夫婦の小さな旅支度 ー平滑筋肉腫と生きる、私たちの日々ー
はじめまして。52歳、専業主婦です。
子どもたちの声で満ちていた我が家は、いつの間にか静かになりました。長男と次男は社会人となり、長女は大学生。にぎやかだった食卓も、いまは少し広く感じます。夫は54歳のサラリーマン。変わらず仕事に向かう背中を見送りながら、私は「これからの時間」について考えるようになりました。
きっかけは、何気ない夜の会話でした。「定年後、どこに行こうか」夫のその一言から、私たちの中で眠っていた小さな憧れが、ゆっくりと形を持ちはじめたのです。
――キャンピングカーで旅をする暮らし。

決まった場所に縛られず、季節の匂いに誘われるままに走る。朝は見知らぬ景色の中で目を覚まし、夜は静かな星空の下で眠る。そんな日々を想像したとき、胸の奥がふっと温かくなりました。
けれど、その夢は決して軽いものではありません。現実には、資金という大きな壁があり、知識も準備も必要なのです。
それでも私たちは思いました。「いつか」ではなく、「いまから始めよう」と。
今はまだキャンピングカーはありません。代わりに、いつもの自家用車に少しだけ手を加えて、小さな“旅のかけら”を日常に取り入れてみました。ほんの少しの工夫で、見慣れた景色が違って見える瞬間があることを、私たちは知りました。
この記録は、夢に向かう途中の物語です。完成された旅ではなく、迷いながら、試しながら、それでも前に進もうとする夫婦の時間。資金作りの現実も、ささやかな楽しみも、そのまま綴っていこうと思います。
遠い未来の話ではなく、手の届く「これから」の話として。もしどこかで同じような想いを抱いている方がいたら、この物語が、そっと背中を押すものになれば嬉しいです。
さあ、まだ名前のない旅のはじまりです。
どうぞ、ゆっくりとお付き合いください。
この小説はノンフィクションです。
