研究の設計「これ、まとめといて」と言われても迷わない:型に押し込む論文作成の第一歩
「〇〇の症例リストとデータあるから、何かまとめておいてくれる?」
上司からこう言われた瞬間、
・何をアウトカムにすればいいのか
・どこまで解析すればいいのか
・そもそも論文になるのか
頭がふわっとして、とりあえず「〇〇と△△の関係」を眺め始める。どこかにp<0.05が隠れていないか探す。
この経験、臨床研究をやったことがある人なら一度はあるはずです。
多くの場合、そこで詰まってしまうという問題は能力や経験不足ではありません。
「最初に進むべき道筋が提示されていない」だけです。
このNoteでは、前回のNoteで提示した第一ステップ
「データを渡された瞬間に何から手を付けるべきか」
を論文の型という観点から整理します。
あくまで第一歩で任せられやすい後ろ向き臨床研究を想定して話していきます。
①論文は「解析」ではなく「設計」から始まる
データを前にすると、つい統計ソフトを立ち上げたくなります。
しかし本来、最初にやるべきは解析ではありません。
何を明らかにしたいか(目的)
仮説をできるだけ具体的にする(仮説)
比較群はつくるのか(Case seriesかCase-controlにするのか)
この目的と仮説、最低限のデザインが一文で言えない状態で解析を始めると、「それっぽい結果」は出ても、論文の形にはなりません。
仮説を作る段階で、主要な先行文献は概ね確認しておく。
脊椎三大ジャーナルの一つEuropean Spine JournalのInstruction for Authorsには、少し特殊な"型"が指定されています。
Important notes:
The methods section needs to start with a clear hypothesis. In case of a comparative study an alternative hypothesis should be described as well. For prospective studies a sample size calculation should be included as well as a description of the estimated difference in primary outcome.
つまりMethodの1行目は明確なHypothesisを書け、ということです。別雑誌に私が投稿した際に”仮説が明確でないからリジェクト”と言われた経験もあります。そのくらい「グループAはグループBよりも△▽に関して優れている」といったわかりやすい仮説を作って、表明してから解析を始めるのが推奨されている、ということです。
よく言われることですが、ここを明確に作っておけば、p=0.06がでてもさほど怖くありません。

②Figureから作ると、研究の輪郭が一気に固まる
文章を書く前に、まずFigureです。
Figure 1:Patient flow chart
Figure 2:評価法・測定法(Methods用)
①を終えると自然とここが作ることができます。
この2つができると、
「誰を対象に、何をどう評価した研究か」が一目で説明できるようになります。
③単変量解析は「思いつき禁止」
次に単変量解析です。
ここで重要なのは、構成を固定すること。
Table 1:介入前背景
Table 2:介入中の変数
Table 3:介入後アウトカム
重み付けやマッチングを使う場合は、前後で同じTable構成を繰り返します。
さらに、必要であれば
Figure 3:単変量の可視化(分布・相関)
最終的に構成は変更するとしても、このように外科系ではよくある介入を中心とした時系列を軸にTableを作ると、因果関係や媒介変数といった踏み込んだ内容を検証する際に、頭の中を整理しやすいです。
あと、相関係数を羅列するTableはやめましょう。Figure3に図示しましょう。
④多変量解析は「まずは王道」でいい
多変量解析は身構えがちですが、最初はシンプルで十分です。
イベントの有無 → ロジスティック回帰
連続アウトカム → 線形回帰
そこから、
Table 4:主要多変量結果
Table 5:感度分析
Figure 4:キー結果の可視化
を作ります。
数が少ない単施設の研究は、マッチングや凝った多変量は不適となることが大半なので、多変量の線形解析を主軸に回していくのが、まずはいいです。
選び方は、最初なれるまでは難しいですが、基本は過去の文献を真似するのがいいです。以下の創設は非常にコンパクトにまとまっていて学ぶにはもってこいです。NotebookLMに投げ込んで質問しましょう。

https://journals.lww.com/spinejournal/fulltext/2025/06010/statistics_for_spine_care_practitioners_and.1.aspx
医局の後輩や今の研究室の学生には、ここを教えることが多いです。
⑤追加のイベント数が少ない副次的な項目の表を作成する
Table 6:合併症など副次アウトカム
これはあまり集めていなければ必要ありませんが、データとして存在すればまとめておきましょう。結局査読後に必要となることが多いです
⑥TableとFigureは作ってから選別する
経験的に、ジャーナルの規定にかかわらずTable 5・Figure 5を超えたら整理が必要です。
もちろん内容によって柔軟に対応すべきではあるのですが、Table10個とか誰も目を通してくれませんし、Figure10個はかなりフォーカスがぶれます。
ひとまずステップ⑤までですべての型にはめたTableとFigureを作ってから、どれをメインの表として採用するか、supplementaryに回すか、を考えます。
⑦統計は“伝わる”ことが最優先
最近は解析が高度化しやすい時代です。
特にChatGPTを使いこなすほど、凝った多変量、感度分析に行きがちになります。
ただし、
過去の似た論文と同じ手法を選ぶ
分からなければたくさん論文出している人に聞く
これが一番早く、レビューアーにも優しいやり方です。雑誌や分野の文化をある程度尊重することも重要です。私も何度も痛い目をみました。
あくまで目的に沿った手法を使うというのが原則で、統計は手段です。PhDレベルのChatGPTの罠にはまらないように十分気を付けましょう。

まとめ
データを渡された時点で、このTableとFigureが頭に浮かんで作ることができれば、論文は9割終わりです。あとはこの流れを文章にするだけ。
ここまで終わっていれば、学会発表のAbstract、スライドを作成するのは超簡単です。
次回は Methods 編です。
「どこまで書けば十分で、どこから書きすぎなのか」。
Reviewerが減点しないMethodsの書き方を、実例ベースで整理します。
