【漫画原作】フットモンキー ~FooT MoNKeY~ 第2回
#創作大賞2024 #漫画原作部門 #毎日 #サッカー #小説
本日5月11日の土曜、昴と瑞希は予定を合わせられたため、一緒に練習に参加していた。二人は土日に休みが取り難いため、練習にはなるべく日程を揃えて参加することにしている。ピッチに到着すると、気になったことがあった昴は、先に来ていた瑞希に疑問をぶつけた。
「あれっ、莉子と美奈は?」
「ああ。莉子は出張で、美奈は従妹が泊まりに来るからそのための買い出しだって」
「そっか~。試合前だってのに、相変わらず人数少ないよな」
「用事があるならしょうがないよね。絶対に来なくちゃいけないってわけじゃないし」
「そうだよな。どうしてもプライベート優先になっちゃうよな。所詮遊びだし」
「私は違うよ。真剣だもん」
「俺だってそうだよ」
「嘘だ~すぐサボるくせに」
「まあね。だって、真剣にやっても仕方ないんだもん」
「――。そうだよね」
「そう暗くなんなって。もう終わったことだろ?」
「やっぱり本当にーー本当にもう終わりなの?」
「ああ、そうだよ。何度も言わせんなよ」
「――分かった。昴くんがそう言うなら、そうだよね」
「そうそう、所詮は遊び。俺にとってサッカーは趣味なんだよ」
それから練習が終わり帰ろうとした所、瑞希はふと思いついて昴に話し掛ける。
「そうだ!パブ行ってみない?せっかく合宿が終わってちょっと時間あるんだし」
「え~。俺、明日の朝ちょっと早いんだよな~」
「いいじゃん、ちょっとだけ。せっかく一緒に居るんだし」
「う~ん、それもそうだな。仕事に響かないように、1杯だけならいいよ」
「やった~。流石は昴くん!」
それから二人は静岡まで電車で出て『イヌロフ』という名のパブで飲むことにした。
パブに入るとカウンターに着き一杯ずつ酒を注文した。昴が愛想よくそのドリンクを受け取ると、瑞希はカクテルを持ってきたウェイターに嫉妬してしまったようだ。
昴は徐に携帯を開くとメールを打ち始めてしまった。瑞希はそんな昴の気を惹こうと寄りかかるように体を寄せて少し大げさに甘えてみせた。
「ねえ~え~。昴く~ん」
「ん、んん~」
昴は瑞希がベタベタしてくるのを少し鬱陶しそうにあしらった。愛情を表現するためにはしつこく甘えると逆効果となり、過度なスキンシップをしないこと、人前では甘え過ぎないことが大切である。
どうしても甘えたい場合は男性側の心理に配慮し、二人きりの時や、特別な日に多めにすると負担が少なくて済み、たまに弱音を吐いてみたりするのも効果的である。
「可愛いでしょ!このキーホルダー」
「うん」
「可愛いよね、ね!」
「うん」
「今度の木曜日の予定どうする?」
「え、う~ん。何でもいいよ」
この発言を受けて、瑞希は不機嫌になってしまったようだ。その後もわいもない話をしながら二人でしっぽり飲んでいると、20代前半くらいの三人組の青年が入ってきた。
そのタイミングで瑞希が立ち上がると、少し酔ってふらついてしまい、その中の一人にカクテルが掛かってしまった。身長170cm程で細身だががっしりしており、髪型は茶髪のマッシュであった。焦った瑞希は慌(あわ)てて青年に声を掛けた。
「あ!!す、すみません!!」
「ん!?ああーー。大丈夫ですよ。目立ってないですし、すぐ洗えば落ちますよ」
「いえ、そういうわけにはーークリーニング代だけでもお支払いしますので」
「本当に大丈夫です。どうせ安物ですし、それに買ってからだいぶ経ってますし」
そう言った青年のコートは、言葉とは裏腹にそれなりの値段がしそうであった。
昴はその態度が気に入ったのか、率先して青年に話し掛ける。
「いや、それじゃ俺らの気が済まねえよ。折角なんだし、1杯おごらせてくれよな」
「う~ん、そうですか。それじゃ、お言葉に甘えて1杯だけ」
そう言った青年はその他の二人と共に席に着くと、注文したカクテルを飲み始めた。暫く話すとその他の二人はナンパ目的で来ていたようで、目当ての女の子を見つけるとそちらに話し掛けて席を移してしまった。
