雨上がりの指輪_通り雨の傘の下で
皆様、こんにちは。
アップルティーでございます。
前作『雨宿りの図書室』では、
初恋のような瑞々しい時間を描きました。
↓まだ、読んでない方は是非。
そして今回は、
少し違う雨のかたちを。
雨シリーズ第2話をお届けします。
過去を抱えながら、
それでも未来を信じたい二人の物語です。
ぜひご覧ください。
雨上がりの指輪_通り雨の傘の下で
夕立の音が、街を丸ごと包み込んでいた。
湿った風が頬を撫で、アスファルトから
立ち上る熱気が、むせ返るほど重い。
仕事帰り、傘を忘れた僕は、
駅前のコンビニの軒先で立ち尽くしていた。
通りを行く人たちは、
みんな急ぎ足で傘を広げていく。
濡れたシャツが肌に貼りつき、
夏の蒸気が胸の奥まで入り込んでくる。
店先の明かりだけが、
雨のカーテンの中で淡く揺れていた。
「相変わらず、傘持たないんだな。」
「……っ、春人!」
その声を聞いた瞬間、
心臓が、一拍、止まった。
振り向くと、そこに春人がいた。
五年前、恋人だった人。
けれど、家族にも、会社にも反対され、
“男同士なんて”という言葉が、
あの頃の僕らをゆっくりと削っていった。
白いシャツの袖を折り、ネクタイを取った彼は、
あの頃より少し大人びて見えた。
けれど、笑うときの目尻の癖は何も変わっていない。
「久しぶり。」
「……ほんとに。こんなとこで会うなんて。」
屋根を打つ雨が、言葉を切り取っていく。
その沈黙の中で、僕は気づいてしまった。
春人の左手に、銀の指輪が光っている。
――それは、僕があの頃、彼に渡したものだった。

雨の夜、僕のアパートの小さなキッチン。
カップラーメンの湯気が立ちのぼる中、
春人が照れくさそうに笑っていた。
「似合うかな」
そう言って指を差し出す彼に、僕は少し息を呑んだ。
「当たり前だよ。……だって、俺が選んだんだから。」
その言葉に、春人が小さく笑って、
「じゃあ、これで約束だね」と囁いた。
湯気の向こう、彼の瞳に映った光を、今でも覚えている。
あの指輪を渡した夜から、僕は本気で思っていた。
――この人を守りたい、と。

だけど現実は、願いよりもずっと冷たかった。
春人の父親に呼び出された夜、
「お前らの関係が知られたら、
あいつの将来は終わる」と言われた。
そのとき、何も言い返せなかった。
僕が黙ることが、彼を守る唯一の方法だ
と思ってしまったから。
あの夜のあと、僕は指輪を外した。
でも、春人の方は――外せなかった。
あの時も、雨が降っていた。
「まだ、してるんだね。」
気づけば、口から漏れていた。
春人は少し驚いたように視線を落とし、
指先でその輪を撫でた。
「……外せなかったんだ。」
「どうして?」
「外したら、本当に終わる気がした。」
傘を叩く音が強くなり、街灯の光がにじむ。
僕は笑おうとしたけど、できなかった。
「君は?」
春人が尋ねる。
「捨てたの?」
「ううん……持ってる。引き出しの奥に。」
「そう。」
その一言が、やけに優しく響いた。
コンビニのガラス越しに、
レジの電子音が遠く聞こえる。
外の世界は動いているのに、
僕たちだけが取り残されたみたいだった。
「……雨、止みそうにないね。」
「うん。」
「一緒に帰ろうか。」
春人はカバンから定期を取り出し、
指輪が輝く左手を僕に差し出した。
「またこうやって、相合傘か。」
「懐かしいね。」
肩が触れる。
傘の中、息が混じる。
近すぎて、見つめられない。
あの頃も、雨の日はいつも相合傘だった
。
駅から僕の部屋までの短い坂道。
わざと傘を傾けて、
彼の肩が濡れないように歩いた。
「ほら、寄れよ」って笑ってたあの日の声が、
今も耳に残っている。
「春人。」
「ん?」
「……突然姿を消してごめん。
あの頃、ちゃんとありがとうって言えなかった。」
「俺もだよ。」
彼の声が少し震えた。
「いまでも、君のこと、忘れられないままだ。」
雨音が、少しずつ遠ざかっていく。
通り雨――けれど、あのときの涙のように、
心の奥にはまだ止まない雨があった。
春人は言った。
「ねえ。」
「うん?」
「次、雨が降るときも……
同じ傘の下で笑えたらいいな。」
春人が笑った。
僕は、気が付いたら彼の指輪に触れていた。
その笑顔を、僕は一生忘れないと思った。
雲の切れ間から光がこぼれる。
傘の向こう、濡れた街が金色に染まっていく。
指輪の銀が、夕陽をすくい取るように、そっと輝いた。
同じ傘の下で笑えたらいいな……か。
雨の匂いが、あの頃と同じだった。

最後に
いかがだったでしょうか。
あの、本当に個人的な嗜好の話なのですが、
私、バッドエンドが少し苦手なんです。
片方が死んでしまったり、
救われない作品を読むと、
どうしても胸に悲しみが残ってしまって。
だからこそ、私の作品では、
最後は必ず希望を込めています。
同じように感じる方の心に、
少しでも寄り添えたら嬉しいです。
春人と僕は、これから新しい未来へ向かいます。
そして、これを読んでくださったあなたも、
どうか新しい一歩を踏み出せますように。
雨は、きっとあなたをやさしく包んでくれます。
まったね~~~♪
次回は、水曜日に投稿する予定です。
おっ楽しみに~~~♪
