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【勇者一行の”聴き“壁役やらせてもらってます。 〜壁役の私は、話を聴くたびに最強の盾を得る〜】第二十話 五人のお茶会 #創作大賞2025

「よう、なんか子綺麗になったね。皆さん」
「久しぶりに風呂に入りましたからね」

 イザークが笑みを浮かべてさっぱりとした表情で告げた。そういえば髭も伸び放題だったのを剃ったらしく懐かしい見慣れていた顔になっていた。水戸場もフェロメナもリシェも健康そうに見える。やはり食事を与えていたのもあって飢えずに済んでよかった。

 皆を部屋へと招き、各々ソファに座って側仕えが淹れた茶を飲んだ。

「……皆さん、お疲れ様でした。囚人生活」
「結果として外には出れましたが、早池さん、あなた多少運任せな運び方をしたでしょう」
「はは、ばれてら」

 水戸場の棘のある言い方に、そりゃそう思うだろうな。と納得をする。

「全部が運任せなわけじゃあないよ」
「どうだか」
「まあまあ、ミトバさん。自分たちが無事出られたのはハヤチさんのお陰なのは確かでしょう」
「でも猥談させられたのは苦痛だったけどね」
「う」
「ふふ、わたくしは楽しかったけれど?」
「そりゃアンタは嬉々として話していたからね……」

 呑気な会話に緊張が解れてゆく。懐かしいとすら思う。彼らとは長い時間を共に過ごしたわけではなかったが、それでも信用に値する人間だと言える。

 聞きたいことが。と水戸場が質問してきた。

「あなた、あの時、王が来ると分かっていたのですか?」
「うん、約束してたから」
「約束?」
「ある夜にパーティーを開くから、その時には必ず来てくれって」
「……あれがパーティーですか」

 昨日の脱獄騒ぎは私にとってはパーティーだった。以前どうすれば妃になってくれるのかと問われた際に提案したことだ。夜中であっても来てくれた辺り、私はそれなりに想われているのかもしれない。

「ただねえ。その案を飲んでくれたら妃になるのも考えてもいい。って言っちゃったんだよなあ」
「あなたが一国の王の妃とは抱腹絶倒ものですね」
「お前の喧嘩は買わねえよ。水戸場ァ」

 水戸場を煽るように舌を出すと、下品ですね。と真顔で言われる。下品なのは今に始まったことではないので気にも留めない。

「ズリネタ発表会している時点で下劣だよ」
「お、リシェからの言葉は刺さるな」
「ねえ、皆気にならない?」

 フェロメナが頬に手を当てて笑みを浮かべる。気になること? とリシェが問うと更に笑みを深めた。

「ミトバの猥談」
「あ、あー! そういえばミトバひとりだけ猥談披露しないの狡いよ! アタシたちは身を切ったのに!」
「そこは王と戦った件で相殺してください」
「相殺出来るかー!!!」

 わあわあとリシェが騒ぎ出す。水戸場に猥談をさせたいらしく、しつこく聞き出そうとするが、無事牢を出られた今わざわざ猥談を披露する必要性もないので水戸場はきっと誰にも話すことはないだろう。

 一日待って猥談聴き出してからパーティーを始めればよかったかもなあ。と少しばかりは思うが、パーティを開放する方に意識が行っていたので後悔先に立たずだ。

「ねえハヤチ」
「ん?」
「あれから王とは会ったの?」

 騒いでいたリシェが一転、不安そうな表情でそう問うてきた。あー、と濁しながら、まだ会っていないと告げる。

「向こうさんが話を飲み込むのとか、認めるのとか、そういうのは時間がかかると思う。だから、向こうから会いたいって言われない限りは会いに行くつもりはない」
「……王様はどうしてこの国に呪いをかけたの?」

 彼らにはまだ王の背景を伝えては居なかった。この機会に共有しておこうと話をする。各々茶を飲み、菓子を摘みながら私の話を聞く。

 アルベド王の出自、母は黒い竜の妖精であったこと、色階の強かった時代に妾とは名ばかりの奴隷として捧げられアルベドを産んだこと。母と過ごす時間を経て人間を恨むようになり、父王を殺し王座を手に入れたこと。その時に国に人間による呪いがかけられ、今に至る。

「自分の知っている妖精は母親だけだった。母が全てだった。だから人間を恨む母に従って、王座についた。自分は白を持って産まれたくせに、他人の恨みに乗っかって自分も人間を恨んだんだよ」
「……でも、子供には仕方のないことでしょう。子供にとっては親は全てと言っていい存在ですからね。世界を知らなければ、余計そう思い込む」
「あいつの気持ちも分からんではないがね。自分が無さすぎた。母親の傀儡になっていたのと同じようなものだ」

 だから、アガタは以前王を救って欲しいと言ったのだ。そう思っていたのはアガタだけでは無いはずなのだ。

「王座に座ってもあいつは救われなかったんだろう。……誰かが現実を突きつけるしかなかった。その役目が私だった、それだけの話だ」
「……早池さん」
「なんだ、水戸場」
「僕たち、色々ありましたね」

 以前水戸場に語ったような語り口で水戸場が話し出す。懐かしむような笑みを浮かべ。

「あなたは、この世界には必要ないと切り捨てられかけた。一方で僕は勇者だなんて囃し立てられた。あなたは、訳の分からないスキルで、最初は役に立つのかと懐疑していましたよ。けれど、あなたは幾度も僕たちを救ってくれましたね」
「……別に救おうと思って救ったわけじゃないのもあると思うけどね」
「牢に入れられたのは堪えましたよ。まさか僕が罪人と同じ扱いを受けることとなるとは、と。馬鹿げた話はさせられましたが、あなたの馬鹿げた能力で命を繋いだのは確かだ。……本当にこの世界に必要だったのは、あなただったのかもしれない」
「そこは二人揃わなきゃ救えなかった。とかにしておけ。……水戸場が居たから拾った命なんだよ。元々」

