「誰もあなたの苦労なんて聞きたくない」 米国で年間100本以上査読して気づいた論文執筆の迷いを消す“機械的”執筆プロセス
論文を書こうとして一行目で止まる。イントロを磨き続けて締切が迫る。私も日本にいた頃は頭から「いい文章」を先に作ろうとして、よく手が止まりました。アメリカで20本以上論文を書き、年間100本以上査読する中で変わったのは文章力というより、型に押し込む順番でした。
医学研究、もっともおおい臨床研究論文を書く上で重要なのは「型」と「走り切ること」です。私は整形外科(脊椎外科)として臨床研究をメインに従事しています。一般的な人が狙う分野トップジャーナルに載る論文を書き、査読する中で気づいたことを共有します。
1) まずは“型”に従う。
論文には「書き方」はありませんが、「書くべき枠組み」があります。STROBEガイドラインなど耳にしたことがあるかもしれませんが、めんどくさいものではなく、この示されたとおりに書いていけばいいよ、という優しい地図のようなものです。
https://www.equator-network.org/wp-content/uploads/2015/10/STROBE-Japanese.pdf
いわゆるIMRaD(Intro, Methods, Results, and Discussion)の枠とガイドラインにある小見出しで必要情報に最短で辿り着ける構造が重視されます。

2) 書く順番を逆にする。
書きなれない頃は、文献を調べながらIntroを書いて、方法論を考えながらMethodsを書き、結果が出るたびにResultsを書き足し、気持ちのこもったDiscussionの展開をする。という方法を行っていました。が、ゴールの決まっていないマラソンを走るようなもので一向にたどり着きません。
今は
解析を固める→Table/Figureのを決める→MethodsとResultsへ“書き写す”
から始めています。
この前に文献検索も終えているとベストですが、あまり完璧は目指さないほうがいいものをかけている気がします。ここまで完成すれば、アメリカの医学生に丸投げしても、まともな論文になって帰ってくることが多いです。
解析を固めるって何?という方はこちら
Methodsへの書き写す型はこちら
MethodsとResultsができてしまえば、
Resultsを必要と思わせる最短経路の論理をIntro→論理を補強する細かい事実Discussionで添える→それぞれのキーセンテンスをAbstractにコピペする。で完成です。
日本とアメリカの対比:日本だと「まずイントロやアブストラクトで気持ちを作る」流れもありますが、米国では“結果が固まっていない文章”はすぐ露呈します。だから先に表と図で論理を固定する。
表が揃うと焦りが減り、やることが見えるようになります。

3) セクション別テンプレを持つ。
IMRad各セクションにテンプレを置くと、一気に進みます。自由に書こうとすると散らかる。
参考までに以下は私のテンプレです。Methods、Resultsはこのまま小見出しにしてしまうこともよくあります。各1行並んでいるのは1パラグラフに収まるイメージです。
Introduction (Wide → Specific)
What is known
What is unknown - Literature gap
Aim - Hypothesis - What to clarify
Methods
Study design - Patients
Ethical considerations
Data
Outcome - Primary, Secondary…
Statistical analysis
General rule
Missing values
Univariate analysis
Multivariable analysis
Sensitivity analysis
Results
Background characteristics (Table 1) + Missing data
Primary outcome
Secondary outcomes / Additional analyses
Discussion(ここだけ少し自由。ただし制限あり)
Summary of findings
Comparison with previous studies(自由記載①)
why this happen(自由記載②)
Secondary outcomes(自由記載③)
Limitations
Conclusion(短く・事実ベースに戻る・断定しすぎない)
日本・アジアからの論文はDiscussionで丁寧に背景から語りがちですが不要です。もちろん論文によってパラグラフの交換・追加はもちろんあってしかるべきですが、この枠組みを外すとかなり読みにくくなってきます。
自分の創造性を発揮するのは、しいて言うならイントロとDiscussionの自由記載①-③のパラグラフのみです。
退屈なくらい整った原稿ほど、読み手に優しい。
4) 分量の“柵”を作る。読者の集中力は有限
私の目安はTable 5枚・Figure 5枚。本文はMethods 3.5、Results 2.5、Discussion 3、Intro 1くらいの比率を意識します。Abstractはジャーナル規定。
Figure1はPatient flow diagramで、Table1は患者背景で決まっています。
アジア人が書く原稿は丁寧さゆえDiscussionが膨らみやすいですが、「DiscussionがMethods+Resultsを飲み込むな」とよく言われます。

そうです。
誰も知らない人の独自の論理や手術の苦労なんか聞きたくないんです。
あなたが初めて勉強した一般論はみんな知ってるんです。
なんで?を生み出す結果の時だけ、とっておきの論理を披露しましょう。
5) ツールで“迷い”を外注する。文献管理と検索は仕組み化
文献管理はPaperpile、検索はChatGPT thinkingとElicit。
PaperpileはGoogle Docsで引用挿入と文献リスト生成ができ、共同執筆が軽くなります。
Elicitは関連論文の探索やレビュー作業の一部を支援する研究ツールとして使います。
最近はNotebookLMも「この一文どの論文にあったっけか」を探すときに使います。
【まとめ】
自由に書ける部分は意外と少ない。どんなゲームでもスポーツでも、ルールの中でプレイすることを楽しむ。ガイドラインや型は制約ではなく、書くことを示してくれる道筋です。
【次回予告案】
このあと、
Introduction
Methods
Results
Discussion
を1セクションずつ書いていきます。
実は、行単位でも「書くこと」はほぼ決まっています。
