【ANAホールディングス株式会社/全日本空輸株式会社】事業化と人材育成。両軸だからこそ羽ばたくイノベーション
みなさんこんにちは。ARCH編集部です。
ARCH Toranomon Hills(以下、ARCH)が誕生してから約6年。多くの企業に参画していただく一方で、まだまだ出会えていない仲間もいると思います。そこで、「コラボレーションのはじめの1歩」となるよう、参画企業を紹介していきます。
第24回は、ANAホールディングス株式会社と全日本空輸株式会社です。ANAグループでは、航空事業を中心とした既存事業で強固な基盤を築きながら、「デジタル・デザイン・ラボ」と「変革塾」という、目的と手法が異なる2つの部署で新規事業創出を促しています。今回は、ARCH会員の冨満さん、野村さん、加藤さん(ANAホールディングス株式会社)中村さん、渡辺さん(全日本空輸株式会社)5名に、それぞれの部署での取り組みについて詳しく聞きました。
企業プロフィール
ANAホールディングス株式会社
航空事業を中心に、航空関連事業、旅行事業、商社事業などのグループ会社を擁し、国内外の航空ネットワークと顧客基盤を活かして多様な事業を展開しています。
新規事業の創出と事業化を担う「デジタル・デザイン・ラボ」や、グループ会社の人材育成を目的とした「変革塾」などの取り組みを通じて、グループ全体のイノベーションを推進。ARCHには2020年のオープン当初から参画しています。
社員の意識を変え、新規事業を生み出す。
2つの部署の存在意義
私たちがARCHに入居した当初は、グループの働き方改革やコスト削減を目的に、デジタル技術やスタートアップ、他企業との連携を通じて生産性向上や業務効率化を推進してきました。しかし新規事業創出に向けた活動を加速させるため、現在は体制を刷新。ANAホールディングス株式会社 デジタル・デザイン・ラボから6名、全日本空輸株式会社 人事部 ANA人財大学 変革塾から2名が会員として参画しています。

IT系出身で、マーケティング部門とIT部門を往復した後、2016からベンチャーキャピタルWiLに出向。その後、グループ会社ANA Xで部長職、インド新規路線開設の初代支店長、ANAグループのスタートアップavatarinでの経営サポートなど、多様な経験を積む。そのほか、ビジネスコンテストの立ち上げ、審査員を務めるだけでなく、自身もビジコンに応募・通過しスタートアップを立ち上げた経験を持つ
「デジタル・デザイン・ラボ」(ANAホールディングス株式会社)と「変革塾」(全日本空輸株式会社)は、どちらも新規事業を創出する部署ですが、目的や手法が異なります。
「デジタル・デザイン・ラボ」は、ANAグループの未来の収益源となるような事業アイデアを発掘し、数年かけて大きく育て、最終的には会社化や事業部化を目指すもの。ANAグループの社員全員から新規事業の企画を募るビジコン『Da Vinci Camp(ダヴィンチ・キャンプ)』を実施し、最終選考を通過した企画の提案者は、この部署に専任として異動します。そしてPoCによるビジネスモデルのブラッシュアップのほか、プロダクトの販売再現性や技術の有効性などを検証し、本格的な事業化のフェーズへと進んでいきます。
「変革塾」は、価値創造を通じた人財育成と組織変革を推進する組織で、中でも重要な取り組みの一つが、ANAグループ全社員を対象とした新規事業提案制度「がっつり広場」です。同制度では単年度での収益化を目指したサービス開発・商品開発を行っています。がっつり広場の企画者は、通常業務を継続しながら、勤務時間の2割をこの活動に充当。自ら考え抜き、アイデアを形にするプロセスを通じて、社員のマインドセットを根本から進化させます。人事部が主導し、個人の成長と組織の変革を同時に加速させる制度です。
一方で、新しい価値を生み出すことや、自ら考えたアイデアを提案し、それを実行できる環境をつくるという点は「デジタル・デザイン・ラボ」も「変革塾」も同じです。一般的に、大企業では既存事業への貢献が重視されますが、それだけでは今後生き残ることができません。時代が変わる中で、新しいものを生み出していく文化を育み、やりたいことを提案し、実現させるところまで持っていける流れづくりが必要なのです。
また、これらは基本的に別々の部署で運営されていますが、グループに向けた発信や応募促進は連携して行っています。ANAグループはオペレーションに携わる社員も多く、新しいものを生み出す仕事に携わる経験が少ない。まずは社内で興味を持ってもらうための火付け役としても活動しています。
ANAホールディングス株式会社
「デジタル・デザイン・ラボ」の具体的な取り組み
新規事業開発プロセスの中でも初期段階の企画・運営・伴走を行う「デジタル・デザイン・ラボ」。領域を限定せず、社員の⾃由な発想を起点にした事業案を募集する『Da Vinci Camp』では、最終審査にホールディングスの会長や 社長、CHOやCFOも審査員として参加し、トップ層で合意されます。
通過した提案者は、デジタル・デザイン・ラボへの異動が前提となるためスピード感を持って事業化を進められます。2025年度まで5期実施され、14件の提案が最終審査を通過し、PoCフェーズに進んでいます。

