【ep:20】子供部屋おじさんと思い始めた頃から、自分の感情を上手く表現できなくなっていった
それでもまだ、すごい人だと思っていた。いや、すごい人だと思おうとしていたが正しい。
気づけば、Sさんの嫌な部分が目につくようになっていた。
店員に対して横柄な態度をとる。
細かいことに神経質になる。
女性関係にだらしない。
変なところで見栄を張る。
ひとつひとつは小さなことかもしれないけど。
でもそれが積み重なって、一緒にいる時間がじわじわと重くなっていった。
飲みに行く回数が増えるほど、見える部分が増えた。
そして酒の席のSさんは、特にひどかった。
気に食わないことがあると、声のトーンが変わる。
商品を運んできた店員に、突然クレームをつける。
こちらが申し訳なくなるような場面が、何度かあった。
店員をフォローすると
「なんだよ、俺が悪いみたいになってるじゃん!…はいはい、悪かった悪かった。すみませんでした」
という具合に拗ねる始末。
拗ねるってなんやねん、40超えている大人だろ。
心の中ではそう思いながら、それでもまだ尊敬心というものがあったので、どうやって本人に伝えるべきか、または伝えないべきかの狭間で悩んでいた。
そして早く切り上げて帰りたかった。
スーツを脱いで、一人になりたかった。
翌日、Sさんから連絡が来る。
「あまり覚えていない。みんなに対しても、少しひどいことを言ったかもしれないけど、本心ではないから許してね」
毎回、そのパターンだった。
酒のせいにして、非をするりと逃がす。
本人は爽やかな顔で言う。
今思えば、この辺りからSさんを
「半分は尊敬している」
けど
「この人、もしかして子供部屋おじさんなのでは…?」
とも思うようになっていった。
でも次の瞬間には
「まあこういう部分もあるけど、すごい人には変わりないし」
と、自分に言い聞かせていた。
この繰り返しが、しばらく続いた。
あの頃の私は二つの感情を同時に抱えていた。
Sさんへの違和感と、それでも離れられない感覚。
活動する意味を見失いかけていた。
それは確かだったと思う。
でもそうまで気持ちが揺れることがあっても、不思議と辞めたいとまでは思っていなかった。
そこそこ付き合いも長くなったし、普段から楽しい部分もある。
飲み会に行けば面倒くさいのは事実だけど、ちゃんと年上として奢ってくれる。
自分に困ったことがあれば親身に相談に乗ってくれるし、本業での悩みをわざわざ時間とって聞いてくれたりした。
正直、上司というよりは年の離れた気のいいお兄ちゃんみたいな感じの印象を抱いていた。
それだけで、まだ環境にいる理由になっていた。
でも、仕事を変えて、収入が少し下がった時期でもあった。
活動費に余裕がなくなると、Sさんの言葉への反発が心の中で増えていった。
でも口には出さなかった。
「面倒なところもあるけど、結局すごい人には変わりない」
という言葉を、呪文のように繰り返しながら、感情に蓋をしていた。
その後、駅でスーツ姿のおじさんとすれ違うたびに、なんとなく気が滅入るようになる。
理由は、今もまだうまく言えない。
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