見出し画像

材料力学からの変形問題の理解 -5-


まえがき

微分積分をはじめとする高等数学を踏まえて、様々な物理学に対する見方をテーマを決めて、連載形式で発信します。

これまで、物理学の中でも「質点」「剛体」の力学を主に扱いました。今回は「連続体」の力学をテーマに掲げます。

物体の運動と変形の両方を考慮する物理モデルを「連続体」と言います。変形は、物理的に作用する外力を通して物体に生じる形状変化を指します。

物理モデルとしての連続体の定義

物体(連続体)の運動と変形に起因した構造物の強度や耐久性について、定量的に理解するための学問を「材料力学」と言います。大学の機械系学科では必須の教科であり、機械や建物の構造設計では重要な学問です。


  1. 物体(連続体)の変形問題

  2. 物体の変形の力学的表現(1)

  3. 物体の変形の力学的表現(2)

  4. 変形の単軸&多軸的理解

  5. 変形の大局的分類と現象理解 →【今回】


♦️前回記事(再掲)


前回はひずみと応力の変形に対する役割の分類として「垂直成分」「せん断成分」を紹介し、それらを合わせた多軸状態の考え方を示しました。

今回は解析的な捉え方から離れて、現実の計測手順の話をします。物理学でも実験の行程は存在し、実験結果を理論の妥当性の証跡とするという手順を一般的に踏みます。

今回は材料力学で代表的な実験のひとつ「単軸引張試験」を取り上げて、応力とひずみの計測方法と計測結果の捉え方について確認します。

単軸引張試験の手順と用途

前回までに登場した「フックの法則」は、古典的な金属材料の弾性領域で成立する構成則です。ゴムや木材などの非金属材料ではまた別の構成則が存在します。

また、金属材料もヤング率は個々で異なりますし、弾性変形より先の破壊現象まで含めた特徴も千差万別です。これらを現実的に捉える手段として、実験の枠組みで「単軸引張試験」が採用されています。

一般的に、金属材料は応力が一定値を超えると、弾性領域から塑性領域に遷移します。こうした現象を「降伏」と言います。塑性領域(変形)は外力を除荷しても「永久変形」として履歴が残ります。

弾性領域から塑性領域への遷移(降伏)の意味
単軸引張試験の実態(出典:JapanForming ブログ記事

単軸引張試験は、規格で決められた試験片の両端を支持し、引張速度または荷重を制御して引き伸ばしながら、荷重または伸び量を計測します。試験から降伏を迎える際の応力(降伏応力)、降伏後の塑性変形・破壊の過程を定量的に確認します。

単軸引張試験から応力ーひずみ線図の作成するまでの行程

計測した荷重と伸び量から「応力」「ひずみ」を算出します。それぞれの値を履歴とする「応力➖ひずみ線図」を作成します。数値計算(シミュレーション)においても、こうしたデータを引用することで、計算モデルを用いる場合に比べて、実験結果との乖離を縮めることができます。

公称値から真値への変換

前述した応力とひずみは「公称応力」「公称ひずみ」の表記であり、載荷初期の長さと断面で算出されます。

一方で、現実の変形過程を考えると、試験片が荷重方向に伸びるほど、断面は収縮していきます。公称値で扱う初期値ではなく、瞬時値の寸法で算出する形を真値(真応力・真ひずみ)と言います。

まずは、公称応力と真応力の定義を示します。

  • 公称応力:$${\sigma_0=\frac{P}{A_0}}$$

  • 真応力:$${\sigma_t=\frac{P}{A}}$$

次に、公称ひずみと真ひずみの定義を示します。

  • 公称ひずみ:$${\varepsilon_0=\frac{L-L_0}{L_0}}$$

  • 真ひずみ:$${\varepsilon_t=\int_{L_0}^{L}{\frac{dl}{l}}={\rm{ln}}\bigg(\frac{L}{L_0}\bigg)}$$

有限要素法を筆頭に数値解析(シミュレーション)では、真値(真応力・真ひずみ)を利用するため、公称値を真値に変換する手順が必要です。

単軸引張試験を踏まえた公称値と真値の変換

真ひずみの定義式を次のように変形します。

$${\varepsilon_t={\rm{ln}}\bigg(\frac{L}{L_0}\bigg)={\rm{ln}}\bigg(1+\frac{L-L_0}{L_0}\bigg)={\rm{ln}}(1+\varepsilon_0)}$$

弾性領域では材料の変形に伴い、体積は増加しますが、塑性領域では体積は変わりません。

$${A_0L_0=AL}$$ → $${\frac{A_0}{A}=\frac{L}{L_0}=1+\frac{L-L_0}{L_0}=1+\varepsilon_0}$$

これを踏まえて、真応力の定義式を変形して、公称値で表します。

$${\sigma_t=\frac{P}{A}=\frac{A_0}{A}\frac{P}{A_0}=(1+\varepsilon_0)\sigma_0}$$

弾性変形に対しては、公称値と真値で差異は微小ですが、塑性変形がある程度進行すると、両者で明確な差異が発生します。

塑性領域の概要と計算モデル

弾性領域と塑性領域の最大の違いは、除荷後も変形(永久変形)が残ることです。また、塑性変形が進行すると、金属材料は変形に対する抵抗が徐々に増大します。こうした現象を「加工硬化」と言います。

例えば、針金を何度も曲げ伸ばすと、最初に比べて硬く感じられることがあります。これは、材料内部で局所的に欠陥が増加していき、相互的に変形を妨げるためです。

応力-ひずみ線図では、応力が弾性領域とは別の傾向の増加率として現れます。一般的に、加工硬化は材料の強度の向上を誘起しますが、トレードオフで延性の低下を伴います。

塑性領域(加工硬化)を表現する代表的な計算モデル

数値解析(シミュレーション)では、塑性変形の過程は単軸引張試験などの計測結果を参照することが多いですが、古典的な計算モデルを適用する場合もあります。

その代表例のひとつに「Swift硬化則モデル」があります。

$${\sigma=C(\varepsilon+a)^n}$$

ここで、$${C}$$・$${a}$$・$${n}$$は材料ごとに決まる物理定数です。

これらの計算モデルは、構造物に使用する材料や扱う物理現象の性質を踏まえて、適切に選定します。塑性変形の問題は理論背景が複雑ですので、詳細はここでは割愛します。

おわりに

今回のテーマは「材料力学」を踏まえた物体の運動と変形について。今回は応力とひずみの現実的な計測方法と、数値解析(シミュレーション)に適用するまでの過程について示しました。

単軸引張試験などの材料試験を通じて得られる応力-ひずみ線図は、材料の特徴を理解する上で重要です。これらは材料力学に留まらず、現実の構造物設計を理解するための基礎でもあります。

今回のテーマはこれで終わりです。このマガジンでは様々な物理的に問題を数学を交えて、伝えていきたいと考えています。

引き続き、よろしくお願いいたします。

-------------------------
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。この記事が、何か皆さんの未来を変えるキッカケになれたら幸いです。
-------------------------

⭐︎⭐︎⭐︎ プロフィール ⭐︎⭐︎⭐︎


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集