CAのスキルを販売する「ANA Study Fly」

CAのアイデアから生まれた「ANA Study Fly」は、現役CAやパイロット等のスキルを外販するタレントシェア事業です。客室乗務員は多い日には1日に約1,000人のお客様と接しており、相手が何を求めているかを捉えながらコミュニケーションを取ることに長けています。また、毎日違うメンバーでチームを組むので、チームビルディングやヒューマンスキルも自然と身についています。そのような強みを、ワークショップ形式の研修として企業向けに提供しています。
ほかにも、麻布台ヒルズにある入居ワーカーのための拠点Hills Houseでは、コミュニティ活性化を目的とした旅講座「Hills Trip」を実施し、会員様同士の繋がりが深まるイベントを提供しています。
もともとはコロナ禍に立ち上げた事業だったので、オンラインで空を感じてもらう講座を届けるBtoCビジネスでしたが、お客様のニーズを受けて、BtoB事業にも拡大しました。お客様の反応からブラッシュアップを重ねるうちに、業種を問わず引き合いをいただけるようになりました。今では事業として自走できる基盤が整いつつあり、より成長させるための体制を準備中です。
最近はインバウンド市場が広がる中で、ファーストクラスのおもてなしはもちろん、多言語対応もできるCAのホスピタリティを提供するサービスの検討も開始しています。今後の課題は、収益事業としてのスケール。トップラインをどこまで上げていけるかが大きなテーマです。

2015年にグループ会社の全日空商事に入社し、航空機部品の輸入販売や特殊車両リース、再生可能エネルギー事業化プロジェクトに従事。2024年度からデジタル・デザイン・ラボに異動し、『Da Vinci Camp』の企画運営と「ANA Study Fly」事業の推進を担当している
航空機の環境課題を解決するCO2回収事業
整備士出身の社員が提案し、採択された事業もあります。航空機はCO2を排出する乗り物ですから、排出されるCO2を極力減らすという課題は避けて通ることはできません。提案者の当初の構想は「航空機が飛びながらCO2を回収する機械になればいい」というものでした。そして『Da Vinci Camp』のプログラムを通じて、自社開発を進められる環境を得て、航空機を直す仕事から開発業務へ。今は福岡にラボを構えて装置の開発・研究・市場調査を行っています。
CO2の回収は、一般的にDAC(ダイレクトエアキャプチャー)という大型の装置を用いて大気中のCO2を直接回収する技術を使います。回収したCO2を地中に埋めたり、ドライアイス製造などに活用したり、カーボンクレジットとして売買するのですが、この事業では装置自体を小型化して、デスクサイズで収まるものを開発しています。既に特許取得済みで、今後は販売していくフェーズにあります。
このほかにも、人工衛星と航空機を活用し、GNSS(全球測位衛星システム)で大気中の水蒸気量を計測することで、台風や線状降水帯など生活に直結する気象現象をより正確に予測する「航空機によるGNSSデータ活用事業」を推進中です。また、未来創造室全体を見ると 「空飛ぶクルマ」を活用したエアタクシー事業、ドローン輸送事業、MaaS事業など、航空会社ならではの提案が動いています。

