『迷探偵 沖田』第30話:三つの真実と最後の鍵
崩落する『記憶の墓場』。 物理的な世界の崩壊と、精神的な記憶の奔流が、沖田と観測者――エミの残像を飲み込んでいく。 志乃は、サーバーの爆発に巻き込まれそうになりながらも、沖田の名を叫び続けていた。
「沖田さん! 戻ってきてください! 答えはもう出たはずです!」
沖田は、観測者の瞳を真っ直ぐに見つめ、三つの鍵を一つの銀の輪から外した。 真鍮。銀。鉄。 彼はそれらを、宙に浮く観測者の「心臓」へと投げ入れた。
「真実、その一。……エミ。君はもう、一人の自分に戻らなくていい。……君の記憶は、この街の数百万の人々の『忘れな草』の中に、美しく散らばったままでいいんだ」
鍵が心臓に吸い込まれた瞬間、街中に吸い上げられていた記憶の光が、雪のように地上へと舞い戻り始めた。 人々は石化から解放され、失ったはずの感情を、一滴の涙と共に取り戻していく。
「真実、その二。……僕の役割も、ここで終わりだ。……迷探偵が、最後に辿り着いたのは、自分という名の『迷路の出口』だったよ」
サーバーの崩壊が、沖田の身体を光の粒子へと変えていく。 観測者は、安らかな表情で、沖田の胸に顔を埋めた。
「真実、その三。……志乃。……君の淹れるマンデリンは、いつだって……世界で一番……」
ドォォォォォン!!
大爆発と共に、新宿の地下深くにあった『記憶の墓場』は完全に沈黙した。 光の渦は消え、夜明け前の、濃紺の空が広がっていた。
数分後。 瓦礫の中から這い出した志乃が見つけたのは、沖田のボロボロのロングコートと、一つの銀の輪だけだった。 三つの鍵は、どこにもなかった。
しかし、志乃のポケットの中で、何かが小さく、チリン、と鳴った。 彼女が取り出したのは、見たこともない、透明な「硝子の鍵」。 そこには、沖田の筆跡で、たった一言だけ刻まれていた。
『――真実は、君の隣に。』
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