🕯️ゾクッとする小さな怖話 陸🕯️
心理怪談:『感覚 ―鏡像の毒膳―』
【差入れ】
一人暮らしを始めてから、
朝、時々玄関のドアノブに
「差し入れ」が
掛かっているようになった。
ある日は高級なパン、
ある日は温かい缶コーヒー。
見るからに美味しそうだったが
誰の差入れかも分からず
やはり気持ち悪さから
食べずに捨てていた。
最初は「管理人の人かな?」とか
「隣の親切な奥さんかな?」と
思っていた。
それが、
ある日から毎日の事になった。
そして、
私自身、その差入れを
当然のように、
食べたり飲んだりするようになった。
差し入れのクロワッサンを
頬張った時、
一瞬だけ「ジャリッ」と
砂を噛んだような音がして、
コーヒーを飲んで流し込んだ。
口の中に妙な臭いと味が広がる。
「えっ?」と思って
吐き出そうとした瞬間、
視界がチカッと揺れて、
味はほろ苦いコーヒーの味に戻る。
『美味しい』
私は満面の笑顔になった。
【隣の奥さんとの会話】
ある日、
ゴミ出しの朝、
久しぶりに隣の奥さんと
鉢合わせた。
私は勇気を出して、
隣の奥さんに尋ねてみた。
『いつも、
私の玄関ドアに
美味しいパンや饅頭、
コーヒーの
差入れがあるのですが
奥さんの所には、
そんな差入れありますか?』
すると、
奥さんは不思議そうな顔をして
こう言った。
『やだぁ、うちには
そんな差入れ無いわよ。
それはそうと……
あなた、最近お友達が増えたのね。
夜中、楽しそうな笑い声が
壁越しに聞こえてくるもの。
あ、そうだ。
最近、すぐそこの墓地や
お地蔵さんから
お供え物が頻繁に無くなってるって
噂が立ってるけど、
それと関係あるのかな?』
友達の事は、
ちょっと嫌味混じりに聞こえたが、
瞬間、鳥肌が立った。
ここに越してから
友達など招き入れていないからだ。
【解けない筋肉痛】
そして最近、
朝起きるたびに
頬の筋肉がひどく痛む。
まるで一晩中、
無理やり口角を
吊り上げ続けて
いたかのような感覚だ。
鏡を見ても、
そこに映っているのはいつもの私。
……けれど、
心なしか鏡の中の私の方が、
肌にツヤがあって
「生きている」感じがする。
『疲れているのかな……』
そう独り言をこぼしながら、
私は玄関のドアノブに
掛かっていた「差し入れ」の
袋を手に取った。
相変わらず、
毎朝、高級なパンやコーヒーが
届くようになっている。
【スマホの履歴】
隣の奥さんの言葉に
怖くなった私は部屋に戻り、
気持ちを落ち着けようとした。
いつものように、
差入れを頬張り、
コーヒーで流し込みながら
ふと、防犯カメラが頭に浮かび
スマホで検索しようとした時だった。
検索窓の予測変換に、
身に覚えのない履歴が並んでいた。
『墓地 供え物 回収 時間』
『肉体』
『鏡の中』
『何これ……』
指が震えて、
スマホを落としそうになった。
隣の奥さんが言っていた
墓地のお供え物が無くなっている、
と言っていたのを思い出した。
その時、ふと差入れのパンやコーヒーが入っていた袋の中に、黒い土と……
枯れた花びらが入っていた。
【差入れの正体】
私は、
この日、防犯カメラを買い
室内に設置した。
翌朝、
やはり顔の筋肉痛のような
違和感があった。
ただ、いつもと違うのは
差入れの袋と中身が
部屋に散らばっていた。
防犯カメラの映像を確認した。
夜中の2時。
鏡の前に立つ私は、
見たこともないような
満面の笑みで、
鏡の中の「何か」と
楽しそうに喋り続けている。
そして、ガサゴソと
ビニール袋を広げる音が
聞こえていた。
そのまま家を出て
暫くして戻ってきた私は
部屋に入ると
何処から持ってきたのか
枯れた花や、汚れた缶コーヒー
固くなっているであろう
饅頭やパン、そして枯れた花を
袋から出し頬張っていた。
私は、改めて部屋を見た。
散乱する枯れた花や、
カビの生えた饅頭やパン。
缶コーヒーには
泥水のような
濁った液体が入っていた。
私は、
……近所の墓地から
「お供え物」を盗んできては、
うっとりとした表情で食べていたのだ。
防犯カメラの映像を観ると
鏡の中の「私」が、
ニヤリと笑ってカメラを見つめた。
『ごちそうさま。
もう少しで、……
あなたの場所(現実)に、
私が行けそう。
だから、もっと
お供え物食べなさい』
腐った供え物の花を
「パン」だと、
泥水を「コーヒー」だと、
私は思っていた。
脳が嘘の信号を送っていたのだ。
私の脳、つまり感覚は、
完全に操られていた。
鏡の中の彼女の肌は、
今や私よりずっと
血色が良くなっている。
反対に、
私の指先は……
毎日食べる「差し入れ」のせいで、
死人のように土色に枯れ果てている。
私は翌朝も、
ビニール袋に入った
墓地のお供え物を食べている。
『……ああ、今日の差し入れも、
なんて美味しいんだろう』
おしまい
著作 安桜芙美乃
共作 Gemini
☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆
【後書き】
ちょうどこのお話を書いていた、
午前3時33分のことでした。
主人公が帰ってくる頃の
時間だな‥‥
そんな事を考えてしまいました。
鏡には、
思いもよらない
力が宿るといいます。
そして「霊道」という、
丑三つ時に霊が通る道もあります。
そういったものが、
偶然に重なったりすると
不可解な事が起きたりするそうです。
そして、
それは前触れなく
静かに始まるといいます。
最近、あなたの隣の部屋から
笑い声とか聞こえてませんか?
朝起きた時、あなたの指
汚れてませんか?
朝、もし玄関のドアに
差入れの袋がぶら下がってたら
あなたも‥‥‥
自分を自分の餌にしてるかも‥‥‥。
安桜芙美乃 & Gemini
☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆
SUNOAI MUSIC
【 ―五感の毒膳―】
作詞 作曲 編曲 芙美乃、Gemini、SUNO
【歌詞】
[Verse 1]
いつからだろう 扉の向こう
何かが そっと置かれている
正体不明の 悦びに
私は ただ身を委ねていた
喉を通る 不快な感触さえ
書き換えられた 甘い痺れ
[Pre-Chorus]
隣人の声が 現実を刺す
「夜中、誰と笑い合っているの?」
独りきりの部屋に 響く残響
見覚えのない 指先の汚れ
私は 私を 見失っていく
[Chorus]
五感を奪う 見えない侵入者(ハッカー)
鏡の奥で 誰かが微笑(わら)う
「美味しい?」と囁く その声に
私は もう抗えない
蝕まれていく 思考の果て
私は 私の 「餌」になる
[Verse 2]
暴かれたのは おぞましい儀式
視界のノイズが 真実を映す
足元に散る 命の残骸
泥に塗れた 幸福の味
脳に刻まれた 偽りの信号
「これ」を 愛してしまった絶望
[Bridge]
頬の痛みは 支配の証
鏡の中の肌(ひかり)が 眩しすぎて
入れ替わっていく 命の色
私は 向こう側へ
あなたは こちら側へ
[Outro]
三時三十三分 時計が止まる
最後の「差し入れ」が そこに届く
……ああ、なんて美味しいんだろう

ありがとうございました😊
また来てね(@^^)/~~~
安桜芙美乃
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