」
ママ達も仲良しだからその辺心得ていて電話がかかってくる。
ふたりの帰宅がわかったら、あっちゃんママが紗綾とあっちゃんを車に乗せて紗綾の家まで送ってくれる。
「いつもありがとう。あっちゃんママ。」
「いいの、いいの、
ふたりも、四人もそんなに大差ないんだから。」
また明日。
そう言ってあっちゃんとあっちゃんママと別れるのだ。
この晩はいつもと違うことがあった。
パパとママと三人でテーブルに付いて晩ごはんを食べはじめた時のこと。
キッチンのカウンターを背にママが座りその向かい側にパパが座る。紗綾はふたりの横顔が見える場所に座りテーブルを挟んだ目の前はダイニングの掃き出し窓が大きく切ってある。
白いレースのカーテンが引いてあるが紗綾からは家の前にある街灯のおかげで外の様子がよく見える。
吐き出し窓の外側は庭になっていて、庭と道路を仕切るために小さな生け垣があり、街灯が明るく庭を照らしている。
小さな影が家の前を行ったり来たりしている。少し不安になった。
Hameln 1
つづく
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