だが、先ほどの青年は、折角だからと昴たちと話を続けるようにしてくれたようだ。酒の席はそれなりに盛り上がり二人とも酒好きのようで身の上話に花が咲いた。そんな昴と青年には、ある共通点があったようだ。
「やあ~後輩だったとはな」
「ホント偶然ですね。二人とも歓応私塾高出身だったなんて」
「そうそう!しかも同じサッカー部」
「そう!それも偶然ですよね」
「コッチに出張がなかったら出会ってなかったわけだもんな」
「そうですね。ほんと一期一会って感じしますよね」
「友助はポジションどこだったんだ?」
「僕はミッドフィルダーでした。昴さんはどこだったんですか?」
「俺はフォワードだよ。バリバリの点取り屋なんだぜ」
「昴さん、イケイケな感じしますもんね。肉食っていうか」
「だろ!ガンガン狙いに行くんだぜ」
「そうですよね。やっぱ男は攻めて行かないと!」
「それより水臭えじゃねえか、俺のことは兄貴と呼べ。なんせお前の先輩だからな」
「わかりました。兄貴に一生ついて行きま~す」
敬礼をした友助は、もうだいぶ酔いが回って来ているようだった。暫く話していると、昴の携帯が光って着メロが鳴り響いた。彼は画面を横目で確認したが、電話に出ようとしなかった。そして、電話はそのまま切れてしまった。
その仕草を見て、瑞希は思うところがあったようだ。
「今の電話、誰から?」
「友達」
「友達って誰?」
「高校の友達」
「だから誰?」
「誰だっていいだろ!」
「良くないよ!!また浮気してるんじゃないの」
「してないって!!なんでいつもそうなんだよ」
「だってあの時も――」
「あの時のことはもう謝っただろ!!」
「私の中ではまだ終わってないの!!」
「――じゃあ、もう別れる」
「――ごめん」
「瑞希は束縛しすぎなんだって。大丈夫だから」
「私、ちょっと外の空気吸って来る」
瑞希を見て心配になったのだろう。友助は不安そうに声を上げる。
「あっ、瑞希さん――」
「いいんだよ。ほっとけって」
「僕、ちょっと追いかけて来ます」
そう言うと友助は、すぐ勢いよく出て行った。暫く経つと友助に連れ戻された瑞希が、少し不貞腐れながら戻って来た。それを見た昴は、先程の怒りが再燃したのか少し棘のある言い方で会話を始めた。
「ったく。もういい大人だろ?他人に迷惑かけんなよ」
「ちょっと外に出ただけだもん。私は悪くない」
「あと前にも言ったんだけど、お前なんかあった時にすぐ感情的になるの止めろよな」
「それなら私も前に言ったんですけど。お前呼ばわりされたくないって」
「なんだよ、せっかく仲直りしようと思ってたのに!!」
「こっちだってそうよ!!」
こうなると、もう売り言葉に買い言葉で、殆どどうしようもなかった。必死で宥める友助と少し呆れ気味の周囲を尻目に、それから二人はバチバチと火花を散らしていた。
ナンパ組が失敗して戻って来たタイミングで支払いを済ませて店を出て、友助らとはそこで別れ、無言の瑞希を家まで送ってこの日は解散した。
次の日の夜8時すぎこのまま気まずくならないようにと、瑞希は思い切って昴に電話を掛けた。コール音に緊張しながら待っていると、5回ほどで昴が出たので話し始めた。
「もしもし。今、何してる?」
「ああ、さっき帰ったとこだよ。どうしたの?」
「どうしてるかなって思って」
「テレビ見てたよ。世界ぎもん発見!」
「そっかー。奇遇だね!私も今それ見てるとこ」
「そうなんだ。俺、この番組が好きで毎週見てるんだよね」
「ほんと面白いもんね。世界ぎもん発見!」
それから暫しの沈黙のあと、瑞希がこの電話の本題を切り出した。
「――この前はごめんね」
「――うん。俺もごめん。ちょっと言い過ぎたよ」
「ううん、私も。今度からは電話が来ても、疑わないように気を付けるね」
現在この二人は、いわゆる倦怠期に突入しており、昴のそっけない態度から、喧嘩に発展することが多かった。だが昴のプライドが高いため、普段から瑞希が謝罪の言葉を口にすることが殆どであった。お互いに激しい感情の起伏を伴わないカップルの場合はこの倦怠期が訪れないものであるが、喧嘩できないカップルの方がストレスを溜め込んでしまうため、突然に別れることがあったりもする。