前職では航空機整備業に従事し、新規事業提案制度で航空機廃棄品のアップサイクル事業を提案・採択された経験を持つ。2025 年に全日本空輸株式会社にキャリア入社、同年ANAホールディングス株式会社に出向。事務局として企画・伴走支援を行いながら、主にテック系の事業をサポートしている
全日本空輸株式会社
「変革塾」の具体的な取り組み
Da Vinci Campとの違いは、「年度内の収益化」というスピード感に徹底してこだわっている点です。採択された提案者は、部署異動することなく本業を継続しながら、業務時間の2割をこのプロジェクトに充てて活動します。
私たち事務局にとっての大きな挑戦は、1年間の活動を終えた後の出口戦略です。グループ各社へ引き継ぎ、継続的な収益事業へと繋げることを常に意識し、伴走しています。

グループ会社への事業承継に成功した事例も増えてきています。その筆頭が「ビクタービル空港ツアー(飛行機の墓場ツアー)」です。
米国の砂漠に位置し、機体保管や部品リセールの拠点であるビクタービル空港(通称:飛行機の墓場)を目的地としたこのツアーは、コロナ禍で退役したANA機(ボーイング777、計22機)のその後を辿るという、航空ファンの潜在ニーズを突いた企画です。

全日本空輸株式会社に客室乗務職として入社後、国内線・国際線に乗務。コロナ禍を機に電力会社へ出向。2023年度よりCX 推進室にて新規事業の推進および新規事業提案制度の運営に従事。現在は人事部にて組織変革を推進している
社員新規事業提案制度から生まれ、現在は旅行事業を担うANA Xへ引き継がれて、今年度も定番商品としてツアーを催行しました。回を重ねるごとにリピーターのお客様も増え、今やANAグループの愛される人気商品として定着しています。

国内線の客室乗務員としてANAウイングス株式会社に入社後、コロナ禍で地域創生事業を行う会社へ出向。世界文化遺産の観光活性化プロジェクトを担当し、現地住み込みでサービスや施設設計、ブランドコンセプト策定を行うほか、研修、育成プログラム設計、採用などオペレーションの統括構築を中心に事業開発に従事。帰任後「がっつり広場」に自ら応募し、聴覚障害者向けツアー開発を提案。現在は「変革塾」の事務局メンバーとして運用、伴走を行う
飛行機マニアの整備士社員の提案から始まり、スキームも何もない未知で手探りの状態から、実現に向けてつくりあげた本ツアー。ANA、ANA X、ANAセールスアメリカ、全日空商事、米国全日空商事、そしてアメリカ・ロサンゼルスにある米国関係会社の協力のもとで、特別に実施。グループ会社や関係会社と協力関係を築くことも事業の継続に欠かせないことだと感じるプロジェクトでした。
他の会社では真似できないANAグループの強みを活かし、顧客インサイトに寄り添った旅行商品の企画は、ANAグループにとって新しい挑戦の連続。ANAグループにあるネットワークを新しい形に変えて、お客様に喜んでいただけたツアーでした。
私たちの強み / 今、求めている技術・人・企業
強みは、新規事業と人材育成を両軸でやっているからこそ、幅広い意見交換や連携ができるところ だと思います。さらに我々には、最高の航空輸送サービスを追求する中で磨かれた人財、仕組み、ノウハウ、そしてネットワークがある。
一方で、ビジネスコンテストは年に1回の実施が多く、トライアル回数が限られるため、事例が積み上がるのに時間がかかります。だからこそ、ARCHのような場でいろんな会社と「こういうことをやったら効果があった」「こういうことをやったら失敗した」という話を共有できることに価値があると思っています。
皆さんに一言
「お互いに協力して、いい形を作っていきましょう!」
一般的に会社間で連携を考えるとき、打ち合わせを重ねてもお互いに硬くなってしまいがちです。しかしARCHにいることで共通言語が生まれ、壁を取り払って会話することができる。それがこの場の良さだと感じています。

私たちビジネスコンテストを運営する側は、より自由に動ける立場です。競合ではなく、お互いに協力していい形をつくっていく。幅広く言えば、日本の全体最適をみんなでつくりあげていこうという取り組みができる。そんな魅力的なこの場所で、私たちも皆さんのお役に立てることがあれば、どんどん知見を出していきたいです。
ぜひ気軽に話しかけていただければ嬉しいですし、私たちもそういう関係性をつくっていきたいと思っています。
