第4話 : 夢への助走 ― 画面越しの決意と、一粒の重み
夜のリビング、静寂の中でノートパソコンの冷却ファンの音だけが低く響いている。
画面から放たれる青白い光が、隣に座る夫と私の顔を等しく照らし出していた。
画面に表示されているのは、楽天証券のログイン画面。
これから私たちが踏み出そうとしているのは、単なる資産運用ではない。
それは「キャンピングカーで日本中を旅する」という、未来への切符を手に入れるための冒険の始まりだった。
「……よし、銘柄はこれで間違いないね」
夫の声に頷き、私はマウスを握る手に少しだけ力を込めた。夫のNISA枠はすでに別の運用で埋まっている。
だからこそ、今回の「キャンピングカー専用積立」は、私の新NISA口座が主役となる。
私たちが選んだのは、
『楽天・プラス・オールカントリー株式インデックス・ファンド』。
全世界の成長に自分たちの夢を託す、王道の一手だ。
しかし、画面に入力した「毎月70,000円」という数字は、カーソルが点滅するたびに私の胸をざわつかせた。
毎月7万円。
それは私たちの家計にとって、決して「余剰資金」と呼べるような軽い金額ではない。
むしろ、生活の端々を削り、意識を研ぎ澄まさなければ捻出できない、大きな、大きな挑戦だ。
「設定、完了したよ」
クリックひとつ。
カチリという乾いた音が、静かな部屋に決意の合図として響いた。
来月から、私たちの銀行口座からは自動的に7万円が引かれ、夢の種へと姿を変えていく。
画面を見つめる二人の横顔には、高揚感と、それと同じくらいの緊張感が混じり合っていた。
だが、これはあくまで序章に過ぎない。
この設定を「維持」することこそが、本当の戦いなのだ。
磨き上げる「節約」という名の武器
「明日から、もっと引き締めないとね」
「ああ、でも不思議と嫌な感じはしないよ」
夫の言葉に救われる。私たちはこれまでの生活の中でも、決して浪費をしてきたわけではない。むしろ、自分たちなりに工夫を凝らして家計を守ってきた自負がある。
格安SIMへの乗り換えはもう済んでいる。
かつて大手キャリアに支払っていた高額な通信費をバッサリと切り落とした。
大手キャリア1ヶ月 6,800円
楽天モバイル1ヶ月 2,178円
差額
1ヶ月 4,622円
1年 55,464円
5年 277,320円×2人分(554,640円)
そして、生活のあらゆる決済を楽天経済圏に集約させる「ポイ活」。
貯まったポイントは、単なるおまけではなく、立派な資産の一部として循環させている。
楽天ポイントの履歴

スーパーへ行くときも、私たちは真剣だ。単に「安い」という言葉に飛びつくのではない。
スマホの電卓を叩き、グラム単価や個数あたりの単価を徹底的に比較する。
「まとめ買い」は、冷蔵庫の在庫管理とセットで行う戦略的な行動だ。
「これは必要なものなのか」
と自問自答を繰り返して、必要なものだけを必要な数だけ買うを徹底する。
そして、最も地味で、最も効果的なのが
「水筒の持参」。
外出先で何気なく買う150円のペットボトル。
それを「たかが150円」と侮るなかれ。
職場で1日2本、缶コーヒーを買うとすると1ヶ月で40本になる、40本で6,000円!
それを1年続けたら72,000円!!
5年なら360,000円!
5年で360,000円もコーヒー代に消えるのだ!
これを自家製のお茶に変えて毎日水筒を持っていくとどうだろう。
お茶パック50袋入り298円、1日1Lお茶を作るとすると1日1袋で済む。
計算すると1日6円で済むのだ。
1回のお茶を煮出す水道代0.1円と電気代22円を足して1Lのお茶を作るのに28.1円になる。
1ヶ月20日出勤すると
1ヶ月562円
1年6,744円
5年33,720円
5年で326,280円の節約になる。
私たちは、家で煮出したお茶を水筒に詰め、どこへ行くにもそれを持ち歩く。
その一口ごとに、夢への距離が数センチずつ縮まっているのだと信じて。
「一歩ずつ、ゆっくり歩いていこう。急がなくていいから、確実に」
その言葉は、自分自身に言い聞かせる呪文のようでもあった。
「そういえば、お米がもうすぐ切れそうだったな」
ふと現実に引き戻され、私は再び楽天市場の検索バーに指を走らせた。
我が家の食卓を支えるのは、いつも決まっている。
『アイリスオーヤマ 白米 和の輝き ブレンド米 10kg
画面に表示された価格は6,980円 送料無料。
そして、我が家の還元ポイントは536ポイント。
「……やっぱり、高くなったよね」
思わず独り言が漏れた。
一昔前なら、10kgのお米はもっと安く、もっと手軽に手に入った。
5,000円も出せばお釣りがくるような時代が、つい最近まであったような気がする。
当時はそれが当たり前だと思っていた。
良いお米が安く買える。そんな暮らしがいかに恵まれていて、奇跡のようなバランスの上に成り立っていたのかを、今の私たちは痛いほど理解している。
けれど、嘆いていてもお腹は膨れないし、キャンピングカーもやってこない。
この『和の輝き』というお米は、そんな物価高のご時世にあっても、味と価格のバランスが絶妙だ。炊き上がった白米は艶やかで、口に運べば確かな甘みが広がる。この美味しさとコストパフォーマンスに、私たちはどれほど助けられてきただろうか。
536ポイントの還元を確認し、購入ボタンを押す。
このポイントもまた、次回の買い物の足しになり、間接的にNISAの積立原資を支えてくれる。
パソコンを閉じると、部屋に柔らかな静寂が戻ってきた。
来月から始まる7万円の積立。
それは、私たちがこれまで積み上げてきた節約術を総動員して挑む、聖域のような予算だ。
副業も頑張らなければならないだろう。
もっと効率的な節約術も見つけたい。
けれど、隣で同じ夢を見ている夫がいれば、この険しい道も楽しい登山のようなものに思えてくる。

今夜注文した10kgのお米が届いたら、まずは真っ白なごはんを炊こう。
その湯気の向こう側には、きっと大きなキャンピングカーが停まっている。
場所は北海道の雄大な大地か、それとも波音が心地よい瀬戸内の海岸沿いか。
私たちはまだ、スタートラインに立ったばかりだ。
0から貯めるという無謀にも思える挑戦。
けれど、NISAという仕組みを使い、節約という知恵を絞り、そして「和の輝き」で心を満たしながら、私たちは歩み続ける。
「おやすみ。明日からまた、頑張ろうね」
「ああ、いい夢が見られそうだ」
消灯したリビングに残ったのは、微かな期待の温度。
キャンピングカーの購入という、私たちの人生最大にして最高のプロジェクト。
その第一歩は、今夜、静かに、けれど力強く踏み出されたのである。
この小説はノンフィクションです。
(つづく)
