ギフティッドネスを理解しよう(後編)
前編では、ギフテッドの定義や発達障害との関係、非同期発達、OE(過度激動)といった基礎的なところを中心に書きました。ギフティッドネスとは知的発達の早さと激しさを併せ持ち、感情や身体能力とのギャップが増幅されるという発達の非同期性のことです。
前編の内容を踏まえて、後編はギフテッド・アダルトに焦点を当てていきたいと思います。
本題に入る前に、復習したい方は是非ご一読を推奨します。
ギフテッドと知能について
前編の最初でも触れた通り、ギフテッドとは「専門家によって特定され、優れた能力を持ち、高い成果を上げる可能性がある子どもたち」と、米国教育局 (1972)によって定義されています。
世間一般ではアインシュタインのように理数系や科学の並外れた才能の持ち主というイメージが先行し、そう思い込んでいる人は少なくありません。しかし、実際は知能構造が一般的な人々と異なるのです。
おさえておきたいこと
・ギフテッドとは、まずなにより知能のあり方の一つで、機能の仕方が普通とは違うことである。認知リソースの活性化でも、元となる脳基盤が異なるので、身体組織が予想もしない特異性を示すことになる。
・知能が量的に高いということではなく、質的に異なる知能をもっているということで、この二つはまったく同じではない!
・ギフテッドは、並外れた理解力、分析力、記憶力を持つ非常に高いレベルの知能リソースと、「そして」、鋭い感受性と感動、愛情の受容性、五感の知覚、洞察力を結びつけ、その広がりと激しさは思考の分野を占領するほどのものでもある。この二つの側面は「つねに」複雑にからみあっている。
・ギフテッドとは、人間としてのあり方の一つで、個性全体に彩りを与えるものである。
・ギフテッドは、感情がつねに爆発寸前で、思考はつねに際限がない。
ポイントを上から順に整理すると、ギフテッドとは知能のあり方の一つということです。語彙が豊富で言語能力が高い人や、数字に強い人や、想像力や創造性に富んだ人など様々なタイプがいます。そのため、「ギフテッド=高IQ」ではなく、異なる知能を持っていると言えるわけです。
OEと言われる刺激に対する強い感受性や激しさ、感情的反応の強さなどもギフテッドの特徴ですが、OEのないギフテッドも中には存在し、ギフテッド全てが強いOEを示すわけでも、5つ全てのOEが強いわけではありません。こうした激しさは、並外れた理解力、分析力、記憶力といった認知や思考、感覚にも影響を与えているのは確かです。
感覚の特異性は、ASDのある人に多く認められる発達障害特性です(Geschwind, 2009)。一方で、ASD特性のないギフテッドの人にも感覚の特異性が認められます。片桐ら(2022)によると、FSIQが130を超える知的能力が高い子どもに対して、「感覚プロファイル」を実施したところ、すべての象限(低登録、感覚探求、感覚過敏、感覚回避)において統制群を大きく上回るスコアが得られました。
成人ギフテッドの実情
ギフテッドは先天性の特性なので、当然成人(18歳以上)になっても持続します。成人の場合、自分はギフテッドではないかと疑問に思う人やそう思っている人はいますが、最も多いとケースとして考えられているのが、親が自分の子どもを通して可能性を疑うパターンです。例えば、我が子の生き方や、何らかの出来事への対応の仕方、親が過去に似たような体験をした時の感覚など。また、他人からの指摘をきっかけに自覚し始める人もいます。
筆者の印象もあるのですが、最近はギフテッドが以前より広く認知されるようになったことにより、ギフテッドを自認している人々を見かけます。私もかつてはその一人でした。大学2年生(当時20歳)だった頃、Wikipediaをはじめ色々と関連情報を調べているうちに、自ら思い当たる要素の多さに気づき、ギフテッドの可能性を疑っていました。2018年に受検したWAIS-IVにおいても、ギフテッドの認知的特徴(例:GAI>CPI)と合致する要素が見られ、周りからも「ギフテッドらしい」といったような評価や同様の指摘を受けたこともあります。これらを踏まえて自己理解を深め、後に民間団体で認定を受けました。
ギフテッドの判断力は知的能力より未発達であることが多いです。非同期発達による実行機能と知的能力の非同期性により、実行機能の発達が知的能力の発達よりも遅れることが珍しくありません。年齢とともにそのギャップは小さくなりますが、大抵は20代半ば頃までに成人ギフテッドの判断力は知的能力に追いつきます。しかし、あらゆる人がそうなるわけではなく、非常に高い知的能力を持つ一方で判断力が乏しいままの成人ギフテッドも存在します。