「そうだね。けど、不安に思った時は遠慮せずに言えよ」
「うん。でも、できるかな?私、人に想いを伝えるの苦手なんだよねーー」
「う~ん。確かにそれはそうかもな。なんかいいアイデアはないもんかな~」
「悩みどころだよね。気持ちがオープンになればいいんだけどーー」
「そうだよね。何かいい方法があればいいのになーー」
喧嘩をするのは悪いことばかりではないと言え、小さな喧嘩をしたら決まずい時間をなるべく少なくすること、大きな喧嘩の場合は一日以上は考える時間を設けるということが大切である。
人は優しくされると相手を許せるという心理的な作用がある為、瑞希のこの謝り方は適切な手段であったと言える。喧嘩の後では、仲直りの共同作業なども有効で、一緒に料理をしたり、スポーツ観戦に行ったりすることが望ましい。
「ねえ、今度一緒にコンサート見に行かない?見たい講演があってーー」
「コンサートかー。う~ん、いいよ!」
「やった~♡。流石は昴くん」
「だろ?これくらいならお安い御用だぜ」
「ありがとう~。今度詳細を知らせるから。約束ね!」
「うん、分かった」
「それと、当日はスーツで行かないとダメだからそこだけ気を付けてね!」
「はいはい。スーツね」
生返事をした昴は、既にコンサートとは違うことを考え始めていた。この頃の昴は、ものごとをわりと適当に決める傾向があり、めんどくさいと感じたことは特に考えず、話し合いも持とうとしていなかった。喧嘩というのは価値観の違いから生じるもので、特に見たくもない公演を、安請け合いで見に行くと言うのは完全に悪手であった。
5月21日の火曜日、本日の対戦相手である名古屋アレンジャーズは、全国出場常連チームであるため、本拠地である名古屋市中村区まで車で乗り合わせての対戦となっていた。ポニョの中は仕事、美奈は従妹が遊びに来るから欠席となっており、6人乗りの車2台で現地に向かってピッチに着いた。
アレンジャーズは白と赤の縦縞が激烈なチームで恋人同士で仲が良く、男衆は黒髪に女衆は茶髪にしており髪の長い子が多かった。そしてこのチームには、『糸偏コンビ』と呼ばれる綴、綻という選手が在籍しており、見事なコンビネーションで、対戦相手を圧倒するのであった。その綴と綻が試合前に話をしていた。
「勝てるかな?今日の試合。強いんだよな~バランサーズ」
「フォースと共にあらんことを」
「聞けよ!それに、映画の見過ぎだろ」
「いいだろ?だって面白かったんだもん、エピソード1」
「そうみたいだな。俺も見ときゃよかったな」
「え~まだ見てないの?遅れてる~。レンタルビデオでいくらでも見れるんだよ」
「社会人は忙しいもんなんだよ。それに『見られる』だろ?ら抜き言葉は良くないぞ」
「そんなの面白ければ関係ないよ。あーあー早く見たいな~エピソード2」
「7月に公開だろ?もうちょい待てば見られるよ」
「う~ん、待ちきれない!」
綴は言葉遣いに凄くうるさく、綻はミスに対して厳しいようだ。
試合が始まると案の定この糸偏コンビが前衛で縦横無尽に活躍し、他のプレーヤーを活かしながら、自分たちも得点を決められるという有能ぶりであった。アレンジャーズのプレーは創意工夫に溢れており、そのインテリジェンスなプレースタイルは見るものを魅了するだけのものがある。
だがこの日この二人に対抗することを想定し、バランサーズはピヴォに塩皮を据え、アラとしてプレーする昴と蓮のコンビネーションで乗り切る作戦にしていた。
特にマッチアップなどは決めていないため、綴、綻の両名と流動的に対峙する。
「つっ、強いーー」
綴は昴の強行ポストプレーに押し切られ、あっさりと点を決められてしまった。昴のボディバランスはプロに匹敵するほどのものであると言え、その体躯は28歳となった今でもさほど衰えてはいない。すぐに試合が再開され、またしても昴にボールが渡る。
「あっ!このっ」
綻は抜かれた後で執拗に追いかけたのだが、昴はこの場面でも冷静にあっさりと得点を決め切った。昴の体躯は他を圧倒できるほどのキレがあり、その技能もやはりプロに匹敵するものがある。
