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社会的学習と適応行動

9月がやってきました。
とはいえ、まだまだ暑いですよね。

16本目となる今回は「社会的行動」と「適応行動」がテーマです。

Twitterで繋がっている辺境の魔導士さんの社会的行動に関するツイートやnoteをきっかけに書きたくなりました。

⚠️この記事は素人の私なりに私見や考察も交えながら書いたものであり、専門家による監修を受けたものではありません


社会的学習理論とは

「人の振り見て我が振り直せ」「他山の石」「反面教師」という言葉があるように、人間は誰かを良い/悪い意味でも手本にして行動や言動を何気なく学習しています。これが社会的学習であり、他者の行動を観察・模倣することをモデリングと言います。

この理論は、1960年代にカナダ人心理学者でスタンフォード大学教授であるアルバート・バンデューラ(Albert Bandura)によって提唱されました。

学校や職場でも当たり前のように行われており、テストで良い成績を取った生徒を見習い、他の生徒達が今まで以上に勉強するようになったり、先輩社員とのOJTを通じて、仕事を覚えるといった身近な例も社会的学習です。

読者の皆さんも一度や二度は見よう見まね、見て盗んで覚えるということを経験したことがある方もいると思います。こうした社会的学習は適応行動を習得する上で重要な考え方でもあります。


【重要】適応行動の定義と原則

この言葉を初めて知る方も多いと思うので、まずは定義の確認から入ります。

適応行動の構成概念は、個人的、社会的充足に必要とされる日常的な活動における自立的行動と定義される(Sparrow, Cicchetti, & Saulnier, 2016)。

「発達障害支援に生かす 適応行動アセスメント」p1

簡単に言えば、適応行動とは自立スキル(≠能力)のことです。これは知能とは違い、時間の経過とともに獲得されるスキルのレパートリーとして概念化されています。

適応行動は、Vineland適応行動尺度という心理検査で測定・評価することができ、主にコミュニケーション・日常生活スキル・社会性・運動スキルの4つの領域から総合的な適応水準が分かります。


適応行動への理解を深めるには、以下に述べる4つの適応行動の原則を押さえることが重要です。

・適応行動は年齢に関連している。
・適応行動は社会的状況における他者からの期待によって定義される。
・適応行動は修正可能である。
・適応行動は能力ではなく、日常的な行動によって定義される。

「発達障害支援に生かす 適応行動アセスメント」p13

第一に、適応行動は年齢に関連しています。なぜなら、期待は時の経過とともに変化し、人は年齢を重ねるごとに、より多くの複雑なスキルを習得し、蓄積させていく可能性があるためです。

第二に、適応行動は社会的状況の中で評価されます。当然ですが、学校と職場では、要求されるスキルや能力も異なります。状況が変われば評価軸が変わるように、学校の先生や上司など評価者は自然な状況における行動を評価することが非常に重要です。

第三に、機能水準は様々な理由で時とともに低下または向上する可能性があるため、適応行動は修正することができます。環境の変化(異なる文化をもつ地域への移住、養子縁組や里親、入院、投獄など)や支援は適応行動の変化をもたらす可能性があります。

最後に、適応行動は能力ではなく典型的な行動によって定義されるものです。読み書き、身辺自立、家事、対人関係、コーピングなどを個人が自立して実際に行うことであり、スキルとして持っていても実際にやっていない場合は評価の対象ではありません。つまり、行動自体を評価するものです。

特に発達障害のある人は、知的な遅れがなくIQが高くても適応行動とのギャップが大きいケースが少なくありません。ASD(自閉スペクトラム症)における重大な問題は、個人の認知または能力の間と適応行動の間に、社会的障害の性質上、しばしば矛盾が生じるということです。


ASDはなぜ適応行動に難があるのか

結論から言うと、社会的学習や認知等の困難が考えられます。ASDは関係性と汎化の障害であり、社会相互作用や対人コミュニケーション、限定的な興味・関心や拘りによって、日常生活や社会生活を送る上でも支障が出ます。

ASDの初期の研究では、適応的な社会性スキルにおける本質的な弱さに焦点が当てられていました。そこでは社会性スキルが年齢相応の水準よりも低いだけでなく、認知水準と比較しても下回っていたほどです。

平均から平均以上の認知水準にある “高機能” ASDの人は、認知的な能力にもかかわらず、適応スキルにおいて、顕著に、かつ、しばしば本質的な弱さを示す傾向があり、標準偏差はIQよりも2~3下回ります(Kanne et al., 2011; Klin et al., 2007; Perry, Flanagan, Dunn Geier, & Freeman, 2009)。例えば、IQ115ならVinelandの適応行動水準は約70~85と乖離があるイメージです。

なぜこのような大きなギャップが見られるのかというと、学校の学業面では(かなり)うまくやっているからです。認知的に高いASDの人は、学力も高くテストで良い成績を収めることが多いため、親や先生が違和感を抱いていても問題に気付かず、見過ごされるケースが珍しくありません。見過ごされれば、当然本人は気づく筈がなく、かつ知る由もないので、社会的学習の機会を逃してしまうほか適応行動を習得するチャンスも失われ、認知能力とのギャップが増大してしまうことは想像に難くないでしょう。

そのため、入試や単位取得は問題なくても、グループワークの授業やサークル活動での人間関係、アルバイトや就職活動では学業のようにうまくいかず、ギャップに悩まされたり、就職難になることも少なくありません(実際、筆者の私も経験しました)。

このようなパターンは小学校時代から成績優秀で、進学校やMARCH以上の偏差値の高い大学に進学し、学業で成功した高学歴なASDの人なら特に思い当たる節があるのはないでしょうか?

当然ですが、IQと適応行動の関係は個人差が大きく、すべてに当てはまるわけではありません。


また、最近の研究では、知的障害のあるASDの人は適応行動がIQを上回るケースが報告されています。

ASDで知能が低い人や知的障害を伴っている人は、早期診断や療育の対象になりやすく、発達の初期の段階から適応行動を改善できる機会に恵まれやすいです。逆を言えば、高機能なASDは知能水準や学力の高さから診断が遅れ、療育の対象にもなりづらく、適応行動を習得する機会も少なくなりがちです。

つまり、ASDはIQが低いと適応行動の方が高く、高機能群では適応行動がIQに追いつかなくなる傾向があることが分かっています。

適応行動の改善やそれを伸ばすにあたっては、早い段階からアルバイトやインターンシップ、ボランティア活動などで経験を積み、社会的学習の機会を増やし、ロールモデル(見本)となる人を見つけるのが望ましいと筆者は考えます。また、学生のうちに必要に応じてKaienで自立訓練を受け、社会に出る前に自立スキルを養うとともに、就労に向けて必要なスキルや技能を磨くのも良いでしょう。

いわゆる動作性IQや知覚統合が低いから社会で上手くやっていけないという考え方はもはや時代遅れです。それよりまずはこの記事を読みながら、適応行動の問題を疑うのが賢明です。


参考文献一覧

・セリーン・A・ソールニア/シェリル・クライマン[著]. 黒田美保・辻井正次[監訳]『発達障害支援に生かす 適応行動アセスメント』. 金子書房. p1, 13-14, 86-88
・シンリンラボ. 臨床心理検査の現在(6)発達障害関連③Vineland-II 適応行動尺度|稲田尚子
https://shinrinlab.com/shinrikensa06/(参照 2025-08-31)


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