「カメラの位置」をずらすと、別のドラマが生まれる――桃太郎で学ぶ「視点の魔法」
「よし、noteの記事を書くぞ」
――意気込んでPCに向かったものの、
書き進めるうちに違和感が募る。
なんだか面白くない。物足りない。
どこかで読んだような、ありふれた記事になってしまう。
「もっと魅力的な文章を書くにはどうしたらいいの?」
そんなあなたに、
小川こころの文章ワークショップでお伝えしている
「視点のスライド法」を紹介します。
ぜひ最後まで読んで、あなたの記事に取り入れてくださいね。
■ まずは、「感情」から言葉を紡ごう
エピソードや体験から書こうとすると、つい事実の羅列や説明に偏りがちです。
まずは、あなたの「感情」にフォーカスして書き始めましょう。
たとえば次のようなテーマを決め、10〜15分で記事の”たたき台”を書いてみてください。
• 最近ワクワクしたこと
• 心がじんわりしたこと
• 心に明かりが灯ったこと
・思わず鳥肌が立ったこと
たたき台は、単なる下書き。ざっくりとでOK。
表現の工夫や細かい描写などは気にせず、とにかく感情を言葉にすることを優先しましょう。
■ いつもの文章が変わる「2つのアプローチ」
感情をもとにした、記事のたたき台ができたら、
次の2つのアプローチを試してみましょう。
「アナザーストーリー」と「スピンオフ」
――ドラマや映画で、あなたも一度は聞いたことがあるはず。
この2つのアプローチを使うだけで、いつもの文章をぐっと魅力的に、ドラマチックにすることができます。
① アナザーストーリー(カメラの位置を変える)
原作と「同じ時間、同じ出来事」を、別の登場人物の目線で撮り直す手法。
主役を照らしていた舞台の照明がパッと切り替わり、それまで脇役だった人物が浮かび上がる……そんなイメージです。
「あなたが何気なく言った『ありがとう』を、相手はどんな気持ちで受け取っていた?」
――そう問いかけるだけで、カメラを向ける先が自然と見えてきます。
② スピンオフ(脇役を主役に据える)
本編では主役として描かれなかった人物(またはモノなど)の「背景」や「その後」に焦点をあて、自由に想像する手法。
表通りのメインストーリーからちょっと外れて、路地裏へそっと足を踏み入れるような感覚。
「あのコーヒーショップの無愛想なスタッフは、実は昨日失恋したばかりだったとしたら?」
――そんな「もしも」が、まだ見ぬ路地裏への入り口になります。
■ 桃太郎に「魔法」をかけてみる
では、この2つのアプローチで、昔話『桃太郎』をもとに、新しいストーリーを生み出してみましょう。
え?『桃太郎』ってどんな話だったか、覚えていない?
では、ざっくりあらすじを。
むかーしむかし、どんぶらこ~どんぶらこ~と川に流れてきた桃から生まれた「桃太郎」。
心やさしいおじいさんとおばあさんのもとで成長した桃太郎は、村の人を苦しめる鬼を退治するため、おばあさんから「日本一のきびだんご」をもらって旅立ちます。
道中でイヌ・サル・キジを仲間に加え、鬼ヶ島へ。
戦いの末、鬼を降参させて奪われたものや宝物を持ち帰り、みんなで幸せに暮らしましたとさ。
この「王道」の勧善懲悪ストーリーが、視点をずらすとどう変わるのか。
実際にカメラを切り替えてみます。
実践① アナザーストーリー:イヌ君から見た物語
まずは「きびだんごをくれるなら、お供します!」と仲間になったイヌ君の目線に、カメラを切り替えてみます。
あの大将の背中を見て、決めたんだ。
ーー正直に言えば、最初は「きびだんご」に目がくらんだだけだった。
でも、桃から生まれたとかいう、やたら元気いっぱいの大将の後ろ姿を追いかけているうちに、ぼくの中で何かが変わった。
鬼ヶ島へ向かう船の上。荒波に揺られながら、もしかしたら命を落とすかもしれない状況なのに、大将は一度も後ろを振り返らなかった。
サルとキジは「きびだんご一つで、この仕事はきつすぎるよね」なんて皮肉を言っていたけれど、ぼくは見たんだ。
大将がぎゅっと拳を握りしめ、恐怖を押し殺すように小さな声で呟いたのを。 ーー「大切な仲間たちといっしょに、村のみんなを助けるんだ」。
ぼくはその瞬間、たとえだんごや宝物がなくても、この人のそばで最後まで戦おうと、心に決めた。
どうでしょう?
カメラの目線をちょっとずらしただけで、物語にもう一つのドラマが生まれました。
キジやサルの視点にすると、また別の世界が見えてきそうです。
実践② スピンオフ:鬼ヶ島の赤鬼の息子君を主役に
次は、桃太郎に退治されてしまった「赤鬼」の息子君を主役に、その後のストーリーを想像してみましょう。
奪うことしか知らなかった僕らの、新しい芽
「ねえ、どうしてお父さんたちは、村を荒らしていろんなものを奪ってきたの?」
僕がそう聞くと、父さんは角を傾けて、少し悲しそうに笑った。
かつて鬼ヶ島は、ただの痩せた岩場だった。食べるものもなく、仲間が次々と倒れていく。それを見かねた父さんたちが、禁忌を破って海を渡ったのだという。
けれど、島に乗り込んできた桃太郎という少年とお供たちに完敗し、奪ったものや宝物をすべて差し出した今、僕たちの家には何もなくなった。
それから半年がたち、父さんが耕し始めた小さな畑に、今日、初めて緑の芽が出た。
奪ってきた金銀よりも、この小さな芽のほうがずっと眩しい。
僕はいつか、この島で咲いた花を、桃太郎が暮らす村の人たちに届けにいきたいと思っている。
鬼の息子君を主役にすることで、勧善懲悪のものがたりが「再生と希望」のヒューマンドラマへと変化しました。
■ 視点を変えれば、世界が変わる✨
私たちはふだん、無意識に「自分」というカメラ一台だけで世界を撮っています。
でも、日常というドラマの舞台裏には――
主役であるあなたが笑っているとき、それをどんな顔で見ていた人がいたのか。
すれ違っただけのあの人は、どんな事情を抱えてそこにいたのか。
――私たちがまだ気づいていない、いくつもの世界が広がっています。
私たちは、目の前にあることしか見ていません。
でも本当は、少し視点をずらしたり、想像を巡らせたりするだけで、同じ日常の風景や周りの人の印象ががらりと変わって見えてくる。
それに気づかないまま過ごしているとしたら、とてももったいないと思うのです。
いつもとは別のまなざしを持つことで変わるのは、文章だけではありません。
ものの考え方や、人との向き合い方も、どんどん変化していきます。
つまり、視点をスライドさせると、
文章も、生き方も、もっとおもしろくなるのです。
📝視点のスライドは、周りだけでなく自分に対しても行ってほしい。
「自分の経験を深掘りして、物語を言語化する」=自己取材メソッドについては、こちらの記事でくわしく解説しています。
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