この攻防にアレンジャーズ側が奮起し、精度が高いピヴォの繊細、重心がブレにくいフィクソの網綱、統率力に定評のあるゴレイロの組織など中心となるプレーヤーたちが試合を盛り立てた。だが、それでも昴と蓮にはある程度の余裕があった。
だが、全国常連チームのアレンジャーズがここであっさり勝たせてくれる筈もない。
綴、綻は相当に『抜ける』のが上手く、綴は『フロントカット』いわゆる表抜けで敵の前を通って攻め、綻は『バックドア』いわゆる裏抜けで敵の後ろを通って攻めることで次々にチャンスを演出していた。
そして、二人合わさると更に協力で、『ブッロク&コンティニュー』と呼ばれる技で片方がディフェンスを遮り、もう片方がディフェンスの先に抜けることによってフリーになるという連携技を駆使していた。
ベンチウォーマーたちも元高校応援団で団長の紛糾が全力で大声を出してチームの指揮を高め、そこにマネージャー絹綿のムードメーカー的な存在が加わり、その絶妙に緩い感じで皆を癒しながらもチームを鼓舞していた。
一方のバランサーズは即席コンビではあったが、レベルの高い昴のオフェンスに対し蓮はしっかり合わせることができていた。だが、蓮の体重が軽すぎて度々吹っ飛ばされることと、時折見せる昴の態度にチームメイトたちは少々思うところがあり、そのことに業を煮やした保は、昴に一言釘を刺した。
「おい、昴。今の追えばまだ防げたんじゃないか?お前なら置いつけただろ?」
「う~ん、まあそうかもね。けど、いいよ。そんなムキになっても仕方ないし」
それもまた一つの正解なのだが、保は昴に『変わってほしい』と願うのであった。
その後も試合は粛々と展開され、際どいところではあったが、バランサーズは辛くも勝利することができた。僅差ではあったが全国常連チームのアレンジャーズに勝利したことで勢いに乗れた昴たちは、更なる進化を求めて、25日のアルフレッド戦に向けて気を引き締めるのであった。
続く25日の土曜日、昴は集合時間の30分前ゆっくりと家を出て、試合が行われるテリフィックへと向かっていた。中はやはりこの日も仕事があるようで、莉子は仕事のための勉強をするからと、練習には参加しないようであった。
いつもの道を歩いていると、偶然にも通りがかった友助と出くわした。
「あっ、昴さんじゃないですか!」
「おおっ、友助!また会ったな。どこ行くんだ?」
「どこって、これからサッカーしに行くんですよ」
「そうなのか?奇遇だな。俺も今日ちょうど練習があるんだよ」
そして雑談しながら歩いていると、川の向こう側から二人を見つけたマネージャーの美奈と、その従妹の澄玲が手を振って来た。
「お~い、本郷く~ん!!」
「室井くんも~。なんだ~友達だったんだ、二人!!」
それを聞いた昴と友助は、まじまじと顔を見合わせた。
「本郷――?」
「室井――さん?」
本郷 友助。アルフレッド新潟の、エースプレーヤーである。
持ちあがった衝撃の事実に、二人は動揺を禁じ得なかった。
「本郷ってお前、アルフレッド新潟のか?」
「そうですけど、昴さんってもしかして沼津バランサーズの室井さんですか?」
「そうだよ。まさか、そんなーー」
「僕も驚きましたよ。まさか『敵同士』だったなんて」
それから4人でテリフィックまで向かい、澄玲が現在16歳で、アルフレッド新潟にマネージャーとして所属していること、美奈を起こすのに約1時間かかったことなどを話していた。そんな話をしながら4人が練習場まで辿り着くと、両チームの選手たちは既に半分ほどが到着していた。
アルフレッド新潟は青と黒の縦縞のユニフォームが豪傑なチームで、攻撃的なチーム構成でありながら、アラの二人とゴレイロでの連携に優れており、このトライアングルディフェンスは鉄壁である。また試合中はイケイケであるにも関わらず、試合の外では皆が草食系男子であるというユニークな面も併せ持っていた。
試合前、友助と昴は互いの意思を伝え合う。
「今日はせっかくの練習試合ですし、手加減なしで行きましょうね」
「ああ、望むところだ。真っ向勝負と行こうぜ!」