2025年9月現在(執筆時点)日本でギフテッドや2Eの社会人の実態についての調査研究は、北海道教育大学の研究によってインタビュー形式で行われているようです(ただし、サンプルは限定的ですが…)。
また、発達障害者に特化した人材紹介サービス業で有名なKaienでは、過去に2Eと思われる人が就労移行支援に、多く来ていたようです。実際にどのくらいの割合でそのような人達が来ていたのかは分かりませんが、今後もKaienのような就労移行支援を「大人のギフテッド」であろう人が利用するケースが増加する可能性が考えられます。
ギフテッドと適応行動
何かと才能やIQの高さに刮目しがちなギフテッドですが、認知能力と適応行動に有意な差が見られるのもギフテッドの特徴です。2016~2017年頃に作新学院大学(当時)で行われた知的ギフテッド児15名を対象とした研究では、WISC-IVの平均FSIQが129.5と高い水準だったことに対し、Vineland-II適応行動尺度の適応行動総合点は101.8と平均的な水準という研究結果が出ています。知的水準の高い知的ギフテッド群においても、日常生活上の問題を示していることが分かります。(以下のリンクから論文が読めます)
ギフテッドの子ども達は知的好奇心の強さから、大人との関わりや大人向けの情報を好み、早くから言語能力が発達し、適応行動との差が大きくなってしまうものと考えられます。
成人すると判断能力が知的能力に追いつくのと同様に、成熟の過程で適応行動も改善されると考えられますが、非同期発達である以上、成人しても認知能力と適応行動のギャップが大きい状態が持続し、多かれ少なかれ日常生活上においても何らかの問題が生じる可能性はあるでしょう。
WAISにおける成人ギフテッドの実態
2024年9月にアメリカで最新版WAIS-5が出版されました。もちろん、最新バージョンの5でも知的ギフテッド群の標準化データがあります。以下のリンクにある動画(7:56~10:22辺り)を視聴すると、実際のデータが確認できます。
結局、言語理解(VCI)が最も高く、処理速度(PSI)が最も低いパターンは変わりません。また、知覚推理(PRI)は視空間(VSI)と流動性推理(FRI)に分離しており、VCIに次いで高いことが報告されています。また、5から追加されたNMI(非運動指標?)という新指標の平均値が一般知的能力を代表するGAIと殆ど同値なのも興味深い点です。
ウェクスラー式知能検査はデータ収集としても優秀なツールですが、ギフティッドネスの判断やラベリングに使用するのは危険です。どんなに新しいバージョンに改訂され、検査の精度が向上しても限界はあります。認知能力だけでなく、創造性、リーダーシップ、芸術的才能、身体能力の高さなどにも目を向けましょう。
ここ1年で数百人にWAIS結果を見せてもらいましたが、凹凸差が30とか50とかあっても、大きな困り感なく社会人してる方、結構たくさんいます🙏
— Mai |ギフテッド&2E教育の人✏️ (@MAI_gifted) February 23, 2023
困り感は、環境との相性や本人の受け止め方にも大きく左右されるので、必ずしも「凹凸と困り感の大きさが比例する」訳ではないのだな、と改めて感じます。
終わりに
成人ギフテッドの情報は海外ですらまだまだ少ないのが現状です。私が手元に持っている書籍や過去の研究・知見等をもとに書きましたが、根拠が弱いところもあり、色々と腑に落ちない部分もあるかと思います。成人ギフテッドの実態が詳しく書かれた文献や研究などがありましたら、是非コメントでご紹介お願いします。
参考文献一覧
・ジャンヌ・シオー=ファクシャン(著) 鳥取絹子(訳)『大人のギフテッド 高知能なのになぜ生きづらいのか?』. 筑摩書房. p21, 122-125
・小倉 正義/片桐 正敏 編著. 『特別支援教育のはざまにいる子どもたち ―ギフテッド・2E・境界知能』. 金子書房. p57-58
・J.T.ウェブ,E.R.アメンド,P.ベルジャン,N.E.ウェブ,M.クズジャナキス,F.R.オレンチャック,J.ゴース(著) 角谷 詩織/榊原 洋一(監訳), 小保方 晶子, 山本 隆一郎, 井上 久祥, 知久 麻衣(訳)『ギフティッド その誤診と重複診断 心理・医療・教育の現場から』. 北大路書房. p45-46
