第3話:一針(ひとはり)にのせる夢、五年の航海図
「5年後、ふたりで笑ってハンドルを握っていたいね」
リビングのテーブルで、私たちは一枚のシミュレーション結果を見つめていた。
50代。人生の折り返し地点を過ぎ、自分たちの「本当の望み」がはっきりと形を成してきた今。
5年後に700万円のキャンピングカーをキャッシュで買う。
それが私たちの共通のゴールだった。
私は、手元のメモにこれまでの歩みを書き出す。
「1. 変動費の見直し」——これはもう、私たちの得意分野だ。日用品の単価計算、格安SIMへの乗り換え。ストイックなまでに最適化された家計は、すでにこれ以上削りようのないほど磨き上げられている。
「2. 資産運用の活用」と「3. 得意のマネタイズ」——。
ここが、私たちの勝負所になる。
「ねえ、見て。三菱UFJアセットマネジメントのシミュレーション、やってみたの」

私が画面を見せると、夫が身を乗り出した。
月々7万円。
今の私たちの家計から、さらに知恵を絞って捻出する覚悟の金額だ。
それを「オール・カントリー」という世界の成長に託す。
「5年後、運用がうまくいけば約660万円になる計算よ」
「……現実味が出てきたな」
夫の言葉に力がこもる。月11.6万円をただ貯金するのは高く険しい壁に見えたけれど、資産の成長を味方につければ、目標の背中が見えてくる。

「あとは、私の頑張り次第ね」
私は、リビングの作業机に広げた布地に目を落とした。
体調と相談しながら、一針、また一針。丁寧に仕上げるハンドメイドの作品たちは、メルカリを通じて、誰かの日常を彩るために旅立っていく。
その売り上げの数百円、数千円が、未来のキャンピングカーのガソリン代になり、タイヤの一部になっていく。
外に働きに出られないもどかしさは、いつしか「家の中にいても、夢を自らの手で手繰り寄せている」という誇りに変わっていくだろう。
病弱で外に働きに出ることは叶わない。けれど、家には私の大切な居場所がある。メルカリに出品するハンドメイド作品を丁寧に仕上げること。
そして、この「700万円への挑戦」そのものをnoteに綴ること。
私が一針ずつ縫い進める時間が、そしてキーボードを叩く指先が、キャンピングカーのタイヤを、ハンドルを、少しずつ形にしていく。
「私たちはローンを組まない。自分たちのペースで、自分たちのお金で、身の丈にあった自由を買いに行こう」
5年後。
キャッシュで手に入れた真っ白なキャンピングカーに、お気に入りのハンドメイドのクッションを並べて。
「あの時、計算して良かったね」
そう言い合いながら、私たちは日本中のまだ見ぬ景色の中へと、静かに走り出すのだ。
「ねえ、5年後の最初の目的地はどこにする?」
キッチンでコーヒーを淹れる夫に声をかける。
「そうだな……。まずは湖が見える静かな場所がいいな。自分たちの力だけで辿り着いた、一番最初の景色をさ」
夫の背中越しに見える5年後の景色は、もう、ぼんやりとした幻ではない。
私たちは、自分たちの手で描いた航海図を持って、一歩ずつ、着実に。
目的地へと向かって漕ぎ出しているのだ。
この小説はノンフィクションです。
(つづく)