それから両チームアップを終え、一通りメニューを熟した後、アルフレッドボールで試合が開始された。友助のドリブルからのパスでスムーズにボールが渡ると、袴田は、その流れのまま一気に攻撃を仕掛けて来た。
マッチアップしていた蓮はかなり警戒して身構える。だが、蓮は全国的に見て実力があると言えるプレーヤーであったが、袴田の妙技の前に為す術もなく一瞬で抜き去られてしまった。
「はっ、速い!!」
袴田のこの『ロナウドチョップ』はFIFA最優秀選手賞である『バロンドール』に何度も輝いているポルトガル代表のクリスティアーノ・ロナウドが使っている技であり、踵で蹴ったボールを逆側の足の後ろに通すことで相手を躱す技である。
蓮を抜き去った袴田は少しの余裕を見せ、一瞬のうちにゴールを奪い去ってしまった。
そして、すぐさま試合が再開され、バランサーズのオフェンスとなったが、油断した甘利が友助にボールを奪われてしまった。マッチアップに不安を覚えた蓮がフォローに向かったが、友助の見せた妙技の前にあっけなく抜き去られてしまった。
「うわっ、くっーー」
友助のこの『ルーレット』は、98年FIFAワールドカップを制したフランス代表ジネディーヌ・ジダンも使っていた技で、走りながらボールを操り横に一回転することで相手を躱す技である。
アルフレッドはこの袴田 英輔と本郷 友助の『栄友コンビ』の活躍によって、地域CLにおいてほぼ無敵の活躍を見せていた。友助は更にカバーに走った昴の奮闘虚しく、いとも簡単にゴールを決めてしまった。
“クソっ。おとなしいナリして、激しい技使ってやがんな”
流石の昴も、この二人が一気に攻め込んで来てはどうにも止めようがなかった。
それにピヴォの位置からではディフェンスに間に合わないこともあり、戦況はかなり不利であった。その後も試合が続けられたが、今のバランサーズのディフェンスでは、アルフレッドのオフェンスを止めることは不可能のように思えた。
「ディフェンス、カバーしっかり!!スライド飛ばして!!」
味蕾の声出しも虚しく、この日バランサーズは、あっさりと負けてしまった。挨拶を交わしダウンを済ませて帰ろうとしたところ、昴を見つけた友助が話しかけてくれた。
「昴さん、今日はありがとうございました」
「ああ、強かったよ。アルフレッド」
「ありがとうございます。けど、結局は袴田さんの力ですからね。俺、いつか袴田さんに勝つのが夢なんです。ずっと勝てなくてーー。昴さんは夢ってあるんですか?」
「夢か――。『あった』よ」
「あったって、諦めちゃったんですか?まだ20代なのに」
「そうだよ、だってもう俺28歳だぜ。おっさんだろ?」
「う~ん。そんなことはないと思いますけど――」
「いいんだよ、これで。俺の人生なんてこんなもんだ」
「もう叶わないんですか?その夢」
「ああ、俺には無理だった。到底叶わない、儚いものだったよ」
ここまで話した時、長話に業を煮やした澄玲が友助を呼びに来た。
「分かった、今行くよ!」友助は昴の方に向き直る。
「それじゃ、昴さん。今度気が向いたら聞かせて下さいよ、その話」
「語るほどのもんでもねえよ、こんな『下らない話』」
強がらないとダメだった。大切だったと認めてしまうと、今の自分の人生を否定してしまうようで耐え難かった。
それからバランサーズの選手たちは、6月に向けて日々厳しい練習を重ねて行った。この年フットサルはその転換期を迎えており、静岡屋内サッカーリーグと呼ばれていたものが刷新され、静岡県フットサルリーグとしてリニューアルされていた。
従ってこの年は記念すべき第一回大会となり、フットサルの歴史に新たな1ページが刻まれた年でもあった。期待と不安が入り混じる中、バランサーズの選手たちは、それぞれの思いを掲げてピッチを踏みしめようとしていた。
2002年6月2日。第一回静岡県フットサルリーグ、いざ開幕!!
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第三回 https://note.com/aquarius12/n/n5c20e02a172d
