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スカートと建築

階段の打合せで、よくこう言われる。

「ここ、下から見えませんか?」

その問いに具体的な主語はない
主語はなくとも何の話かは分かる。


階段という建物の一部がある。

図面上では、ただの直線。
美しく通る手すり。抜けのあるガラス。

でも現実には、そこに“視線”が流れる。


建築は、形をつくっているようでいて、
本当は「空間」の「見え方」を設計している。


スカートという身に纏う衣がある。

それは単なる衣服じゃない。
視線をコントロールするための、ひとつのデザインだ。

完全に隠すわけでもない。
かといって、無防備に晒すわけでもない。

揺れながら、曖昧に境界をつくる。


建築も、まったく同じことをやっている。


階段

段と段の隙間。蹴上の抜け。
軽やかさを求めれば求めるほど、下からの視線は通る。

ガラス手すりもそうだ。
設計者であれば透明であるほど、美しいと望む。
けれど同時に、不安も増幅する。

吹き抜けは、空間をつなぐ。
けれど同時に、視線もつなぐ。


最初で問われているのは、デザインの
良し悪しじゃない。

「誰の、どんな視線を、どこまで許すか。」

という設計だ。


施主の「見えませんか?」という一言は、
単なるクレームではない。

そこには、

  • 他人にどう見られるかという不安

  • 生活の中での無意識の緊張

  • 空間に対する“安心”の期待

が詰まっている。


つまりこれは、空間の問題ではなく、
心理の問題だ。


設計者は、いつもその間に立たされる。

透明にしたい。
でも、守りたい。

抜けをつくりたい。
でも、落ち着きを失いたくない。


この矛盾に、正解はない。

あるのは、調整だけ。


例えば、

完全に隠すのではなく、
ルーバー(視線を遮る縦材・横材)
や半透明処理で“ぼかす”。
ガラスの高さを数センチ上げるだけで、
安心感は変わる。
視線が交差しない動線にすることや、
そもそも「見せない配置」にすることも
一つの解だ。

魅せ方の一例

重要なのは、

見えるか、見えないかではなく、
使用者にとって「気にならないかどうか」


スカートは、すべてを隠しているわけじゃない。

けれど、
そこにいる人の“安心”を守っている。


建築も同じだ。


空間とは、壁や床だけでできているわけではない。

そこに流れる「視線」と、
その使用者の「感情」でできている。


だから建築設計とは、

単に形をつくる仕事ではなく、
「人が安心して“そこにいられる状態”をつくる仕事である。」

今回は階段という最小単位について焦点を
当てたが、地震からの安全をはじめ
設計者は常に様々なリスクを念頭に置いている。


次に階段を見るとき、
少しだけ思い出してほしい。


その手すりは、単なる線ではない。

誰かの“見られたくない”を、
静かに支えている。




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