『迷探偵 沖田』第11話:継承される静寂
無機質な電子音が、規則正しいリズムで病室の空気を刻んでいた。 新宿の喧騒を遠くに逃がした高層階の特別病棟。窓の外には、あの夜の崩落が嘘であったかのように、冷ややかな冬の月が浮いている。 志乃は、ベッドの傍らで微動だにせず、眠り続ける男――沖田の横顔を見つめていた。
酸素マスクに曇る吐息。かつて饒舌に「三つの真実」を語っていた唇は、今は固く結ばれ、沈黙を貫いている。 志乃の手のひらには、沖田から託された三つの鍵があった。 真鍮、銀、鉄。 体温を吸ってわずかに温まった金属の塊は、今の彼女には、あまりにも重く感じられた。
「沖田さん……。勝手すぎますよ、あなたは」
志乃の声は、消毒液の匂いが充満する部屋に力なく吸い込まれていった。 彼女は、ジャケットのポケットから一つの銀の輪を取り出した。沖田がいつも指先で弄んでいた、あの輪だ。バラバラになった三つの鍵を、彼女は震える指先で再び一つの輪に通していく。
チリ……。
不器用な音が響く。沖田が鳴らしていた、あの複雑で優雅な旋律には程遠い、乾いた音。 その時、病室のドアが静かに、しかし威圧感を持って開かれた。入ってきたのは、久世警部補だった。彼のコートには、まだタワー崩壊時の灰が薄く残っている。
「……目覚める気配はなしか」
「脳波に異常はないそうですが、精神的な防壁を立てているようだ……と、医師は言っていました」
久世は鼻を鳴らし、沖田の足元に置かれた「三つの鍵」に視線を落とした。 「そいつを預かったのはお前か。……沖田が命を賭して守り、そしてお前に託した『呪い』だ」
「呪い……?」
「組織『クロノ・グラフィア』の最高機密。加納が琥珀に封じ、瑞穂が硝子に定着させようとした、エミという女の記憶。……それらを解凍し、再構築するためのマスターデータが、その三つの鍵の形状そのものに刻まれている」
志乃は鍵を握りしめた。金属の角が手のひらに食い込み、鋭い痛みが走る。
「真実は大体3つほど。……沖田が口にしていたあの言葉は、単なる美学じゃない。……彼自身が、三つの偽りの中で育てられた『実験体』だったからだ」
久世の言葉に、志乃の背筋に氷のような寒気が走った。 久世は一枚の古い、端が茶色く変色した写真を差し出した。 そこには、若かりし頃の沖田によく似た面差しを持つ一人の男と、その隣で幼い沖田を抱く、慈愛に満ちた微笑を浮かべる女性が写っていた。
「沖田の父親、沖田宗一朗。……彼は組織の創始者の一人であり、エミの記憶を硝子に封じ込める技術を確立した男だ」
「そんな……。じゃあ、沖田さんは、自分の父親を追って……」
「いいや。沖田が追っているのは、父親ではない。……父親が作り上げた『三つの嘘』だ」
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