材料力学からの変形問題の理解 -4-
まえがき
微分積分をはじめとする高等数学を踏まえて、様々な物理学に対する見方をテーマを決めて、連載形式で発信します。
これまで、物理学の中でも「質点」や「剛体」の力学を主に扱いました。今回は「連続体」の力学をテーマに掲げます。
物体の運動と変形の両方を考慮する物理モデルを「連続体」と言います。変形は、物理的に作用する外力を通して物体に生じる形状変化を指します。
物体(連続体)の運動と変形に起因した構造物の強度や耐久性について、定量的に理解するための学問を「材料力学」と言います。大学の機械系学科では必須の教科であり、機械や建物の構造設計では重要な学問です。
物体(連続体)の変形問題
物体の変形の力学的表現(1)
物体の変形の力学的表現(2)
変形の単軸&多軸的理解 →【今回】
変形の大局的分類と現象理解
♦️前回記事(再掲)
前回は「ひずみ」と「応力」を概念として導入して、両者を紐付ける方程式として「構成則」を示しました。
今回は、ひずみと応力について深掘りします。変形の問題では主に「垂直成分」と「せん断成分」という見方があり、それらを合わせた多軸状態の見方もできます。

垂直成分とせん断成分
前回は、棒の伸縮問題を例に示しました。これは、内力が断面に対して垂直に作用します。こうした場合を「垂直成分」と言います。垂直成分は、主に物体の伸縮変形に影響を及ぼします。
一方で、ハサミで紙を切るときや、トランプを横方向へずらすときには、断面に沿って滑るような内力が発生します。こうした場合を「せん断成分」と言います。せん断応力は、主に物体のずれ変形に影響を及ぼします。
垂直応力とせん断応力の計算は、荷重(内力と対する関係)を断面積で除算するプロセスでは同様です。断面と内力の関係で使い分けます。

垂直ひずみは部材の伸縮変形(長さ)から算出し、せん断ひずみは部材のずれ変形(角度)から算出します。
$${\varepsilon=\frac{L-L_0}{L}}$$ , $${\gamma=\frac{\lambda}{L}}$$
垂直ひずみは直交座標系に対して3個あります。引張方向を「縦ひずみ」とし、それ他の直交方向を「横ひずみ」としたとき、縦ひずみ$${\varepsilon_\alpha}$$に対する横ひずみ$${\varepsilon_\beta}$$の比を「ポアソン比」と言います。
$${\nu=-\frac{\varepsilon_\beta}{\varepsilon_\alpha}}$$
ポアソン比は、材料の荷重方向への伸縮に対して、横方向に収縮・膨張する程度を表した材料定数です。

フックの法則の拡張
前回に示した、弾性領域における構成則「フックの法則」について、縦弾性係数(ヤング率)と横弾性係数を比例係数として再掲します。
$${\sigma=E\varepsilon}$$ , $${\tau=G\gamma}$$
このとき、縦弾性係数$${E}$$と横弾性係数を$${G}$$の弾性領域における関係性は次の通りに規定されます。
$${E=\frac{2G}{1+\nu}}$$
こうした法則を解析的に取り込むことで、構造物に作用する応力状態を定量的・複合的に把握します。

これまで、垂直応力とせん断応力について説明しましたが、その他の変形の形態として「曲げ」と「ねじり」があります。これらについても、応用的な視点で原理を説明できます。
曲げは引張・圧縮を合わせた垂直応力が縦方向の断面において連続的に分布した変形です。上下側で引張・圧縮の内力が発生し、中央(中立面)では内力がゼロになります。
ねじりはせん断応力が横方向の断面において連続的に分布した変形です。断面では円周方向にせん断の内力が発生し、内力の大きさは中央から部材表面に向かって増加します。

単軸応力状態と多軸応力状態
前回取り上げた棒の伸縮問題は、応力がひとつの方向だけに作用する「単軸応力状態」でした。しかし、現実の機械部品や構造物では、応力は複数方向に同時に作用します。
3次元空間で一般化される応力状態とは、下記の通り、3軸による3個の垂直応力成分と、6個のせん断応力成分で構成されます。こうした状態を「多軸応力状態」と言います。
ここで、せん断成分は6個存在しますが、回転(モーメント)のつり合い条件から、対になる成分が等しいため、独立したせん断応力は3個です。

材料力学では、構造物の内部の応力状態を複数の成分に分解し、統合的に評価します。これは物理の分析としては有用ですが、複数の成分が存在することから、具体的にどこを見れば良いのか分かりにくいです。
そこで、複雑な多軸応力状態を単軸応力状態に換算した指標として「ミーゼス応力」を導入します。
$${\bar{\sigma}=\sqrt{\frac{1}{2}\Big\{(\sigma_x-\sigma_y)^2+(\sigma_y-\sigma_z)^2+(\sigma_z-\sigma_x)^2+6(\tau_{xy}^2+\tau_{yz}^2+\tau_{zx}^2)\Big\}}}$$
式の見た目こそ複雑ですが、本質的には複数の応力成分をひとつの代表値に集約する役割を担います。有限要素法を用いた数値解析でも、最も頻繁に利用される応力指標のひとつです。
ミーゼス応力は正値のスカラー量であり、延性材料の単軸の降伏条件(弾性領域の限界を指した変形状態)と同等に比較できるため、特に強度評価に利用されます。引張と圧縮の区別がないことも特徴のひとつです。

おわりに
今回はひずみと応力の主要的分類(垂直成分とせん断成分)、多軸応力状態の一般的な記述について説明しました。
現実の構造物は複数の応力成分が同時に作用する「多軸応力状態」で考えながらも、代表的指標のひとつである「ミーゼス応力」で直感的に把握することも大切です。
物体(連続体)の変形問題の概要
物体の変形の力学的表現(1)
物体の変形の力学的表現(2)
変形の単軸&多軸的理解
変形の大局的分類と理解 →【次回】
次回はこれまで紹介したひずみや応力の考え方を踏まえて、材料力学で扱う変形の素過程から見た分類について、現実的視点も交えて確認します。
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最後まで読んで頂き、ありがとうございます。この記事が、何か皆さんの未来を変えるキッカケになれたら幸いです。
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