 召喚の際、水戸場が庇ってくれなければ、私は早々に死んでいたのだ。水戸場が居たから、今こうして生きていられる。それを言えば、初めて見る気恥ずかしげな表情で水戸場は笑った。私の上に飴玉がぽこぽこと降ってきた。

「そうですね。二人揃っていたから、僕たちは今ここに居られるんですね」
「そうだよ」
「牢から出してもらえたのも、ハヤチが居たからだもんね。……ところであれ何をしたの?」
「ああ、前に水戸場ギャンブルの元金にした金あったでしょ? それ拾ったところで指輪も拾ってたんだけど、それが解呪の指輪でね。それで牢のまじないを消して魔法が通るようにしたんだよ」
「……ハヤチってさあ」
「うん」
「わたあめに選ばれたり、指輪と金拾ってきたり、運がかなりいいね!?」
「あはは! それはそう思う」

 声をあげて笑う。確かに運は大層良かったのだろう。今だって良い生活をさせてもらっている。わたあめに選ばれなければ、指輪も金も拾わねば王都まで辿り着いても私も牢に入れられていたかもしれない。そもそも王都に辿り着けるかどうかも怪しいだろう。
 そう、運が良かった。それだけなのだ。私と言う人間は。
 一瞬目を瞑り息を吐いた。目を開ければ皆が私を見ていた。それに笑みを浮かべて口を開く。

「とりあえず今の目標なんだけれど」
「うん」
「開国の書状はあちらさんが持っているだろうから、私の目標としては、メルクト国にかけられた人間への呪いを解くことだ。あちらさんが、私の話をどう飲み込むか。それにかかっているね」
「……現状、我々は客です。今の扱いを見ても悪いようにはならないと思いますよ」
「そうだと良いけどね」

 茶を口に運び、落ちてきた飴玉の包みを開けて口に放る。からころと舐るとレモン味のようだった。あめっこ要る〜? と聞くと各々私の手から取ってゆく。

「ハヤチさんの出した食事には世話になりましたね」
「チキン南蛮? ってやつが美味しかった!」
「わたくしはデミグラスハンバーグが好きでしたわ」
「私の食事無しでも生きていけるか」
「僕は筑前煮が食べたいです。味の濃いのは飽きました」
「水戸場ァ、わがまま言うようになったな」
「ふん、あなたの食生活を参考に出ているのだったら、食生活改善をお勧めしますよ」
「いや、私和食が好きだから煮物系ばっか食ってたよ。元の世界では」
「……食物創造の選考基準なんだったんですか?」

 分からんね。と答えると水戸場は足を組んで何やら要求してきた。

「今度、大根が出たら譲ってください。煮物にします。だしの素と醤油やみりんもお願いします」
「無茶言うなよ」

 私だって煮物は食いたいが、聴き壁の付属スキル、食物創造は本当に謎のスキルなのだ。操れるものならばとっくに操っている。だが牢生活時代は保存の効きやすいものが出てきては居たので、状況によって出てくるものは変わるらしい。

「あなたが和食を食べたいと強く願うならば出てくるのでは?」
「面倒だなあ。あ、ズリネタ発表会してくれるなら試すけど」
「結構です」
「はえーよ」

 速攻で否定されたのでおかしくなって笑う。その後は五人でたわいもない会話をして過ごし、夕時になり四人は自室に帰って行った。ちょろちょろとそこらを彷徨いていたわたあめは、私の座るソファの隣に丸くなり、ぴちょ、と鳴いてくちばしで羽繕いを始めた。

 夕食が運ばれてきてからは、わたあめと共に食事を摂り、風呂に入り寝間着に着替えてベッドに入った。

 ベッドのシーツもカーテンも側仕えの手によって元通りとなっており綺麗なものだ。私の馬鹿げた作戦を知らなかっただろうに、文句も言わずに綺麗に正してくれた。

 枕に付いていた血に欠片も一粒も残ってはいない。まあカバーを毎日変えているにしろ、血の汚れは洗いを担当している下女たちからすれば面倒だろうと少々申し訳なかったが。

 ふう、とベッドの枕やクッションに背を預けて座る。わたあめはベッドの上を彷徨いており、近づいてきたところで手のひらを上下させるとリズムを取るように上下し出す。

 わたあめの性別は分かってはいないのだが、さえずりはしないしダンスも得意ではないようなので、元の世界の文鳥に似ている点も加味して恐らく雌なのだろう。

 飽きたのかリズムに乗るのをやめたわたあめを、ちょこちょこと撫でくりまわし、ころころと転がしていると思い切りちねられた。容赦がない。

「……わたあめ、私を選んでくれて、ありがとうね」

 呟くようにそう言えば、わたあめは、ちゅい、と鳴いてベッドの枕の上で丸くなった。

 わたあめが居たからここまで来れた。少なからず、ひとりで居た時はわたあめに救われていたところもあったのだ。心の拠り所のひとつだった。小さいけれど、暖かで、私を見る目は純粋で、否定も肯定もしないけれど、居てくれただけで嬉しかった。

 ありがとうと呟きながら撫で、ベッドサイドの明かりを消した。ベッドに潜りわたあめを撫でながら眠りについた。


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