最高のどん底
便利な世の中になりました。インターネットで受注から納品まで可能なんですから。
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以前、印刷会社に勤めていた頃はボクも発注側。インターネットで海外の方とやり取りすることもありました。あ。ボクは日本語しか話せません。日本語の出来る担当の方とのやり取りでした。ネット回線はまだ弱かったのでインターネット電話なんて会話中にブツブツ切れてトランシーバーのようでしたね。
退職してからは受注側になったのですが、発注側と全く違い雲を掴むような話です。Cloudってそう言う意味でしょうか?
印刷会社に勤めて編集作業をしていると、時々イラストの必要があったりするので簡単なものは自分で描いたりすることもあります。でも素材集が充実していますから出る幕がないこともしばしばです。
ただ…どうせ自分で仕事をするならイラストの仕事がやりたいと思っていました。
はじめはマッチングサイトでした。特に手数料の設定もなく、仕事のマッチングのみを取り持つサイトでしたが、怪しい案件も結構あって仕事として受注出来ないレベルの報酬も多々見受けられます。仕事として請けるなら生活が出来るレベルを考えなくてはなりません。けれど、そう言う案件はなかなかないのが現実でした。
ある時「至急」の案件でイラストの仕事の募集がありました。審査があるので取りあえず課題のイラストを2点ほど制作して欲しいとのこと。ワクワクしながら制作して送信…すると依頼したいとのことでした。至急のため応募者が少なかったのか…認めてもらえたのか…と少し考えましたが、当時の生活は既にどん底。食べるものも光熱費も限界を迎えようとしていました。
「芸は身を助けるとはこのことか」と思うことにしました。
しかも市販される書籍のイラストです。店頭に並ぶとなれば否が応にも気合いも入ろうと言うものです。市販の書籍のイラストの仕事をして死ねるならそれでもいいか…とも思いました。
書籍は科学系で未来の機械について解説文を読んで想像画を描くと言うもの。メカニカル+想像+SFの作品です。ロボットアニメで育っていますからとても楽しい仕事になるだろうと思いました。課題2点は既に納品済みな訳ですが、依頼は全部で9点。残り7点を10日間程で仕上げる日程だったと思います。その時の報酬は1点につき5,000円でした。制作時間を考えれば1点につき1万円でも安い筈なのです。それにメカニカルイラストは人物画とはまた違います。高校時代に設計・製図関係を勉強していましたが、Illustratorできちんと制作したことがなかったので結構手間取りました。そして何と言っても「至急」です。出来たものから送って欲しいとのこと。
得意じゃなくても審査は通ってるわけです。あとは文字通り死にものぐるいで描くしかありません。そして残り数点になった所で簡単なトレース程度のイラスト1点の追加依頼がありました。これで合計10点です。
寝不足で朦朧としながら何とか全部納品しました。
振込は2ヶ月後。源泉徴収10%というオチがありましたが…。
結局、家族の支援を受ける形になって何とか生き延びました。
後日届けられた書籍には小さいながらボクの名前が印字されています。2冊送っていただいたので1冊は母に送り、1冊は手許に置いています。あちこちの書店で確認したら近所で置いてあるお店は1軒だけでしたが、やっぱり嬉しいものです。
「買わなくてもいいから手に取ってみて!」と家族、親戚、友達に報告しましたとも。近所のお店にはしばらくの間1冊だけ棚にありましたから、もちろん買い占めました。
もしかしたら継続依頼するかも…と言うお話でしたが結局それっきりでした。同じ出版社でまた募集が出ていたので応募しましたが、ご縁はなかったようです。
その後、ハローワークで仕事の相談にのってもらっていたら、担当の方が「こう言う仕事もあるんですよね」と小冊子の挿絵のイラストのことをおっしゃったので苦笑いしてしまいました。
「継続的にお仕事があればいいんですけどね。」
担当の方は絶句しておられましたとさ。
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